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無名の灯2

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無名の灯2

39 - 第39話

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2025年07月09日

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布団の中、蓮司の匂いが残っていた。髪の根元に、指の感触がある気がした。

もう、いないはずなのに。


遥は動けなかった。

息をすれば、空気が擦れて喉が痛い。

まぶたを閉じると、あのときの声が耳の奥で反響する。

「おまえが欲しかったんだろ、壊されるの」




違う。

ちがう。

ちがう──そう言いたかった。


けれど言葉はもう、遥の中で重みを持たなかった。

否定するにも、肯定するにも、気力が足りなかった。


(ほんとは──そうかもしれないって、思ってた)


あの瞬間、蓮司に抱かれながら、

身体が反応してしまったこと。


叫びたかったのに、声が出なかったこと。


痛いのに、怖いのに、「嫌だ」と言えなかったこと。


そのすべてが、「自分が欲しかったからだ」と、遥の内側で“結論”になっていった。





翌朝、鏡を見た。


頬に残る指の痕。

喉元の、赤い擦り傷。

枯れた声。


どれも、“犯された”というより、“望んで与えられた”もののように思えた。

自分が欲しがったから、こうなったんだと。

自分から差し出した身体だから、文句なんか言えないと。


そう信じることでしか、保てない何かがあった。





学校では、蓮司は何事もなかったように接する。

教室で交わす言葉も、視線も、まるでただのクラスメイトだった。


けれど──遥は知っていた。

あの目に、すべてを見透かされていることを。


「あの夜のこと、忘れてないよな?」


何も言わなくても、そう告げられているような気がする。

蓮司は、何もしていない。ただ笑っているだけだ。


それが一番怖い。

暴力よりも、脅しよりも──“なかったこと”として扱われる残酷さに、遥の心は裂かれていった。





(俺は、あいつから逃げられない)


怒鳴ることもできない。

拒むこともできない。

訴えることも、誰かに頼ることも、全部──自分の“望み”だったと思っているから。


誰かが「酷い」と言ってくれたらいいのに。

「お前は間違ってない」と抱きしめてくれたらいいのに。


けれど──それすら、望んではいけないと思った。


(もう、触れない方がいい)


(俺は、誰とも関わっちゃいけない)


そう思うことでしか、蓮司に「壊された」ことから目を背けられない。


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