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#溺愛
星キラリ

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楽地みどり
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このインナー、やっぱり袖のところがチクチクするな。やっぱりもう一つの方にしておけばよかったかな。なんだか私はいつも選択ミスをしている気がするな。
「……さん?」
「……」
「岡井さん!」
「あっ、はい! ごめんね。確認ね、了解」
出戻り社員の私は、同期よりは少し下だけど、それなりのポジションをもらっている。上に提出する書類を確認する仕事も多い。そのため、訂正を「お願い」しなくてはならないこともある。それを、若い子たちは素直に受け入れてくれない。
そう、私はいわゆるお局なのだ。まだ三十一歳なんだけど。
「柔らかい言い方をしているつもりなんだけどなぁ」
同期の光田に愚痴る。
「仕方ないよ。今の子ってみんなあんな感じ。自分は歳を取らないとでも思ってるんでしょ」
「出戻りで急に上に就かれたのも気に入らないのかも」
「それは上が決めたことだもの。気にすんなって」
出戻り。私は一度会社を辞めている。結婚をして少し経って妊活をしようと思ったから。
しかし、結局離婚をして苗字も戻して帰ってきてしまった。上司たちは歓迎してくれたけど、ずるいと思っている子の気持ちもわかる。休んでいたくせに出世したのだから。
「仕事で返していくしかないかぁ」
「そんなに気負わなくていいって。自らお局にならなくていいんだよ」
自らお局にねぇ。確かに、服装とか歳の割に地味すぎるのかもしれない。でも、私はもう自分のことを女としてとっくに旬の過ぎたものと思ってしまっているところがある。
それにはちゃんとした理由がある──
私、岡井美里と元夫森洋介は、高校二年生から彼の告白で付き合い始め、十年付き合い二十七歳で結婚した。大学と就職先は別だったが、それでも喧嘩をすることもほとんどなく、安定した付き合いをしていたと思う。
問題は安定し過ぎていたことかもしれない。大学生の頃はほぼ会うたびにしていたセックスが、社会人になった頃にはほとんどなくなっていった。浮気も疑ったけれど、なんだかんだデートはしていたし、私と会う回数を考えてもそんな暇はなさそうだと判断した。洋介はあまりチャラいタイプじゃなかったし。
まだ二十代中盤で、女の私だって欲求不満になる。だから、とても勇気を出して聞いてみた。
「ねぇ、最近ないよね。もう私のこと飽きちゃったの?」
すると洋介は、
「そ、そんなことないよ。たまたまだよ。じゃあしようか」
……じゃあしようか? そんな入り方ある?
「いいよ別に」
「そっか」
結局しないし。彼はなんで平気なんだろう? 不思議に思っていながらも、それ以上行動に移さなかった私も悪かったのかもしれない。まだ若かったし、レスについての知識がなかった。そのうち戻ると思っていた。
そんなある日、彼が部屋のテーブルの上に財布を置きっぱなしにしていた。
その財布の間から金色に縁取られたカードがのぞいていて、気になってつい見てしまった。
HONEY CLUB? ポイントカードだ。Bコースを何度か注文している。美容院じゃないよね……
女の勘というべきか、嫌な予感がして私はその店をパソコンで調べた。
嫌な予感の九割は起こらない? あれ、不安の九割だったか。どちらにせよ、私は一割を引き当てた。その店は風俗店だった。こんな露骨なホームページが存在することも初めて知った。
コース紹介と値段がわかりやすく載っていた。Bコースはディープキスから始まって……信じられない。
私にはしないことまでしているようだった。そして同じ子を三回指名していた。
私はそれを突きつけ別れを切り出した。しかし、彼は愛しているのは美里だから別れたくないと言った。もう行かないと約束すると。普通の浮気じゃないしなぁ、と私も考えてしまった。付き合いも長くて楽、今更他を探すのもちょっと面倒なんてことも頭をよぎった。結果、今回は許すことにしてしまった。
今思えば、まだ結婚前の二十代。これは選択ミスだったのだろうか?
コメント
1件
わあ、このエピソードめっちゃリアルで刺さるわ……。岡井さんの「いつも選択ミスしてる気がする」って感覚、すごく共感できる。特に元夫の風俗通いを許したあたり、当時は「愛されてる」って信じたかったんだろうなって思うと切なくなる。まだ31歳なのに「お局」「旬過ぎた」って自分を小さく見積もってるところが胸に来た。続きが気になる〜!