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私がそんな顔させてるんだ……
罪悪感。やるせなさ。それら全てがドッと押し寄せてきて、私は抵抗をする気が失せた。リースが必死に私に訴えかけてきている。彼の思いから目を逸らそうとしてしまった数秒前の自分を殴りたいくらいには。
「見苦しいところは魅せたくないと思っていた……だが、逃げられるのは悲しい。エトワール……俺から、逃げないで欲しい」
「リース」
彼にだってプライドがあるわけで、そのプライドをへし折ろうとかも考えていないし、格好いいままでいて欲しい。それは、自分のエゴだって分かっているんだけど、でも……
リースとこのままいたら、まずいんじゃないか、バレたら本当にまずいんじゃないかって頭の中で警告音が鳴り響く。一緒にいたい気持ちもありながら、また周りに冷たい目で見られるのも、追放したのに何でいる、この悪女が! とか言われるのも耐えられない。
保身と、リースと痛い気持ちがぐちゃぐちゃになってままならなかった。
そんな風に攻防戦を繰り広げていれば、トンと、私の背後に紅蓮が降り立った。
「エトワール……と、皇太子殿下か」
「アルベド・レイ……そうか、やはり、そうなんだな」
「リース?」
リースは一人納得したように頷いて私を見た。別に軽蔑とか、寂しい目をしていたわけじゃなくて、少しだけ安心したような顔。今まで、アルベドが絡んだことで、そんな顔したことなかったのに……と、思いながら、私はリースを見れば、彼はほんの少しだけ、ルビーの瞳を揺らしていた。
「お前の護衛……から、聞いていたんだ。アルベド・レイと出ていったと。彼がエトワールのことを守ってくれているのではないかと」
「グランツが」
結局、グランツはラヴァインの……ラヴィンに化けていたっていうことを、リースに報告したんだ、知ることが出来た。まあ、隠しておく必要ないし、リースも、多分アルベドの方が信頼できたのだろう。そう思ったら、リースがアルベドに敵意を向ける必要性を感じないわけで。
元護衛、っていわなかったところ、リースも私のことを気にしているんだろう。
今の私と、リースの関係って曖昧というか、よくないものだから、どんな風に接して言い方外に分からないんだ。だから、リースも、こちらの出を伺っている。そこまで気にする必要ない、なんていえないのが、あれだけど。
「ああ……無事で何よりだ」
「リース……」
リースは、ダズリング伯爵家に身を潜めていたこととか知っているのだろうか。聞いて、墓穴を掘るのも嫌だし。でも、リースが誰かにバラすってことも考えにくい。
私の中でリースへの思いが薄れたとかそう言うのはないけれど、彼が遠い存在になってしまったのは、何となく感じていた。リースもずっとこんな感じだったのかなって、ようやく今になって、彼がずっと片思いを続けてきた理由というか気持ちが、分かるようになった。
こんな風に、思い続けても届かないものって辛いんだなと。
アルベドを交え、話し合いが始まるのかと思ったが、私も、リースも、アルベドも何も話さない。何から話して良いのか分からなかったから。
けれど、そんな沈黙を破るように、アルベドが口を開いた。
「で、皇太子殿下は、エトワールを引き止めて何がしたいんだよ」
鋭い視線と、言葉がリースを貫いた。アルベドからしたら、婚約者がいるのに、元恋人……じゃないけど、そういう関係の私を引き止める理由が分からないといいたいのだろう。理不尽というか、考えが甘いとか、そう言うのをいいたいんだろうと、アルベドを見て思う。彼は彼で、私を守ろうとしてくれているのが伝わって、口を挟むことが出来なかった。
だから、私はリースの言葉を待った。彼が何て言うのか、私に何を言いたいのか。気になったから。
リースは少し考えた後、唇をギュッと噛んで、私の方を見た。いいたいけど、つっかえて出ないみたいな。彼が、そんな風に考え込んでいるのは珍しいと思った。リースはどちらかというと、すぐに答えを出すタイプだったから。
(何か、言えない事情があるとか?)
