テラーノベル
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部屋を出たあと、蓮司はしばらく無言で廊下に立っていた。
空気が乾いていた。
さっきまでの熱が嘘みたいに、肌の表面から抜けていく。
(……飽きた)
無感情に思う。
ぐしゃぐしゃに泣いて、声も出せず、壊れたみたいに動かない遥。
予定調和すぎた。
(あいつ、最初から割れてたガラスみたいだったな)
ただ叩けばいいだけの存在には、もう興味が湧かない。
壊れるために用意された脆さなんて、面白くもなんともない。
でも──
(……だからって、完全に捨てるほど、つまらなくもない)
蓮司は、ポケットの中で煙草の箱を転がす。吸いはしない。ただ、いつもの癖。
(反応、もっと引き出せる)
目に見える傷より、見えない傷のほうが、よく響く。
静かに壊れたふりをして、あとから取り返しのつかないほど“染み込んでく”タイプだ。遥は。
(まだ使える)
それが、蓮司の出した結論だった。
別のやつにも、目はつけてある。
物分かりの良さそうな、傷一つない優等生──壊れたときの落差が映える顔。
遥とは正反対の、きれいな作りの“標本”になる予定。
けれど、遥は捨てない。
“手に入れたもの”は、壊し切るまでは手放さないのが蓮司の主義だった。
(今度は、泣かせるだけじゃつまんねぇな)
「助けてほしい」って顔させたら、今度こそ無視してやろう。
“優しさ”をほんの少しだけ見せて、手が伸びてきた瞬間に──へし折る。
そうすれば、また“違う声”が聞けるかもしれない。
(どこまで落ちんのか、見てみてぇな)
蓮司は笑った。
その笑みは、快楽でも興奮でもない。
ただ、何かを“試す”ときの研究者の顔に近かった。
(──壊すなら、もっと深く。もっと繊細に)
遥の反応はまだ底を見せていない。
見せるまで、追い込み続ける価値はある。
蓮司は、もう次の“遊び場”を見つけながらも、
遥という“玩具”の取り扱い方を更新しようとしていた。
飽きたのではない。
もっと、面白く壊す方法を見つけたのだ。
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