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それから二週間が経ち、シャーロットはギルバートが住むタウンハウスへ赴いた。
先方から【いきなり嫁ぐのは気の毒だから、婚前に顔合わせを】と気遣いをもらったのだ。
シャーロットはアイボリーのペチコートに百合柄のヴァトー・プリーツを着て、ハーフアップにした髪に白い花簪を挿した。
百合柄を選んだのは、「あなた色に染まる」という意味を込めている。
御者の手を取り踏み台から降りると、目の前には立派な城がそびていた。
ブラッドワース家は、国王軍にも匹敵する軍事力を持つ公爵家だ。
それほどの権力があるからか、タウンハウスも見事なものだ。
一般的に貴族のタウンハウスと言えば、王都の中心部にあるがゆえに敷地面積が狭い。
だがブラッドワース邸は広い庭を敷地に持つ、城のような外観を持つ。
「アルバーン伯爵令嬢シャーロット様。お待ちしておりました」
城を見上げて呆けていたシャーロットは、男性に声を掛けられてハッと我に返る。
玄関前には家令をはじめ、使用人たちが勢揃いしていた。
「お気遣いありがとう」
シャーロットはねぎらいの言葉をかけ、なるべく優雅に見えるよう歩を進める。
使用人がずらりと左右に並ぶ奥――、中央に背の高い男性がいる。
(あ……)
「この人だ」と理解した瞬間、胸が高鳴った。
シャーロットは、ニコッと微笑みカーテシーした。
「このたびはお招き感謝いたします。アルバーン伯爵家の長女シャーロット、ご縁により閣下にご挨拶に参りました」
優雅にお辞儀をして顔を上げると、使用人からは、女主人となる彼女を歓迎する雰囲気が窺える。
しかしギルバートはニコリともせず、踵を返す。
「遠路はるばるご苦労。中に入って話をしよう」
ねぎらいの言葉は掛けられたが、実に簡潔だ。
(お話する機会を重ねる内に、閣下の事を知っていくしかないわ。だって本当に怖い方なら、ねぎらわず無視しただろうし、わざわざ出迎えない)
そっけない態度をとられて少し落ち込んだが、シャーロットはすぐに自分を励ました。
(大丈夫。私、結構図太いから)
もう一度自分に言い聞かせると、シャーロットはにっこり微笑んだ。
「お気遣いありがとうございます」
自分の笑顔が魅力的かは分からないが、昔から「笑顔は魅力二割増し」と言われている。
笑いかけたからといって、素直に笑顔を向けてくれる人ではないのは分かっている。
#独占欲
#ワンナイトラブ
だがこれから夫婦生活を送るにあたって、長期的に接していけば、きっと彼の長所も分かるはずだ。
そう思えば、特に落胆する必要もないと思った。
**
玄関ホールの天井にあるフレスコ画に目を奪われている間に、ギルバートはどんどん奥へ行ってしまう。
慌ててシャーロットは彼のあとを追い、大階段を上がって二階の廊下を進んだ。
ギルバートは二階の一室の前で足を止め、家令が開けたドアの向こうを示す。
「ここが応接室だ。いまメイドが茶を用意する」
応接室には大きな暖炉があり、壁には温かな空気が逃げないように、精緻な模様が施されたタペストリーが掛けられてあった。
天井からはシャンデリアが下がり、窓はトレーリーによって美しく飾られている。
大階段の壁には見事なステンドグラスがあったし、本当にこの屋敷は美しい。
屋敷の主であるギルバートは、黒地に黒い柄の入ったジュストコールを着ている。
数あるあだ名の中にも〝黒〟が入っている通り、基本的に黒い服が好きなのだろう。
「改めまして、お招きありがとうございます」
勧められるままにソファに腰かけたシャーロットは、もう一度頭を下げる。
今度こそ何か返事らしい返事があるかと思っていたが、ギルバートはしばらく見つめ返してくるだけだ。
「……あの……?」
目を瞬かせて小首を傾げると、彼は静かに溜め息をついた。
「まさか君のような若い娘が、私の花嫁になるとはな」
いかにも「望んでいない」という言い方に、シャーロットはいささか傷ついた。