だとしたら、私関係な気がする。自惚れとか思われたら嫌だけど、私を傷付けないために……とか、な気がするから。無理に聞き出すのは悪いかな、と思って。
私は、ずっと黙ったままの、リースを見つめながら、アルベドの服を引っ張った。それに気づいてか、アルベドは「どうする?」と私に話し掛けてくる。
どうする、とは、ここから逃げるべきか、ということだろう。逃げて何になると言われたらその通りだし、何のために追いかけてきたのか分からなくなる。なら、追いかけた理由について問おうかと思った。リースがなにもいってくれないのなら。
「リース、もしかして、フィーバス卿の元にいこうとしていたの?」
「何故それを?いや……そうか、ここに来る理由となんて知れているからな。エトワールも、フィーバス卿に用があったのか」
「質問を質問で返さないでよ。用があったといえば、うん、まあ……」
ちらりと、アルベドを見て、何処までいって良いものなのかと目で聞く。アルベドは肩をすくめるばかりで、私の欲しい答えをくれはしなかった。いおうが、言わまいが、リースなら同じと思ったんだろう。アルベドもそれなりに、リースに対して信用の心があるンだろう。
私も、リースが口はずしする……って考えられないし。てか、この情報をいったところで、彼らに有利不利を与えるものでもないし。
「で、リースは何でここに来たの?」
「フィーバス卿の力を借りようと……議会で決まったんだ。頭の固い頑固な老人の話だ。聞き流してもよかったんだが……」
「帝国が何かしようとしているってこと?」
「さあな。俺も、詳しいことは知らない。ただ、陛下の命令だ。フィーバス卿に協力を仰げと。それだけで、理解できるわけないのにな」
と、リースはうんざりしたように言う。
確かに、今の説明を聞いていても、何も分からなかった。リースは、ただ協力を仰げといわれ、ここに来たと言うことだろうか。そんな理由でいったら、アルベドがいったフィーバス卿のキャラクター像からして、協力なんてしてもらえないんじゃないかと。
(陛下が、リースに対して何か言えない理由がある?)
きっと、皇帝陛下はリースのことを信頼していない。そして、皇帝の後ろにきっと誰かいる。それが、エトワール・ヴィアラッテア何だろう。でも、彼女はどうやって皇帝につけいったのだろうか。皇帝は、私のことを、悪だと、聖女じゃないといったのに。
どうやったら、エトワール・ヴィアラッテアを信用するまでに至るのか。
(洗脳……とか、それが一番考えられるけど……)
問題はそこじゃないけど。
まあ、まず言えることは、アルベドの見立てはあっていたということ。リースが、フィーバス卿を訪ねるだろうっていうことに対しては。中身がすっかすかだったけどね。
「エトワールも、何かあってきたんだろう。でなければ、あのフィーバス卿に会おうとは誰も思わない」
「えっ、リースは会ったことあるの?」
「一応、皇太子だからな」
と、リースはこっそりと教えてくれた。彼が転生者であることも、私が転生者であることも、思えば、アルベドは知らない訳で、リースは、皇太子として、何度かパーティーで見ているといった。といっても、フィーバス卿は、十回パーティーが開かれても一回くるかどうか怪しいらしい。人前に顔を出さない。出しても無愛想だという。
(リースが人のこと言えるかどうかはあれだけど……)
リースだって私とか、ルーメンさん以外には、殆ど興味ないし、つーんとしているし、フィーバス卿とある意味仲良く出来るんじゃ無いかとは思うけど。
(――って、話がずれた)
それで、リースは私がここに来た理由を探りたいようだったけど、私は、簡単には教えられなかった。何処かで誰かが聞いているか分からないし、リースにいいたくないわけじゃないんだけど。
エトワール・ヴィアラッテアを警戒するなら、仕方のないことだから。
「一緒に行動することは出来ないな……エトワールの目撃情報は、あれから全くなかった。陛下には忘れろと言われた。そして、聖女との結婚を」
「……トワイライトと」
「すまない。エトワールの前で話す話じゃないな」
「いいよ。それで、結婚式……とか、いつあげるの」
多分、盛大に執り行われるんだろうなって言うのは分かる。だって、聖女と皇太子の結婚式だから。未来の皇帝の。
それも、世界を救ったってことにしてある(別にトワイライトのことをひがんでいるわけでも、恨んでいるわけでもないけれど)聖女との結婚式。盛大に祝わないわけがないのだ。
どうせ、いけもしないけど、でもいつ籍を入れるのかなあ、って気になったりはして……
私が俯き気味に言えば、リースは、もごもごと口を動かした後、目を伏せていった。
「三日後だ」