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「策って…一体どんな?」
俺は神妙な面持ちのグランドマスターにその内容について尋ねる。
すると少し言い淀みながらも彼は話し始めた。
「結論から言うと、やつを…ドラゴンゾンビ・イクシードを封印する」
「…封印、ですか」
封印って、もしかして…
昔に勇者が魔王に使った方法のことなのだろうか?
「それって昔、勇者が魔王に使ったという方法ですか?」
「その通りだよ。ただし私は勇者様と全く同じことは出来ない。あの方が行った封印は女神様からの恩恵の力で行われたものだから恩恵がない私には使えない。だけどその封印を一番近くで見ていた私なら、見様見真似ではあるが魔法で再現して発動できる可能性があるんだ。でも私の不完全な封印魔法ではあのドラゴンゾンビ・イクシードを完全には封印することは出来ないだろう。だから、君に頼みがある」
「頼みって…」
何故だか分からないが、俺はグランドマスターからその内容を聞く前からとても嫌な予感がしていたのだ。直感が出来れば他の方法を使った方がいいと、そう言っている気がする。
「私が全身全霊をかけてドラゴンゾンビ・イクシードに封印を施す、その間の時間稼ぎをお願いしたい」
「そ、そんなことならお安い御用です!全力で時間を稼ぎますとも!!」
「それから…私が封印を完成させた後、おそらく私は戦闘不能になると思う。最悪の場合は死ぬことさえあるかもしれない。だから後のことを君に任せたい。もしドラゴンゾンビ・イクシードを完全に封印しきれなかった場合でもその能力の一部を封じるまでは必ず成功させて見せる。だからその後、やつに止めを刺してほしいんだ」
「えっ、そ、そんな…」
それはつまりその作戦というのは、グランドマスターの犠牲であのドラゴンゾンビ・イクシードを討伐するという作戦に他ならない。そんなこと二つ返事でOKとは言えないだろ。
「でも、それは…」
「ユウト君!他にあの魔物を倒す方法がない以上やるしかないんだ。このまま私たちが倒されでもしたら、次は後ろに控える冒険者や騎士団、そして君の大切な人たちが被害を受けるかもしれないんだ」
「っ……」
俺はどうするべきかすぐに答えを出すことは出来なかった。もちろん他にこのドラゴンゾンビ・イクシードを倒せる方法があるのであれば良かったのだが、あいにく今はグランドマスターの案しかない。
けれどもグランドマスターを犠牲にしてしまう可能性がある方法なんて出来ればしたくない。でもそれをしなければ後ろで戦ってくれている冒険者や騎士団のみんな、それにセレナやレイナ、セラピィに被害が及んでしまう。
俺は苦渋の選択を迫られていた。
どうしてこんな選択をしなければいけないんだ。
俺がもっと強ければ…
こんな理不尽な相手も打ち負かせるぐらいの理不尽な存在であれば…
…だが、そんなことを嘆いてもどうしようもない。
俺は決断しなければならない。
「………分かりました。任せてください」
「ああ、頼んだよ」
そうしてグランドマスターはドラゴンゾンビ・イクシードを封印するための魔法を発動させる準備を始めた。その間、俺はドラゴンゾンビ・イクシードの注意を引きながら準備が整うまでの時間稼ぎをすることになった。
「勇者様、今この瞬間だけでもあなたに追いつきたい。いや追い付かせていただきます!!」
グランドマスターは膨大な魔力を制御し、この場で勇者の使ったスキルを模倣した新たな魔法を組み上げていく。その様子を見たドラゴンゾンビ・イクシードは彼のことを危険だと判断したのか真っ先にグランドマスターを攻撃しようと動き出してしまった。
「させるわけないだろっ!!!」
俺はドラゴンゾンビ・イクシードの突進攻撃を高密度の魔法障壁を20枚張って防御する。何とか防ぎ切ったのだが、奴の攻撃は1枚で並みの上級魔法すら防ぐほどの耐久力になっていた魔法障壁をいとも容易く13枚も割っていったのだ。
