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戦闘準備を整えた俺達は、フルーディアの街の湖岸部方面へと向かう。

湖岸部手前まで来た辺りでやっと、ちらほらと人の姿を確認できるようになった。




最後尾を歩きつつ、俺は周りの様子を横目で見る。


先程ギルドで聞いていた通り、見かけるのは武装し緊張感漂う冒険者らしき人々ばかりで、全体の人数としてはそれほど多くない模様。

ちょうど昼時のためか、どのパーティも道端等に腰かけ食事をとっているようだ。



そこまでは別にいいのだが、俺にはどうしても引っかかる事が1つ。

少し不安になったので、斜め前を歩くテオに小声で確認してみる。


「……なぁテオ、俺達やたら注目を浴びてるよな?」

「うん。あびてるねー」

「やっぱそっか……」



俺達が通るたび、どの冒険者も一様に驚いた顔で食事の手を止め、ひそひそと何かを話し始める。

最初は「気のせいかもしれない」と考えた俺だったが、3組目のパーティの横を通り過ぎた頃、疑いは確信に変わった。



「……ま、そりゃ目立つよな」

と、俺は前方に目をやる。





先頭を歩くのは、槍使いのネレディ

本人いわく「ひさびさに現役時代使ってたのを引っ張り出してきちゃったわ!」という装備は、2mはありそうなハルバード――先端が鋭く尖った槍に、斧刃と鉤爪(ピック)を取り付けたような武器――。

美しい曲線を活かしたデザインの大きな刃は陽の光を反射して煌めき、刃の下に結びつけられた濃紫色の長い装飾布が風を受けてたなびく。

長く綺麗な足を引き立てる、ぴったりした細身のロングブーツ。

スリットが深く入り太ももあらわな、ヒラっとした素材のすみれ色ロングドレス。

それに腰をキュッと締める革のビスチェと、ネレディ自身のスタイルの良さと美しさを強調するかのような格好だ。


そしてネレディの後ろには、ニコニコ笑顔でマイペースに歩くナディ

薄手のコートは羽織っているものの、魔物討伐というより、近所の公園にお散歩にでも行きそうな感じで場違い感が半端ない。


ナディと手をつなぐのは、真っ黒なローブのフード部分を深く被り、正体不明のミステリアスな雰囲気を醸し出した魔術師風と、ナディと違う形で白っぽい街にそぐわないイザベル


がっつり西洋兜と鎧を着こみ、ナディとイザベルの2人の背後を守るように、先程までとは考えられないような鋭い眼光で辺りを警戒するように歩くのは、歴戦の老練剣士風のオーラで存在感たっぷりなジェラルド


最後尾には、いつも通りの装備なテオがついていくという隊形。





ただでさえネレディもナディも有名人で顔が知られている上、色んな意味で目を引きまくる恰好をしていては、皆の視線を釘付けにするのも当然であろう。


こんなに注目されてしまっては、“勇者である”という自分の正体に誰かが気付いてしまいかねないんじゃないか……心配になった俺がつぶやく。


「大丈夫かよ……」

「だいじょぶだろ」


すかさずテオが、何でもない事のようにさらっと答えた。

その発言が無責任っぽいと感じた俺は、少しムッとして言う。


「なんで分かるんだよ?」

「だってみんなが注目してるのは、ネレディとナディだけじゃん。この感じだと間違いなく、逆に俺達の印象薄いと思うぜっ」

「え?」



俺は顔を不自然に動かしすぎないよう気を付けつつ、改めて周りの冒険者達をよく観察し直す。

するとその目線はどれも、ネレディやナディだけに向けられているのに気付いた。



「……ほんとだ」

思わず拍子抜けしてしまう俺。

テオは小声で言葉を続ける。


ネレディもイザベルもジェラルドも、タクトに注意が行かないよう、わざと視線を集める格好をしてくれてるんだと思うぞ? さらに言うと、さっきから一応冒険者達のコソコソ話もなるべく聞くようにしてるけど、話の内容は予想通りネレディやナディについてばっかだねー」

「そういえばテオは人より耳がいいんだっけ」

「うん、吟遊詩人だからなっ!」


テオはお決まりのように胸を張った。


「特にみんなネレディについては興味深々みたい。口々に『紫の斧槍姫(ハルバードプリンセス)の再来だっ!』って騒いでるよー」

「ああ……」



そういえばネレディの現役冒険者時代の二つ名は『紫の斧槍姫』で、彼女の強さと、立ち回りの人目を引く華やかさとから、誰からともなく呼び始めたっていう感じの設定だったな。



「まぁそんな感じで、タクトは他に比べたら地味だし……たぶん『紫の斧槍姫の従者その4』とか、その他大勢ぐらいにしか思われてないから!」

「そっか……ならいいんだけど……」



納得しかけた俺だが、ここでふと気が付く。



ん? そもそも、わざわざ目立たなくてもいいんじゃ……パーティ全体が目立たない様に普通を装っていれば、周りの冒険者達にざわつかれる事もないんじゃないのか?」


テオは苦笑いして答える。


「同行するのがネレディだけだったらそうだろうな。いくらネレディが有名人でも、兜とかで顔隠して、目立たない装備にすれば普通は気づかないと思うし。でもさ、ナディは別だろ?

「あ……」


ただでさえ冒険者は大人が多い。

そのピリピリした緊迫ムードの中に、すぐ元気に走り回りたがる子供のナディを連れていくとなったら……何もしなくても目立つよな……。


今度こそ、俺は心から納得したのだった。






しばらくして俺達は、もうもうと立ち込める灰色の霧の前へと到着した。

ゲームのフルーユ湖同様、まるで境目に結界でも張られているかのように、「霧が有るエリア」と「無いエリア」とが綺麗に分かれていた。



地面から空の向こうまで続く境目を見上げつつ、ゲームでの設定を思い出す。

確かこの霧は、ボスモンスターが持つ【魔誕の闇】――周辺の魔力を増幅し、攻撃的な魔物を生み出しやすくするスキル――発動の副産物っていうことだったな。


プレイヤーの間では、以前攻略したダンジョン『小鬼の洞穴』でもこの霧は一応発生していたとの見方が強い。

だがフルーユ湖は20分も歩けば霧の中心部――ボスが居ると思われる場所――へ到着可能なのに対し、『小鬼の洞穴』はボス部屋まで片道最低1日とエリアが非常に広い。

そのため小鬼の洞穴の霧は広いエリア全体に散らばっており、目視で確認できないんじゃないかと言われているのだ。




ナディはネレディのスカートを掴み、霧のほうをこわごわ見つめる。


「お母さま……あっちのほう、なんだかすごくイヤなかんじがするの」

「そうね……」


ネレディは腰を落とし、ナディの目を見て言った。


「ナディ、じいや達と一緒に街の中で待っててもいいのよ?」



考え込むナディ。

だがすぐに迷いを振り払うよう顔をブンブン左右に振り、心を決めたように言う。



「やだ。いっしょにいくの!」

「……分かったわ。ここからは怖い魔物もたくさん出るの。それに霧で周りも見えにくいから、絶対にイザベルの手を離さないこと。いいわね?」



ネレディの言葉に、ナディは黙ってこくりとうなずいたのだった。

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