第7話(最終話):命を診るということ
🕯️ シーン1:静けさの中で
街に静けさが戻った朝、碧診区の診察室は珍しく誰の声もない。
ユレイは白衣のまま、窓から光を受ける杭を見つめていた。
その隣ではメディすずかが端末を片手に、静かに記録を整理している。
「都市の共鳴指数、安定継続中。すべての杭が平常律動です」
ユレイは目を閉じて、小さくつぶやいた。
「……治すことは、命の音を聴くことだ。俺は、ただそれを聴いてるだけなんだ」
📚 シーン2:記録された記憶たち
ナミコが処方室から、碧色のカードケースを持ってくる。
「これまでの患者の処方コードと、記憶の断片……みんな、ちゃんと残ってるよ」
メディすずかがその記録を杭に重ね、都市中枢の記録杭へリンクする。
《LINK=ALL_TRACE》《FRACTAL_MEMORY=URBAN_CORE》《SAVE》
杭が、心音のようなリズムで淡く響いた。
🌱 シーン3:命が街になる
外では、フラクタル街路に子供たちが遊び、タエコの調理した軽食を手に笑う姿も見える。
ユレイは玄関前に立ち、ゆっくりと空を見上げた。
「この街には、名前のない命も、言葉にならなかった想いも、全部、残ってる。……だから、俺たちはこれからも診る」
ナミコが笑いながら背後から声をかける。
「患者ってさ、生きるって決めてここに来てるんやもんな」
ユレイも口元をほぐして答えた。
「……ああ。その覚悟に、ちゃんと応えるのが俺たちの仕事だ」
🤍 シーン4:碧診区の今日と明日
診療室の天井にある記録ホログラムは、これまで診てきた患者たちの「ありがとう」の記憶を、そっと再生していた。
「タエコさんのスープ、おいしかった」 「ナミコちゃん、また作ってね」 「すずかAIの声、安心した」
その声のひとつひとつに、碧素の光が小さく応える。
ユレイはその様子を見届けると、白衣の胸ポケットにメモを仕舞った。
「また次の命を、診に行こう」
命とは、記録ではなく、音のようなもの。
それを静かに聴いて、触れて、繋げる。
それが碧診区という場所。
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