テラーノベル
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2話目もよろしくお願いします!
スタートヽ(*^ω^*)ノ
キヨは常に注意深く周囲に意識を巡らせながら、目に見えない何者かの気配を探っていた。
どこだ——どこにいる。
気配は確かにある。
だが、姿は見えない。
距離も変わらない。
まるで、こちらを観察しているかのように。
その異様さに、キヨの神経は研ぎ澄まされていく。
しかし——
「ねぇキヨくん!見て!」
そんな緊張などお構いなしに、赤ずきんはぱっと声を弾ませた。
振り返ると、彼女はいつの間にか道を外れ、花畑の中にしゃがみこんでいる。
色とりどりの花に囲まれて、赤い頭巾がひときわ鮮やかに浮かんでいた。
「おばあちゃんにお花を摘んでいきたいの」
無邪気に笑いながら、小さな手で花を摘んでいく。
(……こいつは)
キヨは小さく舌打ちを飲み込み、周囲への警戒をさらに強めた。
視線を巡らせ、気配の主を探る。
——いる。
確実に、どこかに。
木々の奥。
草の影。
そして。
その瞬間、風がわずかに揺れた。
葉の隙間から、
一瞬だけ——黄金色の光が覗く。
獣の瞳。
その強い視線に、キヨの背筋がぞくりと震えた。
捕食者に狙われたときに感じる、あの鋭い殺意に似ている。
反射的に振り返る。
しかし——そこには何もいない。
揺れる木々と、静かな森だけ。
(……気のせいじゃない)
キヨは無意識に銃へと手を伸ばし、呼吸を整えた。
見えない何かが、確かにいる。
それでも。
「見て見て!こんなに摘めたよ!」
呑気な声が、その緊張を軽く打ち破る。
赤ずきんは満足そうに花を抱え、無邪気に笑っていた。
その様子に、キヨは一瞬だけ肩の力を抜く。
「……あんまり道から外れるなよ」
ぶっきらぼうにそう言うと、再び歩き出した。
赤ずきんも「はーい」と軽く返事をして、その後をついてくる。
再び、森の中を進む二人。
先ほどまでと変わらないはずの道。
変わらないはずの風景。
——なのに。
キヨの中の違和感だけが、確実に大きくなっていた。
まるで、試されているかのような——
そんな、得体の知れない感覚。
木々のさらに奥、影の中で。
黄金の瞳が、細く細く、細められた。
そして、目的地へ着いた頃には、あたりはすっかり闇に包まれていた。
本来なら夕方には到着しているはずだった。
だが、赤ずきんの寄り道のせいで、到着の予定時刻は大きく過ぎていた。
小さな家の扉を開けると、かすかな灯りが室内を照らしている。
中に入ると、ベッドの上にはひとりの老婆が横たわっていた。
深く刻まれた皺と、細くなった手足。
「……こんばんは。キヨです」
キヨは静かに頭を下げる。
「無事に送り届けてくれて、ありがとう」
祖母は穏やかに微笑み、そう礼を述べた。
その横で、赤ずきんは待ってましたとばかりに話し始める。
「ねぇおばあちゃん、途中のお花畑がすっごく綺麗でね!」
無邪気な声が、部屋の中に響く。
だが——
(……なんだ、この感じ)
キヨはわずかに眉をひそめた。
部屋の空気が一一一重い。
体が押し潰されるような重い空気。
言葉にできない違和感が、じわりと胸の奥に広がっていく。
「もう外は暗いし、泊まっていきなさい」
老婆が穏やかな声でそう言った。
優しいはずのその言葉に、
なぜかキヨの背筋がひやりと冷える。
(……ここに、長くいたくない)
理由は分からない。
だが、本能が告げている。
ここは——何かがおかしい。
「いえ、帰ります」
キヨは短くそう答え、立ち上がりドアの方へ向かった。
その瞬間。
キヨの足元で 何かが“ズルズル”と、這いずり始めた。
影だけが、ゆっくりと“形”を変えていく。
(……なんだ)
目を凝らした瞬間。
ズルリと影が 床を這い、キヨの足首に絡みついた。
「っ——!」
振り払おうとしたが、遅い。
影は生き物のように蠢き、キヨの足から腰へ、腕へと巻きついていく。
冷たい。
それは温度ではなく、存在そのものが冷えているような感覚だった。
ぎり、と締め付けが強くなる。
骨が軋む音が、静かな部屋にやけに大きく響いた。
「キヨくん、もっと一緒に遊ぼうよ」
無邪気な赤ずきんの声がすぐ後ろで聞こえた。
「まだ、夜は長いのに」
キヨの喉が、わずかに震えた。
ギリ、ギリ、と 影は容赦なくキヨの体を締め上げていく。
肋骨が軋み、肺が押し潰される。
「っ……ぐ、ぁ……」
息がうまく吸えない。
視界がじわじわと暗くなっていく。
そのとき——
「皆さんお元気かしら?」
耳元で、声がした。
はっきりと。
すぐ、背後で。
(……は?)
