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宇津Q
4,024
猫さん
865
参拝待ちの列に並んでいる間、する事もないので晶子とカンナは取りとめもないおしゃべりをしていた。カンナがふと思いついたという口調で訊いた。
「晶子は国立志望なんだよな。国立って言うと、東京大学か?」
前に並んでいた高校生らしき男の子と、その母親らしい二人が、東京大学という言葉に反応して一瞬振り返ったので、晶子は声に出してあわてて否定した。
「まさか! 東大は別格中の別格だよ。あたしの成績じゃ夢のまた夢」
カンナが頭を傾げながら訊いた。
「それ以外に国立大学ってあんのか、東京に?」
「東大も入れて十一あるよ」
「え? そんなにあんのか?」
「いくつかは理工系や芸術大学だから、文系人間のあたしにギリギリ狙えるのは一橋大学とお茶の水女子大だね。でも今の成績だとハードル高いんだよねえ」
二時間かけてやっと境内にたどり着き、拝殿で参拝を済ませ、二人は御祈祷所へ向かったが、その入り口にも長蛇の列が出来ていた。
晶子もまたぞろ並ぶのは嫌だったので、「学業守」というお守りを買い、絵馬に合格祈願の願いを書いて木枠に掛けた。
後から後から新しい参拝者が境内に入って来るので、これ以上の長居は無用とばかりに、二人は境内を後にして上野公園近くのファミレスに行きいつもより少し遅めの昼食を摂る事にした。
幸い空いた二人掛けの席があったので、晶子とカンナは向かい合て座り、同じミックスグリル定食を頼んだ。ドリンクバーのコーラを豪快に飲み干しながらカンナが晶子に訊いた。
「前から訊こうと思ってたんだけどよ、晶子はどうして大学に行きたいんだ?」
唐突な問いだったが、晶子は不思議そうな口調で答えた。
「ううん、物心ついた時から大学って当然行くもんだと思ってたから。あたしの両親、二人とも大学卒だし」
「そうか。親が大卒だと、どうしてって考えもしないもんなのか。あたいなんか、最初から大学なんて諦めてたからな」
「そう? いつ頃から?」
「小学三年生の時だったかな。あたいの家貧乏だから、こりゃ大学は無理だなって」
「あたしと友達になる前じゃない、それ?」
「そうだな。あの頃にはもう大学なんて行けないもんだと思ってた。小3ぐらいになりゃ、なんとなく世の中の仕組み分かって来るじゃねえか。塾だの習い事だの、そんな事する金がうちにねえのも悟るしな」
晶子は口に入れようとしたソーセージの切れ端を思わず皿に戻してしまった。そんなに早く、小学生の頃からカンナがそこまで考えていた事は、晶子も初めて知った。カンナがまた訊いて来た。
「晶子も親と同じ勝ち組になるために大学行くのか?」
晶子は何と答えるべきか悩みながら言葉を紡いだ。
「勝ち組なのかどうかは分からないけど、あたしもいつかは就職するし、そうなると大学は出ないと。そんな感じかな」
「そこがあたいにはよく分かんねえんだよな。そりゃあたいも、父ちゃんみたいな貧乏人にはなりたくねえけどさ。大学出ないと稼げるようにはなれないもんなのか?」
「ううん、あたしの場合、これといった技能とか才能とかなさそうだし。言われてみれば、あたし大学行って大きな会社に就職してって、それ以外の将来なんて考えた事もないかも」
「そうか……親より貧乏になるわけにゃいかねえから、親と同じレールに乗るしかないって事になんのかな? 親ガチャでアタリ引くってのも楽じゃねえんだな」
「カンナは将来どうするの、就職とか?」
「なるようになるだけさ。あたいの場合、これより下はねえだろって、そういう親だかんな」
そう言ってパクパクとよく食べるカンナを見ながら、晶子は食べ物が喉につかえるような気分になった。カンナと友達になる前、晶子は世の中の全ての家族が、自分の家族と同じだと思い込んでいた。
晶子には想像も出来なかった、苦しい家庭が世の中にはあるのだ、それもたくさんあるのだという事を、あっけらかんと話す親友の言葉は、何かずしんとした感じで晶子の心に残った。
コメント
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第88話、読みました〜🤍 晶子とカンナの学歴とか家庭環境の違いが会話の端々ににじみ出てて、すごくリアルだなって思った。特にカンナが「小学3年の時にもう大学は無理だなって悟った」ってあっけらかんと言うところ、胸がぎゅっとなったよ。晶子が初めて"自分と違う世界"を目の当たりにする感じ、すごく伝わってきた。重いテーマなのに淡々と描いてるところが、逆にずしんと来るんだよね…次の話も楽しみにしてます🥀