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職員室へ向かう廊下を歩きながら、私は自分の鼓動がうるさいことに気づいていた。凌先輩の指の感触と、遥のあの刺すような視線。頭の中を整理しようとしたその時、背後で激しい衝突音と、短い悲鳴が聞こえた。
「……っ、遥!」
慌てて引き返すと、部室の前で遥が倒れ込み、松葉杖が虚しく転がっていた。無理に私を追いかけようとしたのか、彼の足は限界を迎え、顔面蒼白で激痛に耐えている。
「遥! 触るな、俺が運ぶ!」
いつの間にか駆け寄っていた凌先輩が、強い口調で私を制し、遥を抱え上げた。その時の凌先輩の顔は、昨夜の「男」の顔ではなく、必死に弟を案じる「兄」の顔に戻っていた。
――数時間後、夜の病院。
精密検査の結果、遥の全治期間は大幅に延びることになった。病室で二人きりになった時、遥はがっしりと固定された足を見つめ、消え入るような声で言った。
「……紗南。ごめん、ダセぇところ見せた」
「そんなこと……。でも、どうしてあんな無理したの? 本当に歩けなくなったらどうするつもりだったの」
私の声が震えていたのか、遥はバツが悪そうに視線を逸らした。
「……焦ったんだよ。兄貴があんな顔するの、初めて見たから。あいつ、本気でお前を連れて行くつもりだっただろ。……もしお前までいなくなったら、俺、もう何のためにテニスに戻ればいいのか分かんねーよ」
「遥……」
「……行くなよ、紗南。俺、早く治すから。……俺だけを見てろ」
震える手で私の指先を掴む遥の弱々しさに、私は何も言えずに俯くことしかできなかった。