テラーノベル
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ないこ: 僕は……僕を取り戻す。
その心の声は、闇に溺れた深層で、ひとしずくの光となって揺れた。
ゆら、ゆら――波紋が広がっていく。
ないこ(心の声): まだ、ここにいる……まだ、終わってない。
たとえ誰も気づかなくても、僕だけは、僕の存在を見捨てない。
その光は次第に膨らみ、
“記憶”の断片を引き寄せてくる。
――笑いあった配信。
――歌で繋がった声。
――5人と一緒に過ごした、何気ない日々。
ないこ(心の声): そうだ、みんながいた。
りうらくん、いむくん、初兎くん、いふくん、悠佑くん……
あの時間が、確かに僕を作っていた。
深層の闇が、わずかにざわめく。
その波紋に呼応するように、遠くからまた“誰か”の気配が近づいてくる。
???(柔らかな声): 目を閉じるな、ないこ。
君はまだ、“名前”を持っている。
ないこ: ……誰……?
???: 僕は、かつての“君”だった存在。
ここで朽ちて、名前を忘れた、“心の層”。
ないこ: ……僕の、なかの……?
???: そう。“本当のないこ”を消し去るために、
闇ないこはすべての記憶と声を沈めようとした。
でも――君の“意志”だけは、沈まなかった。
ないこの中に、ひと筋の力が戻ってくる。
意志が、体の輪郭を形作り始める。
そして、深層の空間に、うっすらと“鏡”のような膜が現れる。
その向こうには、闇ないこがいた。
今日も動画収録を終え、鏡の前でふと立ち止まる。
闇ないこ: ……ん?
……今、呼ばれた気が――
その瞬間、鏡の中のないこと、外の闇ないこの視線が交差する。
ないこ: 僕は、ここにいる。
声は届かない。
でも、“目”が合った。
闇ないこ(表情が歪む): ……まさか……君が……
わずかに、彼の笑顔が崩れた。
完璧に作られた“仮面”に、細く小さなひびが入る。
ないこ: 戻る。
僕は僕の手で、僕を取り戻す。
誰かじゃない――“僕自身”の声で、また生きる。
その言葉が、深層の空間に力を与える。
光はさらに広がり、暗闇を押し返していく。
ないこの身体が、ゆっくりと“感覚”を取り戻し始めた。
次回:「第十話:崩れる仮面」へ続く。
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