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私には、その能力がないから……。
そうやって逃げてきた。
今更……後悔しても遅いけどね……。
私はもう、何も見たくない。
すべてを失いたくはないんだ……。
だから、私はただの傍観者になることにした。
それで構わないさ……。
だって……それは私の役目じゃないんだろう? 私はただ、彼らの物語を見届けたいだけなのだから。
私には、その能力があるから……。
「私が誰かに必要とされるなんて……」
彼女はいつも笑顔を絶やさない。
彼女の表情からは何も読み取れない。
だからといって何も考えていないわけではない。
彼女にとっては、それが当たり前なのだ。
しかし、ふとしたときに見せる憂い顔が、 彼女を魅力的にしているのかもしれない。
彼女の名は、「アイリ」。
だがそれは本名ではない。
彼女の本当の名前は、誰も知らないのだ。
なぜならば、彼女は記憶喪失だったからだ。
彼女が思い出せるのは、自分が人間だということだけ。
それだけしか覚えていなかった。
そんな彼女のそばにいるのは、小さな女の子だ。
少女の名は「ルナ」。
アイリとは正反対の明るい子だ。
二人は一緒に暮らしていて、とても仲が良い。
アイリは、ルナのことを自分の妹みたいだと思っている。
もちろん、ルナにとってもそうだ。
二人は、お互いになくてはならない存在になっていた。
「おはようございます」
「ああ、今日もよろしく頼むよ」
いつも通りの朝だ。
俺はいつも通りスーツを着て会社に向かう。
電車に乗り込むといつも通り満員だった。
(またか……)
そう思いながら扉近くのポールを掴む。これが俺の定位置。
目の前には背の高いサラリーマンがいる。名前は知らないし知りたくもない。
何故ならそいつは痴漢常習犯だからだ。毎日同じ時間に同じ車両に乗っているから間違いない。
そんな奴らが……
俺の前から消えたらいいんだ!!
『お前は、もう必要ない』
あの人の声が聞こえてくる。
俺は、まだ戦えるはずなのに!
『もうすぐだ』
あの人が笑っている。
そうだ、もう少しで……
「ああ、そうだ」
俺は、また戦い続けられる。
あの人と肩を並べて戦えていた頃と同じように。
「だからさぁ~」
今日も、あいつらはくだらない話ばかりしている。
「……うぜぇ」
思わず口に出した言葉に反応するように、視界の端に白い光が瞬いた。
「あ?」
目を凝らすと、光の粒が集まっていくのが見えた。
光はやがて形を作り、羽虫のようなものになった。
「……なんだこれ」
羽虫は宙を飛びまわりながら、俺の周りを回っている。
よく見ると、一匹だけじゃない。
無数の小さな羽虫が、まるで何かを待っているかのように空中に留まっていた。
「おい」
声をかけてみたけれど、返事はない。
無視されているのかと思ったけど、違うらしい。
なぜなら羽虫たちは、一斉に同じ方向を向いて動き始めたからだ。
「ついてこいってことかよ……」
「そうだよ! こっち!」
「なんで俺まで?」
「そんなの知らないよぉ~。でもなんか来て欲しいみたいだしぃ~」
「わかんねぇ奴だなぁ……」
「もうすぐ着くからね」
「へいへい」
(こんなとこで何してんだろ)
「ほら! 着いたよ」
「どこだよここは」
「だから言ったじゃん。こっちだってば」
「お前の言ってることがわかんないんだよ」
「しょうがないなあ。じゃあちょっと待っててね」
「おい! どこにいく――うぐっ!?」
「んーっとね。ここに入れればいいかな」
「痛ぇぞクソガキ!!」
「うるさいなぁ。静かにしないと死んじゃうよ?」
「ねぇねぇ!今どんな気持ち?ねぇ!」
「えぇ!?なんでそうなっちゃったの?ウケるー♪」
「んふ〜♡もっとイジメて欲しいんだね?分かったよぉ……」
「あはははっ!!もうダメだこいつ!!」
「さてさて、今日はどうやって遊ぼうかなぁ〜」
「じゃあさ、これ着てくれない?ほら、ゴスロリってヤツだよ。きっと似合うと思うんだよねぇ」
「ちょっと待ってろ……よしっと、これで完成だぜ☆」
「へぇ、思った以上に可愛いじゃん!流石あたしだわ」
「そっか、嬉しいこと言ってくれるじゃん!ありがと!」
「それじゃ早速だけど……いただきます♡」
「あっ、そうだ。君にプレゼントがあるんだけど受け取ってくれない?はい、どうぞ!」
「ありがとうございますっ!大切にしますねっ!」
「あなたは、まだ死にたくないでしょう?」
「あなたは、もっと生きたいはずだわ……」
「あなたは、生きることに疲れているはずよ」
「あなたは、もう死んでいるようなものだわ」
「あなたは、生きているふりをしているだけ」
「あなたは、本当は生きたくなんかないんだから」
「あなたは、ただ逃げてるだけだわ」
「あなたは、死んだままでいたいんだから」
「あなたは、本当の自分をさらけ出す勇気がないんでしょう?」
「あなたは、自分が傷つきたくなかっただけ」
「あなたは、いつも誰かを傷つけてばかり」
「あなたは、自分のことしか考えていない」
「あなたは、いつだって独りぼっち」
「あなたは、誰からも愛されない」
「あなたは、誰も信じようとしない」
「あなたは、あなたのことが一番わかっている」
「あなたは、何もできない」
「…………」
「え?」
「だから、なんでそんなことを俺に聞くんだって言ってんだよ!」
「だってお前、女に興味ないだろ」
「それはそうだが」
「じゃあ別に問題ねえよなぁ」
「そうかもしれないけどさ」
「そういうことだからよろしく頼むわ」
「わかった」
「助かるぜ」
(こいつ、こんな奴だったかな?)
「んじゃ」
「ああ」
「また明日」
「おう」
「おはようございます。ご主人様」
メイドさんが、いつも通りに朝の挨拶をする。
僕は、それに返事をしながらベッドから起き上がる。
「うん……おはよう」
まだ眠気が抜けない頭をなんとか動かして、そう答えた。
「朝食の準備ができておりますので、食堂へどうぞ」
「分かったよ」
部屋を出る前にもう一度鏡を見る。
そこには、僕の姿があった。
背が低く、中性的な顔立ちをした少女だ。
髪は長い黒髪を後ろで一つ結びにしている。
服はフリル付きのドレスだと思っていたら実はただの布だったりする。そしてその布があまりにも安っぽかったから思わず声が出ちゃったんだけど、それはそれとして今更だけどこの格好で外に出るのはちょっと恥ずかしいなあなんて思っていた矢先のこと。
「あのー……?」
「ひゃいっ!?」
突然背後から声を掛けられて変な声で返事してしまった。振り返るとそこには一人の女の子がいた。えっと確か同じクラスの子だよな。名前は……
「うわぁごめんなさい! 急に話し掛けてびっくりさせてしまいましたよね」
「ああいえそんな全然大丈夫ですよ」