テラーノベル
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静けさが、全てを包んでいた。
耳を澄ましても、何の音もしない。
動くものも、感じる風もない。
それは、“ないこ”が落ちた意識の底――深層。
ないこ(心の声): ……ここは……どこ……?
僕は……なに……?
自分の輪郭が、曖昧になっていく。
身体の感覚がない。心の形も、声の在り処も、分からない。
ただ、“何か”が漂っている。
視界はぼんやりと霞み、
まるで水の中にいるような重さと静けさ。
ないこ(心の声): 僕は……誰かだったはずなのに。
名前が、あった。居場所が、あった。
……それすら、もう思い出せない。
遠くのほうで、誰かが笑っている気がする。
自分の声に、よく似た笑い声。
それは、外の世界で“ないこ”として生きている闇ないこの声だった。
闇ないこ(遠くの声): ねえ、ほんとに今日の動画めっちゃ良かったよね〜!
闇ないこ(別の声): え〜、それな!最近のないこ、表情も安定してるし!
ないこ(心の声): ……僕、の……こと?
“自分”が“自分”として扱われているのに、
そこにあるのは――自分じゃない。
ないこ: 僕はここにいるのに……
小さな声が、意識の底に滲む。
その声は、かすかに波紋を生んだ。
どこかで、“深層”の底に響いたような音。
……ぴちゃ。……ぴちゃ。
まるで、誰かが“沈んできている”。
ないこ(心の声): ……だれ……?
闇の中、輪郭を持たない存在が、ひとつ、ふたつ――こちらに近づいてくる。
???: おいで、ないこ。
???: もう、ひとりじゃない。
その声には聞き覚えがなかった。
けれど、どこか懐かしい温度があった。
ないこ: ……僕を……呼んでる?
しかし、その瞬間。
闇ないこの声が、深層を切り裂くように響いた。
闇ないこ(鋭く): 戻らないで。
君は、もう終わった。
僕が君を“演じて”いる限り、誰も気づかない。
誰も、君を必要としない。
ないこ: ……それでも、僕は――
わずかな光が、深層の闇を照らした。
まるで、失ったはずの“意志”が、まだ残っていたかのように。
ないこ: 僕は、僕を……取り戻す。
まだ声にならない祈り。
けれどその想いは、静かに、深層の水面に揺れを起こしていた。
次回:「第九話:目覚めの兆し」へ続く。
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