そしてドラゴンゾンビ・イクシードが魔法障壁に激突した際に生じた反動で動きが一瞬止まった隙に俺は素早くやつの足元に入り込んだ。
「ちょっと大人しくしてろ!!」
俺は上級風魔法であるストームブラストを同時に3つ展開してドラゴンゾンビ・イクシードの真下から上に向かって攻撃を放った。その威力は超級魔法にも匹敵するものとなっており、その攻撃を直撃で受けたドラゴンゾンビ・イクシードは胴体に大きな風穴を開けることとなった。
「普通だったら致命傷だぞ…」
俺はこれで倒れてくれることを切に願っていたが、やはりそんなことは起こることはなくドラゴンゾンビ・イクシードは時が戻るかのように大きな風穴が徐々に塞がっていった。
たった数秒後には魔法を受ける前と全く変わりのないドラゴンゾンビ・イクシードがそこにいた。
「グオオオオオオッ!!」
俺はピンピンしてるぞと言いたげにドラゴンゾンビ・イクシードは咆哮を放つ。その声だけでも肌がビリビリと痺れ、周囲の草木は轟音と共に吹き飛んでいく。本当に規格外な存在だ。
「しばらくの相手は俺だ、ドラゴンゾンビ・イクシード。無視するんじゃないぞ!」
俺はグランドマスターから注意を逸らすべく、間髪入れずに攻撃を仕掛けていった。自身の攻撃が全く致命傷にならないことを承知しながらも俺はやつの体に多数の損害を加えていく。
ごくわずかな時間ではあるが体が復元するまでの時間を積み重ねてグランドマスターが魔法を完成させるまでの時間稼ぎになればと思ったからである。
再び翼を切り落とし、凶悪な振り回し攻撃をしてくる尻尾も切り落とす。
…そして復元する。
両目に魔法を放ってやつの視覚を奪い、前足を切り落として体のバランスを崩させる。
…そして復元する。
魔剣に光魔法の浄化属性を付与して奴の体を斬り刻む。
…そして浄化されることもなく復元する。
……..復元する。
やはりどのような攻撃でどのようなダメージを与えようとドラゴンゾンビ・イクシードはすぐさまその損傷を復元する。俺はグランドマスターの封印魔法の時間稼ぎのために何度も何度も絶え間なく攻撃をし続けたが、やつが何事もなかったかのように復元していく様子を見ていると自分の無力さが見えない刃となって俺の心を斬り裂いていった。
(やはり俺の力では大切なものは守れないのか…結局、前世と同じで無力で何も成せないのだろうか…)
そのようなことを考えていると無意識に少しずつ目頭が熱くなっていった。それに気づいた俺は涙を我慢して今、自分が出来ることに意識を集中させる。俺が今できることは時間を1秒でも多く稼ぐこと…!それを全うするんだ、ユウト!!
「はあああああ!!!!!!!!」
俺は全力の魔法攻撃をドラゴンゾンビ・イクシードに放つ。超高密度の青い炎は凄まじい熱量の熱線となってドラゴンゾンビ・イクシードの体の一部を溶かし貫いた。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
土壇場で思いついた魔法だったがその威力は超級魔法でもトップクラスになっていた。やつの体は熱線に貫かれた部分が超高温となり溶けており、ダメージもやつの膨大なHPを削り切るほどであった。
だがしかし、ドラゴンゾンビ・イクシードは今までよりはスピードは遅いがすぐさま復元を開始し始めていた。削り切ったはずのHPも徐々に回復していって元の姿まで戻ろうとしていた。
「はぁ…あの攻撃でもダメか…」
俺は結果は分かりきっていたはずなのに深いため息が出る。
微かに期待していた奇跡というものも起こることはなかった。
その時、背後から大きな声が聞こえてきた。
それは今この場にある微かな希望。
「ユウト君!!準備完了だ!!!」
「っ………はいっ!!」
俺は体をほとんど復元しかけているドラゴンゾンビ・イクシードから離れてすぐさまグランドマスターの元へと駆け寄っていった。
あとは彼に任せるしかない。
自分の役割は果たした、みんなで勝つんだ…!!!
