続きでーす
和中「……もしもし、伊集院の旦那」
俺は伍代と別れた後、真っ先に伊集院の旦那に電話をかけた。
案の定、旦那はすぐに電話に出てくれた。
伊集院『和中か。要件は華太の事だろう?』
いつもと何ら変わらない、抑揚の無い声で答えた。
和中「ええ。華太を拾ったのは旦那だと聞きまして。なにか情報を持っていれば、と」
伊集院『情報、か…めずらしいな。お前がそこまで動くとは』
和中「……一刻を争う事態です。天羽組でも最優先事項になってますので」
伊集院『正直に華太のためと言えばいいものを…お前も大概シャイなのだな。まあいい。私が見た事は全て話してやろう』
そう軽口を叩きながら、伊集院の旦那は話し始めた。
まず、華太を見つけたのは外道調査中だったとの事。場所は空龍街の路地裏らしい。
そして見つけた時には意識がなく、出血も酷い状態だったので、連絡は後回しにして真っ先に闇医者へ運び、そのまま少し診てから帰った。
華太の状態は過去一を争うほどに酷く、あの旦那でさえも顔を歪ませたそうだ。
頸動脈が切れかかっており、動脈の方は完全に切られていたという。
常人なら5回は死んでいただろう傷の状態に、俺は心底華太を見直した。それで生き長らえるとは大したものだ。
そして、伊集院の旦那が次に放った言葉に、俺は頭が沸騰しそうになった。
伊集院『明らかに何者かが殺意を持ってやったものだ。手練…と言いたいところだが、傷口が少々粗かった。どうやら犯人は一筋縄で掴めないらしいぞ、和中?』
和中「……それで十分です。感謝します」
俺はそう言って電話を切った。
手練ではないのなら素人。少なくとも華太よりは弱いはずだ。
じゃあなぜ華太はやられた?
実行犯のバックに、誰かついていた?
誰が?
やり方的にマフィアや殺し屋の線は考えにくい。
極道か……
それとも……
サツ…か?
その頃、小林と青山は、闇医者にいる須永の兄貴と合流していた。
青山「須永の兄貴!」
須永の兄貴は手術室の前にあるベンチに体を丸めながら座っていた。
須永「…小林きゅんに青山きゅん…」
小林「大丈夫っすか」
須永「うん…」
そう言う須永の兄貴は、冷や汗をかきながら拳を強く握りしめている。
青山「須永の兄貴、少し外に出て休んでください」
須永「…分かった。ちょっと外出てくるわァ」
そう言って須永の兄貴はフラフラと外に出ていった。
そして残ったふたりはそこにあるベンチに座り込む。
すると小林が口を開いた。
小林「…さっき工藤の兄貴がマフィアと殺し屋の線はなくて極道の可能性が高いって言ってたけどよ、俺的にもうひとつ犯人候補上がってんだわ」
青山「もうひとつ…ですか?」
小林は光のない目で淡々と告げる。
そして次に発した言葉に、青山は息を飲んだ。
小林「…サツだ」
青山「サツって…!?ちゃんかぶ数年前にも襲われたって聞きましたけど…」
小林「どこぞの極道の可能性も捨てきれねぇが…言っちまえば天羽組はここらじゃ敵無しだ。無策に手を出してくるとは思えねぇ。だったら残ってんのはそんくらいだろ」
小林は一点を見つめたまま身動ぎひとつしない。
青山「たしかに……でも、あそこまで派手にやって足がつかないなんてこと……」
青山がそう言いかけた時、目の前の手術室のランプが消えた。
それと同時に中から汗でびっしょりの氷室が出てきた。
青山「っ氷室!華太は!?」
氷室は一息ついてから口を開く。
氷室「大したもんだ。大丈夫、ちゃんと生きてる」
その言葉に2人は安堵の息をついた。
小林「華太は?」
氷室「まだ暫くは起きないだろう。面会は禁止…と言いたいところだが、数分なら許可してやる」
そして氷室はすぐに着替え、小林と青山を病室に案内した。
氷室の案内で病室の中に入った2人は、寝ている華太が目に入った瞬間息を飲んだ。
一定のリズムでなり続ける電子音に、身体中から生える管。呼吸を止めさせまいと付けられた人口呼吸器。見ているだけで痛々しい、右目や首、胸に腹など様々な場所に蔓延る白い包帯。
こんな華太の姿なんて見た事がなかった。
確かにいつも怪我をして帰ってくるが、ここまでの怪我をしながら再開するとは思わないだろう。
そんな2人を見て、氷室はゆっくりと話し出す。
氷室「さっき、体の中から遅効性の毒が見つかった。しかも猛毒だ。ドスかなんかに仕込まれていたんだろう。傷口に毒の傷なんて無かったから、ただの刀傷かと思ったが…そして1回目の手術のあとにその毒が効き始めて、それが体内に回った結果、血液の循環を阻害。心臓が止まったって訳だ。ほんとに、この毒食らってなんで生きてんだか…」
一息ついてから、目覚めるのはこいつ次第だ、と付け足した。
それを聞いた青山は俯く。
青山「…俺、須永の兄貴を一度組に送ってきます。兄貴には悪いですけど…相当お疲れの様でしたので」
小林「ああ、頼む」
そして青山はさっさと病室から出ていった。
小林に気を使ったのだろうか。
青山のことを察して氷室も静かに病室を出ていき、小林は1人となった。
そして小林は、静寂に包まれる病室の中、一人華太に喋りかける。
小林「……なー、起きろよ華太ぉ………」
そう呼んでも返事は帰ってこない。
いつもなら
「はい、どうしました?」
と、すぐに返事をしてくれるのだが。
小林「…冷たいなあ、お前」
そう言いながら、華太の胸に体重をかけないよう慎重に頭を下ろす。
トクン…………トクン………
小さいが確実に伝わってくる心音に小林は安心したように目を閉じる。
小林「もうちょいまっとけなぁ。犯人は俺が盛大にグリンかましてきてやっからさ。…さっさと起きて一緒に焼肉行くぞぉ」
心臓の音が確認できると小林は離れた。
そして華太の頭をゆっくり撫で、そのまま病室を離れていった。
to be continued……
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続きが楽しみ!(°▽°)