テラーノベル
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某Web小説サイト、およびアプリ。その名から、主に書籍化することとなった作品は多くが「なろう系」と呼ばれる小説。
基本的には異世界ものであることがほとんどであり、大雑把に説明するならば、死んで転生した先で最強になったりほのぼのライフが待っていたりヒロインたちとイチャコラハーレム生活を送ったり、そしてはたまた悪役令嬢に成り代わったりする。
言わばご都合主義、設定が多分に入ったジャンル。
モノローグ調で回りくどいセリフ、クセの強い言い回しも多いことから、好き嫌いがはっきり分かれるこのオタクカルチャーだが。
もしも今ここでこの物語を開いた貴方が、トラックやら殺人鬼やらと出くわし、そして異世界転生をし____殺虫剤ひとつで敵と戦え、などと言われたら、どうする?
さぁ、シンキングタイム。
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「なんて現実逃避したって意味がない…!!」
シンキングタイム?0だよ、それでもコンマ数秒と言われたほうがまだ救いようがあるよ。
辺り一面目のくらむような鮮やかな深緑と茶色で覆われた、恐らくは森林の中。
「こちとらこの世から一匹残らず駆逐すべき忌々しいゴミの退治で忙しかったってのに」
生きた化石、もといGと一世一代のバトルを繰り広げていただけで突如としてこんな場所に召喚されるなど、一体どんな罪を犯したらこんな目に遭わされるのだろうと今すぐにでも神を問い詰めたい。
いるならば、の話だが。
悶々としていた私のポケットから転がり落ちる細長いアルミ製のそれ。
「そして所持アイテムはこれだけか……」
先ほどまでGをバッタバッタと薙ぎ倒していく殺戮兵器として私の相棒を務めていた、そして現在、本当に私の唯一の相棒となってしまった殺虫剤(消費期限切れ)。
Gの軍隊が一丸となって私の城を攻め落とそうと突撃してきたことでパニックになった拍子に、間違えて使用してしまったもの。
近所にある商店のおじいちゃんからもらったものなので捨てるのも勿体なく、とりあえず取っておいたのだが。
「今まで使ってきたやつより効き目が良かったから調子に乗ってたらこうだ…」
突然、間違いなく殺虫剤の本来のものとは違う白い煙が出てきた。
そして目を開けたら鬱蒼とした森林の中にいた。
飾り気のない言葉で申し訳ないが、事実、飾るほど複雑な工程があるわけでもないようなことである。
「私、夢見てんのかな……違う?そうだったりしない?」
圧倒的弱小人間の部類に入る私は、運動能力皆無ゆえにその真価を頭で発揮することしかできない。
というかそれすら怪しい。
精神的な強さも持ち合わせていないことは現実逃避をしている時点で十分証明済みだろうと思う。
缶のそこで頭を叩いてみたり、ペチペチと両頬を自分でビンタしてみたり。
「痛いだけだった…」
意味のないことをグズグズやっていても仕方ないってものだ。
やっとの思いで立ち上がり、慎重に歩みを進める。
現在、私は靴らしい靴も履けておらず、完全なる裸足なのだ。
この森は蒸し暑いだけでなく、四方八方から動物の鳴き声らしき音も聞こえてくる。
今この場で下手に動けば早い段階で死んでしまうことは重々承知の上で、それでも私には動かねばならない理由があった。
山よりも高く、海よりも深い理由が。
「………おなかすいた」
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「私は食べ物じゃありません骨だけで上手くないですごめんなさいごめんなさいごめんなさ」
足の裏に感じる痛みを必死に耐え、走る。
生きていなければご飯も食べられない。
学ぶことだって、眠ることだってできない。
後ろから追いかけてくるのは、それはそれは巨大な生き物___猪と猿が融合したような何とも禍々しい見た目の生き物。
それが轟音を鳴らし、甲高い声でキャーキャーと叫びながら追いかけてくる。
「後ろは見ちゃダメ……絶対見ちゃダメだ!!」
この時点で、痛みがないなら食べられても良いと考えてしまう自分にはほとほと愛想が尽きる。
学校へまともに通えていた頃でさえ周囲をたくさん振り回し、そして居場所を失ってからも無自覚に他者を傷つけるような真似をした。
曲がったことが嫌いだった私。
正解を選ばなければと、嫌に固執していた私。
これはもしかしたら、神が私にいつか与えるつもりだった罰ではないのだろうか。
「…ははっ………だとしても、ちょっとこれは……やりすぎじゃない?」
脇腹が痛い。
喉がひんやりして痛い。
頭が痛い。
目頭が熱い。
今ここで走るのをやめれば、きっと私は食われるのかもしれない。
そうじゃなくともその鋭い牙で腹を裂かれるのかもしれない。
それでもいいじゃないか、終われるのなら。
全てをなかったことにできるのなら。
「………」
徐々に、スピードが落ちていく。
後ろの巨大モンスターも、それに従って動きを緩やかにした。
足の裏がヌメヌメして気持ち悪い。
スピードを完全に落とすと、一度大きく深呼吸をして振り返った。
見上げるだけで足がすくんでしまうほどの大きさのモンスターが、こちらを覗いてくる。
「……死ぬなら、最後にこいつにも活躍させてやろうか」
ポケットの中に強く押し込んでいたスプレーボトルを取り出す。
銀色の、何も描かれていない無地の表面をなぞり、そして_____噴射した。
『ギャ……ギャッ、ギャ……ギャアアアアア!!!!』
「………はい?」
転生前のとは違い、ちゃんとした殺虫剤本来の半透明なそれがモンスターの足に当たった。
ボゥアッという、おおよそRPGゲームでしか聞いたことのないような音と共に、モンスターの足が焼け焦げて切断された。
切断された???
「……威力、5倍増し?」
片足を失ったモンスターが木々を押し倒し、そして暴れる。
その振動に地面が揺らいで立つこともできなくなった私はその場にへたり込んだ。
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佐藤あや、16歳、冴えないJK。
これから待ち受ける汗水流すような、もしくは血反吐垂らすような難関を乗り越え、異世界攻略、頑張ります!(泣)
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