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「どどど、どうなってるんですかコレ。ま、街が閉鎖されています!」
リールへ近付くにつれ増していった違和感は、ついに現実のものとなってミアの前に現れた。
高く簡易的なバリケードで封鎖された街の周囲は、とても常人とは思えぬ風貌の輩がうろつき、怪しすぎる雰囲気に飲まれたミアは、慌てて近くの物陰に逃げ込み姿を隠した。
「リールは昔から平和で美しい街だと聞いていたのに何かがおかしいです。どうしてこんなことに……」
闇に浮かぶリールの街影は不気味そのもので、噂に聞く優雅さは一つも感じられなかった。
それどころか荒廃し滅びた雰囲気すら醸し出す様は異常で、尻込みし躊躇したミアは、すぐに街への侵入を諦めた。
「べ、別に無理をして街に入る理由はありませんもんね。情報は他にもたっくさんあるはずですし、また一から聞き込みをすれば……」
などと独り言を言っている間にも、魔の手は静かに忍び寄っていた。
逃げ場のない袋小路の一角で息を潜めていたミアの背後で、何者かがわざとらしく土の地面をジャリっと踏み鳴らした。
音につられて振り返ったミアを、不敵に笑う複数の男が取り囲んでいた
「あれあれ~、こんなとこにお嬢さんが隠れてるぞぉ~。しかもエルフときたもんだ~?」
「ヒィィ」と怯えて壁に張り付いたミアは、ガタガタ震えながら「怪しいものではございません」と手足をバタつかせた。
へへへと一歩ずつ近付く三名の怪しい男たちは、目線で合図を取りながら、壁を背負ったミアを逃さぬよう詰め寄った。
「お嬢さんが一人でウロウロしてたら危ないじゃな~い。それとも俺たちと遊びたいのかな~?」
「こ~んなに怖がっちゃって。出戻りか、騎士団のことを知らねぇ街の住人だろうが、んなこと知ったことじゃねぇ」
「だな。どうする、……輪姦すか?」
男の言葉に尚更「ふぇぇ!」と叫んだミアは、たまたま手に持っていた玩具の縦笛を振り回し抵抗した。しかし気にすることなく近付く男たちは、鼻息荒くミアの腕を掴むと、強引に引き寄せた。
「さ、触らないでください、人を呼びますよ!」
「呼んでも人なんかくるかよ。今街がどうなってるか知ってるか。俺たちの楽園、無法地帯よ」
「む、無法……? リールに一体何が?!」
「平和な街は、そっくりそのままなくなったってわけ。そんな話はどーでもよくて、俺たちはテメェのおカラダに直接話を聞きたいわけでぇ」
ミアの下半身に伸びた手をパチンと叩けば、男たちの視線はひときわ険しくなった。
男の一人が力ずくでミアを押し倒そうと襲いかかった。
「や、やめてください、誰か、誰か助けて!」
「助けなんかこねぇって言ってんだろ!」
「いや~、誰か助けて助けて助けて~!」
涙を浮かべながら暴れたミアは、縦笛を無意識に媒体にして、男たちの足元から水吹を放ち、三人を吹き飛ばした。
為す術なく水流の力によって突き上げられた三人は、街のバリケードより高く舞い上がり、そのまま硬い地面に落下し気絶した。
「キャー、キャー、犯されるー、殺されるぅ、誰か助けてぇー!」
笛をブンブン振り回し一頻り暴れたところで、ようやく囲んでいた輩が目を回していることに気付き、ミアは首を捻った。
「あらら、皆さん倒れていらっしゃいます。誰かが助けてくれたのかしら。ありがとう優しい御方!」
膝を付き、手を掲げミアがとぼけたことを言っていると、また別の誰かが「おい」と話しかけた。
声の主を助けてくれた人物と勘違いしたミアは、辺りをキョロキョロ見回した。
しかし姿が見当たらず、指をほほに付けまた首を30度傾けたミアは、「あれれ?」とはてなマークを浮かべた。
「こっちだ。壁の上」
再び聞こえてきた声に導かれ見上げると、壁の頂上で怪しい風貌をした男が身を屈めミアを見つめていた。
微かに映るシルエットにバカ正直にペコペコ頭を下げたミアは、これ以上ない笑顔を浮かべ礼を言った。
「お前、さっきのはなんだ?」
「ほえ? さっきと言いますと?」
「何か地面から出したろ。そいつらをのしちまったやつ」
「御三方を? なんのことでしょう?」
「しらばっくれんなよ、テメェ!」
壁から飛び降りた男がミアの前に着地した。
伸びて見えていたシルエットとは対照的にミアより幾らか小さいその人物は、半分に裂けたズボンと、よれたシャツ一枚のみすぼらしい格好をした少年だった。
「さっきの魔法だろ。この目でしっかり見たんだからな!」
「魔法? よくわかりませんが、そんなことより先程は助けていただきありがとうございました。助かりました!」
「な、なに言ってんだテメェ。アレはテメェがテメェでやったんじゃねぇか」
しかし少年の話を聞かずパンと手を叩いたミアは、少年の手をとり、「教えてください!」と顔を寄せた。
「な、なんなんだよ、お前……」
「あの私、ゼピアからまいりました家政婦見習いをしている者ですが、リールの街に人を探しにやってきたのです。でもなぜか街がこんなことになっていまして……。そこでお願いです親切な御方、私に街のことを教えていただけませんか!」
「はぁ? なんだよコイツ、全然人の話聞かねぇじゃん。だからぁ、俺は親切でもなんでもなくて、テメェがやられるのを、そこで覗いてただけで……」
「お願いしますッ、困ってるんです、助けてください!」
「顔が近ぇよ」とミアの迫力に押された少年は、なぜか反対に壁際へと追い込まれ凄まれていた。
充血し血走った目のミアの顔を全力で押し返し、少年は足元に落ちていた小石を蹴ってから舌打ちすると、「なんでこんなことになんだよ」と文句を言いつつ、指でちょいちょいと呼びつけた。
「案内していただけるんですか?! ありがとうございます、親切な御方!」
呆れ果てた少年に導かれリールの街へと足を踏み入れたミアは、これで目的の人物に会えるとルンルン気分のスキップ混じりでついていった。
珍獣でも見るような冷めた目でため息をついた少年は、壁の穴の抜け道を仕方なくくぐり、頭を掻いた。