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「……な、何もないよ」
「嘘だ。恵は意味もなく乙女な顔をしない」
廊下を歩いている間、恵は言うか言わないか迷っていたけれど、チラッと後ろを歩いている涼さんを見てから、溜め息混じりに言った。
「……ちょっと、今回の旅行中は勘弁。この二泊三日が終わった後日、改めて落ち着いてから言う」
「ん、分かった」
見てるだけで一杯一杯だと分かるので、私はからかうのをやめてポンポンと恵の背中を叩いた。
ホテル一階にあるレストランは、ヨーロッパのお城風の外観をしていて、外から見ると、コの字型にせり出している建物の右側に当たる。
ドンとした白いアーチに青銅色の錬鉄の門があり、蔦とお花が絡まりウッド調の看板がついている。
店名にガーデンとついているだけあり、お城の庭で優雅に食事をするお姫様のような気分だ。
店内に入るとすぐ、精緻な模様が描かれた円形の床飾り――メダリオンがあり、真上には同様に天井が丸く窪んでいて、側面から間接照明の光が漏れていた。
その横がお会計のカウンターになり、アーチをさらにくぐった奥にホールがある。
女性スタッフは白いパフスリーブシャツにアイボリー地の柄物のベスト、エメラルドグリーンのロングスカート。
男性スタッフは白シャツにダークオリーブのベストにえんじ色のネクタイ、ベージュのズボンというスタイルだ。
広々とした店内は白い天井に壁、白いテーブルクロスが掛かった角テーブルに、くすんだ赤とマットゴールドを基調にしたストライプの椅子があり、その配色が昔からの正統派ラビティーランドっぽくて、一目見て好きになった。
勿論、椅子はそのタイプだけでなく、アイボリー、クリーム色とブラウンのストライプなどバリエーションがある。
白い格子枠の窓の上部には、椅子と同じ色の半円を描いた|上飾り《バランス》があり、その下のレースのカーテンもエレガントだ。
窓の向こうには綺麗に整えられた庭園があり、朝から贅沢な眺めにうっとりしてしまう。
私たちは席に案内されたあと、食べ物をとりに行く。
順番に見て行くと、シリアルにサラダ、フルーツポンチに、小さなグラスに入ったパンナコッタや、フルーツ盛り合わせがあり、しょっぱい系から甘い系、ノーマルと色々あるパンも並んでいる。特に甘い系はラビティーの形の物もあり、見た目が可愛い。
ポテトサラダやエッグサラダなどは、ホールケーキのような円形で、その上にプリンセスのシルエットがついているものだから、崩すのが勿体ない!
他にも雑炊やスープ、筑前煮やおいなりさん、魚のソテー、チキンのトマト煮に玉子料理各種、パンケーキにワッフル、フレンチトースト、お味噌汁にご飯、グラタン、蒸し野菜……等々。意外と和食メニューもあり、色んな物が選べて嬉しい。
「可愛い~。美味しい~」
「どっちかにしなよ」
恵に突っ込まれつつも、私は幸せいっぱいにパクパク食べていく。
尊さんと涼さんは和食メインだ。
いわく、「俺たちおっさんだから……」らしい。ブレない。
ゆっくり味わっていたいところだけど、今日は二日目だ。モリモリ食べたらすぐに部屋に戻って歯を磨いて、シーに向かわなければならない。
「……まだ入る……」
「腹八分目にしときなよ。朝からよく食べるなぁ」
また恵が突っ込み、ポンポンと私のお腹を叩く。
食事を終えたあと、私たちは可愛いレストランに別れを告げ、身支度を調えて大きい荷物を持ち、フロントに行く。
ラビティーホテルに連泊する場合、チェックアウト日のお昼まで荷物を預ければ、その日のチェックイン時間には、次に宿泊するホテルに荷物を無料で届けてくれるらしい。
ホテル代金は尊さんが事前にカードで支払ったらしく、レストランの飲み物など別料金も、彼がスマホを弄って清算していた。
「じゃあ、恵ちゃんは俺の車でね」
駐車場に入ると涼さんが恵の手を握り、彼女は「わっ、わっ」と動揺している。ソー、プリティ。
「恵、またね~!」
私は手を振って二人と別れ、ルンルンして尊さんの車に乗った。
「あの二人、いい感じですね」
「だな。涼、結構グイグイいってるけど、中村さん大丈夫だといいけど……」
尊さんは車を発進させ、徐行で運転していく。
「大丈夫だと思いますよ。確かに男性慣れしてないですが、嫌だったらハッキリ言いますから。今までもナンパされた事はありましたが、塩対応通り越して剥き出しの岩塩みたいな対応でした。それ以前に大体無視してますし。……だから乙女な恵って初めて見たんですが、あれは脈ありですね。私は知っている……」
むふふ、と笑うと尊さんも微笑む。
「俺も涼に春が訪れて嬉しいよ。大人しく見守ろうな」
「はい!」