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「おはようみんな。……って、何この空気? 冷凍庫の中にでも迷い込んだ感じ?」
絶妙なタイミングで現れたのは、ラケットバッグを肩に担いだ成瀬先輩だった。場にそぐわないゆったりとした声に、部室内の張り詰めた糸がわずかに緩む。
「あ、成瀬先輩、おはようございます!」
私は逃げるように成瀬先輩の方へ駆け寄った。
「成瀬、おはよう。別に何でもないよ。遥がまた無理して動こうとするから、注意してただけ」
凌先輩は、何事もなかったかのように指を離し、いつもの涼しい顔に戻った。
「ふーん? まあ、遥くんが猪突猛進なのは今に始まったことじゃないけどさ。……でも遥くん、あんた顔色最悪だからね? 先生にバレたらまたラケット没収どころか部禁にされるわよ」
成瀬先輩は遥の顔を覗き込み、くすりと余裕のある笑みを浮かべる。
「……分かってるよ。成瀬先輩、うるさい」
遥は凌先輩を一度強く睨んでから、松葉杖を突き直して部室の隅にあるベンチにどっかと座り込んだ。
「あ、そうだ。紗南ちゃん、さっき小谷先生が職員室に呼びに来てたわよ。今日のメニューの相談だってさ。……あんまりここの空気吸ってると風邪ひくし、早く行っておいで」
成瀬先輩のどこか見透かしたような言葉に、私はこの場を離れる口実ができたことに安堵しながら、部室を飛び出した。