私が高3の夏休み、同じ学校に通う高1の妹の亜美が姿を消した。
私は心細さから、同じ学校の友人エリに電話をかけた。
「ねぇエリ、亜美が帰ってこない」
30秒続いた呼び出し音が終わると、私は早口で言った。
「え…?亜美ちゃん…が?」
エリは寝ていたのか、声がこもっていた。
「今までこんなことなかったし…」
「思い当たるとこ探した?」
「うん」
「バイトとかしてるんだっけ?」
「してない」
「塾とかは?」
「行ってない」
「いつもは何時くらいに帰ってくるの?」
「19時くらい。友だちといて遅い時でも22時とか」
「もう1時過ぎてるね…」
「うん、こんな遅い時なかったし、19時過ぎる時は絶対連絡あった」
「今日連絡は?」
「昼間出て行ったきり、お母さんが電話しても繋がらない」
今の状況を言葉にすればするほど、不安な気持ちが大きくなる。
「私も何か手伝うよ。できることない?」
エリが力強い声で言う。
「連絡先のわかる亜美の友だちには、お母さんが全員に電話した」
「手がかりは?」
「みんな知らないって」
「友だちと一緒じゃないんだ…」
「お父さんは自転車でその辺探し回ってる」
「っていうか警察には言った?」
「私もお父さんに警察に言おうって言ったの…」
「そしたら?」
「夏休みだし、浮かれて友だちとその辺遊び歩いてるんじゃないかって」
「でも学校の友だちにはお母さんが連絡したんでしょ?」
「うん…お父さん世間体気にするからさ、警察来て近所の人になんか言われるのが嫌みたい」
「うーん…。家出とかは?ケンカしたとか」
「全然心当たりない」
「家出の心当たりもなくて友だちとも一緒じゃない。結構ヤバくない?」
「でも亜美SNSやってて、フォロワーも多いみたい。リア友じゃなくてそっちの友だちと一緒かも」
「亜美ちゃん…そういえばこの前オススメで見た。いいね10万超えてたよ」
「そんなに?亜美のSNSあんまり見ないから知らなかった…」
「でもそれ思い出して余計心配になってきた」
エリの声が曇る。
「え?どういうこと?」
「学校の制服で踊っててさ、スカートめっちゃミニにしてた」
「学校の制服とか特定されちゃうじゃん…」
「コメント欄で「好きになっちゃいそ〜」とかあったし」
「なんか怖い…」
そんな話を聞くと、私の中で不安がどんどん大きくなっていく。
「フォロワー1万人いたらおすすめにも出やすいよね…」
「1万人も…。変なやつとか混じってるかも…」
「美咲、早めに警察にいったほうがいいよ」
「うん、お父さん説得する!」
私は「手遅れになる前に」と必死で父を説得した。
父が警察に連絡すると、亜美の捜索が始まった。
私は警察の捜索の手がかりを得ようと、亜美のSNSをチェックし始めた。
(制服の投稿はいいねがすごい…)
(このパジャマの投稿ブラひも見えてるし…)
(てか亜美がコメ返するのイケメンのアイコンだけ…)
人懐っこい妹の別の一面がそこにはあって、私は少し戸惑っていた。
(これ家の最寄り駅で学校行くのに毎日使う駅じゃん…)
(こんなとこでパンツ見えそうな格好で踊ってる…)
手がかりがあるかもしれないと思い、私は200近い書き込みのあるコメント欄を開いた。
【かわいい!】
【スタイルいい!】
同年代ぽいユーザーからのシンプルなコメントが並んでいる。
だけどその中に、気持ちの悪いコメントも混ざっていた。
【見えた、紫か】
【ここ◯◯駅じゃん、待ち伏せしようかな】
【リクエスト 手を使わないでスカートで靴下を脱ぐのお願いします!※タイツ、ストッキング着用不可】
【会えませんか? ケンジ】
こんなコメントを見ると、不安で胸がはりさけそうだった。
今も警察が近くのコンビニや公園を探している。
だけど亜美はちっとも見つからない。
スマートフォンの電源もきれているから、位置情報もわからないらしい。
気持ちばかりがあせって、嫌な考えばっかり頭に浮かぶ。
亜美を探している刑事さんの助けになればと思い、私は亜美の投稿を全部チェックすることにした。
その中の一つに、私が亜美へ送った誕生日プレゼントの腕時計の投稿があった。
【大好きなお姉ちゃんからもらったー】
【いつもやさしくて亜美のこと元気にしてくれるっ!】
頭の中がいつも元気でお調子者の亜美の顔でいっぱいになる。
どこに行っちゃったの?
早く見つけてあげたい。
【会えませんか? ケンジ】
腕時計の投稿を見ていて、私はあることに気づいた。
このケンジっていう人が、動画の内容に関係なく、亜美の投稿にかたっぱしから会いたいと書き込んでいた。
アイコンははっきりとは見えなかった。
でもボサボサ頭のメガネをかけた中年男性だというのはわかる。
『何この人…』
気になったから、アイコンをタップしてその人のアカウントにとんだ。
【JKが大好き 友だちになってね】
【おじさんだけど仲良くしてね】
フォロワー3人に対してフォロー659人、ほとんどが女子高校生やアイドルだ。
ろくに相手にされずSNSで若い子を狙ってるおっさん…そんな感じだ。
投稿してたのは2つで、私はそのうちの1つを再生した。
見覚えのあるベンチと街路樹が映し出された。
(ここ…)
そこは私の家と駅の間にある公園だった。
【お散歩〜】
【JKさんたちの笑顔とお御足がまぶしい!】
男はテキストで最高にキモいことを書いていた。
こんなやつが私たちのすぐそばにいることが信じられなかった。
もう1つの動画は数時間前に投稿されている。
画面に弁当やカップ麺のゴミが散らばった室内が映し出された。
【ひとり暮らしの僕の部屋に子猫がきた!】
【アイドルよりもかわいい】
【餌付けしてかわいがって、僕好みの子猫に育ててやる】
【人生最高ー!】
そして、蛍光灯のジーッという音声の最後に、中年男性の【うふふ】という笑い声が聞こえた。
頭が1回真っ白になった。
「会いたい」
「近所」
「子猫が来た」
そんな言葉が繋がって、頭が爆発しそうな感じになった。
「こいつじゃん!こいつが亜美をさらったんだ!」
私は気づいたら大声で叫んでいた。
でも見つけたんだ、亜美をさらった犯人を!
すぐに担当の刑事さんに言って、こいつの家から亜美を助け出さないと!
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頑張れ!