「ドラゴンゾンビ・イクシードよ、私の全てをかけてお前を封印する!!勇者式封印魔法、発動!!!!!!」
その直後、眩い黄金の魔法陣がグランドマスターの足下とドラゴンゾンビ・イクシードの足元と頭上に展開された。その魔法はまるで神の奇跡を見ているかのような神々しい感じがした。
するとドラゴンゾンビ・イクシードを囲む魔法陣から黄金の鎖が勢い良く伸びてきて、やつの体を雁字搦めにきつく縛り上げていった。完全復元したドラゴンゾンビ・イクシードは突然の拘束に一瞬驚いていたが、すぐさま脱出しようと一生懸命にもがいていた。
しかしながらそんなドラゴンゾンビ・イクシードでさえもその鎖は破壊できず、そこからの脱出もすることが出来ない。徐々に鎖の量が増えていき、さらにドラゴンゾンビ・イクシードの体を拘束していく。
「ぐはっ…..っ、まだまだぁ!!!!!」
グランドマスターは魔法の負荷に体が耐えきれていないのか体中から大量の血が噴き出していたが、そのような状況であっても彼は強く意識を保ち封印魔法の効果を強めていった。
「グオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!」
ドラゴンゾンビ・イクシードは今までにないほどの苦しみに満ちた声を上げていた。どうやらグランドマスターの封印魔法はちゃんとやつに効いているようである。
「グランドマスター、頑張れ!!!!!!!!!!!」
「はあああああああ!!!!!!!!!!!」
そうして魔法陣から現れた鎖は完全にドラゴンゾンビ・イクシードの体を覆い尽くすまでに拘束を続け、巨大な球体となっていった。この状態になっても球体の中で未だにドラゴンゾンビ・イクシードが抵抗しようと暴れているのが暴力的な魔力の波で伝わってくる。
「これで、完成だっ!!!!!!!」
グランドマスターが両手を勢いよく合掌させた瞬間、ドラゴンゾンビ・イクシードを囲んでいた黄金の魔法陣から眩い光が放出された。その光は鎖で拘束されているドラゴンゾンビ・イクシードを飲み込み、そのまま空の雲まで貫いて天へと伸びていった。
しばらくしてその光の柱が消え、黄金の魔法陣が粉々に割れる。その破片が夜空に浮かぶ星のように辺りに散らばり、何とも幻想的な風景を生み出していた。
「……成功した、のか?」
俺はその様子を見惚れながらぽつりと呟いた。すると目の前に立っているグランドマスターが血だらけになりながらこちらを振り返り笑顔でこう答える。
「……あぁ、私の魔法は、上手くいったよ。ユウト君、あとは、頼んだ…」
そのままグランドマスターは力なく地面へと倒れていった。
俺は急いで彼の元へと駆け寄る。
「グランドマスター!!!しっかりしてください!!!」
俺が駆けつけた時にはすでに彼の意識はなく、そして呼吸もしていなかった。そして彼の姿はまるで自分自身の生命力まで使って一気に老けたように彼の髪が真っ白な白髪となっていた。
もしかして最初から自分の命を懸けてじゃないと魔法が成功しないと分かっていたのだろうか?最悪の場合なんて言って、実のところは十中八九死ぬと分かっていたんじゃ…
安らかな顔で眠っているグランドマスターを見て、様々な想いが頭の中で駆け巡っていた。そんなぐちゃぐちゃな感情が決壊するかのように両目から大量の涙があふれてきた。
「…….っ!!!!あああああああああああ!!!!!!!!!!」