キヨの思考が、一瞬止まる。
ゆっくりと視線を横へ動かす。
ベッドには確かに老婆が横たわっている。
さっきと同じように、微動だにせず。
なのに声はすぐ後ろ。耳元で囁くように聞こえていた。
(今の声……どこからだ)
「ふふ……」
また、すぐそばで笑い声。
「あなたの家系は、昔から変わらないのねぇ」
キヨの背筋に、冷たいものが走る。
「ずいぶんと、私たちの邪魔をしてくれたもの」
「っ……は……」
締め上げられながら、キヨはかすかに息を吐く。
視界が滲み、声も思うように出ない。
それでも、睨みつけるように老婆を見据えた。
「……お前……最初から……」
喉が潰れそうなほど苦しい中、絞り出す。
「俺を……ここに……来させるために……」
ぎり、と影がさらに食い込む。
「護衛なんて……全部……仕組んだ罠か……」
その言葉に——
一瞬、静寂が落ちた。
そして。
「ふふ……気づくのが遅かったわねぇ」
老婆の声が、愉しげに歪んだ。
「ええ、そうよ。あなたをここへ連れてくるために、あの子に頼んだの」
背後で、くすくすと笑う赤ずきんの気配。
(こいつ……)
ただの老婆じゃない。
「そういえばキヨ彦さんは、お元気かしら?」
老婆は、にやりと口元を歪めた。
(……なんで、父さんの名前を——)
思考が追いつかない。
「ふふ……じゃあ、キヨ介さんは?」
祖父の名。
「キヨマサさんはどうかしら?」
曽祖父の名。
次々と並べられる名前に、キヨの瞳が大きく揺れる。
(なんで知ってる……)
そう問いただそうとした。
だが、影に喉を締め上げられ、声が出ない。
代わりに、ただ——鋭く老婆を睨みつける。
その視線を受けて、老婆は愉しげに肩を揺らした。
「あぁ……みんな、もう死んだわよねぇ」
わざとらしく、しみじみとした口調で言う。
「だって——私が、殺したんだもの」
一瞬、空気が凍りついた。
次の瞬間。
「ははははははは……!」
老婆の高笑いが、狭い部屋に響き渡る。
その笑い声は、もはや人のものとは思えなかった。
ぎり、と 影がさらに強くキヨを締め上げる。
父も祖父も曽祖父もみんな、森に入ったきり帰って来なかった。
(そうか……こいつが……全部……)
怒りか、悔しさか、 胸の奥で静かに燃え上がる。
「あなたの一族は、常に私たち魔女一族を滅ぼそうとしてきたわ」
その声には、わずかな憎しみと、長い年月を経た執着が滲んでいた。
「何度も、何度も……邪魔ばかりしてくれたわねぇ。特にキヨマサ。あいつだけは許せないわ。」
老婆の声が、低く歪む。
「あいつのせいで——我が一族は壊滅寸前まで追いやられたわ」
影が、さらに強くキヨの体を締め上げる。
「っ……ぐ……!」
呼吸が潰れる。
「お前ら一族を、根絶やしにする——」
老婆の声が、低く、はっきりと響いた。
「ずっと願ってきたわ……この時を」
影が、ぎり、と音を立てて締め上げる。
「そして——今日で最後」
ゆっくりと、顔が近づく気配。
「キヨマサの血を引く、最後の子孫」
その言葉に、キヨの瞳がかすかに揺れる。
「お前が死ねば——すべて終わりよ」
部屋の空気が、完全に張り詰めた。
逃げ場はない。
助けもない。
終わりだけがそこにある——
そのはずだった。
——パリンッ!!
次の瞬間、窓が内側へと吹き飛んだ。
砕けたガラスが、月明かりを反射して散る。
冷たい夜風が一気に流れ込み、
重く淀んでいた空気を引き裂いた。
影が、大きく揺らぐ。
そして——
闇の中から、ゆっくりと踏み込んでくる影。
低く唸るような呼吸。
獣の気配。
黄金の瞳が、まっすぐに老婆を射抜いた。
『その人を——離せ』
静かで、低く唸るような声。
それは、明確な“敵意”を帯びていた。
その瞬間。
ぐ、と影の締め付けがさらに強まる。
「っ……!」
意識が遠のく。
だが——
(まだ、終わるかよ……!)
キヨは歯を食いしばり、わずかに残った力で手を動かした。
腰に差していたナイフに、指先が触れる。
最後の力を振り絞り、キヨは腰に差していたナイフを引き抜いた。
狙いは——自分の足。
絡みつく影ごと、躊躇なく突き刺す。
「っ——!」
鈍い感触とともに、激痛が走る。
次の瞬間。
「ぎゃぁぁあああ!!」
老婆の悲鳴が、部屋に響き渡った。
影が、まるで焼かれたように震え、
シュルリとキヨの体から離れていく。
拘束が解けた瞬間、キヨの体はその場に崩れ落ちた。
一気に酸素が肺に流れ込む。
「ハァハァ….ハァハァ….」
視界が白く弾け意識が急速に遠のいていく。
ぼやける視界の中、
ただひとつだけ、はっきりと見えたもの。
——黄金の瞳。
まっすぐに、自分を見つめるその光。
(……誰……だ……)
敵か、味方かも分からないまま——
キヨの意識は、そこで途切れた。
続く
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