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3話目もよろしくお願いします!
スタートヽ(*^ω^*)ノ
キヨは、足に走る鈍い痛みで目を覚ました。
「……っ……」
小さく呻きながら、ゆっくりと上半身を起こす。
視界に広がったのは——一面の花畑だった。
どこまでも続く色とりどりの花。
風に揺れ、柔らかく波打っている。
(……ここは……)
さっきまでいたはずの、あの家の気配はどこにもない。
夢でも見ているような、現実感の薄い光景。
そのとき。
カサッ——
背後で草を踏む音がした。
キヨは反射的に振り返る。
そこには——ひとりの獣人がいた。
地面に腰を下ろし、まるで犬のように足を折りたたんで座っている。
こちらをじっと見つめるその姿は、警戒しているようでいて、どこか落ち着いてもいた。
黄金色の瞳が、静かにキヨを捉えている。
(……この瞳)
敵意は感じない。
だが、油断できる相手でもない。
獣人は、わずかに首を傾げた。
心配そうに、じっとキヨを覗き込む。
キヨは無意識に体に力を入れようとして——
「っ……!」
足に走る痛みに、顔をしかめた。
その様子を見て、獣人がわずかに身を乗り出す。
まるで様子を伺うように。
それでも距離は詰めすぎず、一定の位置を保ったまま。
奇妙な間合いだった。
助けようとしているのか。
それとも——ただ観察しているだけなのか。
キヨは荒くなりかけた呼吸を整えながら、じっとその獣人を見据えた。
黄金の瞳。
それは、魔女の家で意識を失う寸前に見たものと同じだった。
朧げな記憶を手繰り寄せながら、キヨはゆっくりと自分の足へ視線を落とす。
そこには——丁寧に手当てされた痕があった。
布でしっかりと巻かれ、血もすでに止まっている。
(……誰が)
ふと顔を上げる。
少し離れた場所で、あの獣人が静かに座っていた。
「……これ、お前がやったのか?」
キヨの問いに、獣人は小さく——コクリと頷く。
その仕草は、どこかぎこちない。
「……そっか」
短く息を吐く。
間を置いて、もう一度口を開いた。
「じゃあ……俺を、あそこから助けたのも——お前か?」
今度も、獣人は迷いなく頷いた。
風が、ふわりと花を揺らす。
静かな時間が流れる。
キヨは何も言わず、その姿を見つめていた。
(なんで、助けてくれたんだろう。)
疑問だけが、胸の奥に残る。
見知らぬ獣人。
キヨはゆっくりと息を吸い、視線を逸らさずに言った。
「……なんで、俺を助けた」
その言葉に 獣人は、ほんのわずかに目を細めたて ゆっくりとキヨの方へ近づいた。
その動きに、警戒するような気配はない。
むしろ——どこか遠慮がちで、優しい。
黄金の瞳が、まっすぐキヨを見つめていた。
『俺……ずっと、キヨくんのこと見てた』
ぽつりと、言葉が落ちる。
『ずっと……話してみたかった』
少しだけ落ち着きのない様子で、指先をもじもじと動かす。
(……なんで俺の名前を)
引っかかることはあった。
だが、それより先に。
「……助けてくれて、ありがとう」
キヨは静かに言った。
「手当も……助かった。ありがとう」
その言葉を聞いた瞬間、 獣人の大きなふわふわのしっぽが、ぴくりと動く。
そして、遠慮がちに——小さく、ぱたぱたと揺れた。
その仕草があまりにも分かりやすくて キヨは一瞬だけ、言葉を失う。
(……なんだこいつ)
さっきまで命のやり取りをしていたとは思えないほど、
この場所は静かで、穏やかだった。
風が花を揺らし、やわらかな香りが漂う。
その中で、
獣人は、少しだけ嬉しそうに——
でもどこか照れたように、視線を逸らした。
『俺、レトルト』
獣人は嬉しそうに名乗った。
その瞬間、さっきよりも大きく、ふわふわの尻尾がぶんぶんと揺れる。
キヨは一瞬だけその様子に目を奪われたが、すぐに我に返る。
「……俺のこと、ずっと見てたってどういう意味だ?」
低く問いかける。
「いつからだ」
疑問は尽きない。
レトルトは少し考えるように視線を上げ、それからゆっくりと口を開いた。
『キヨくんが……小さい時から』
『銃の練習してるときも、外で狩った獲物の捌き方を教わってるときも……』
ぽつり、ぽつりと語られていく記憶。
『登っちゃダメって言われてた木にこっそり登って、空を見上げてるときも……』
まるで、その場にずっといたかのように。
当たり前のことのように。
『あとは……』
言いかけた言葉をキヨが遮った。
「も……もういい/////」
思っていた以上に、昔から見られていた。
その事実に、じわりと頬が熱くなる。
「……そこまで細かく言わなくていい」
視線を逸らし、ぼそりと付け足す。
(なんなんだよ、こいつ……)
恥ずかしさと、戸惑いと、少しの警戒。
いろんな感情が混ざり合って、うまく整理できない。
そんなキヨの様子を見て。
レトルトは、少しだけ困ったように笑った。
それでも——
その瞳は、どこまでも真っ直ぐだった。
色々と聞きたいことはあった。
だが——今はそれどころではない。
魔女の存在。
あの異様な力。
あれを、このまま放っておくわけにはいかなかった。
「……村に、戻らねぇと」
キヨはそう呟き、無理やり体を起こそうとする。
しかし。
「っ……!」
足に走る鋭い痛み。
力が抜け、バランスを崩す。
そのまま倒れかけた——その瞬間。
すっと、視界が持ち上がった。
『危ない!!』
気づいたときには、レトルトに抱き抱えられていた。
あまりにも速く、反応する間もなかった。
『まだ、傷塞がってないから……動いちゃダメ!!』
レトルトは真剣な顔でそう言いながら、キヨをしっかりと支える。
その腕は思っていたよりも力強く、けれどどこか優しかった。
「……おい、離せ」
思わず反射的に言ってしまう。
だが、レトルトは首を横に振った。
『ダーメ』
きっぱりとした声。
そのくせ、どこか不安そうにキヨの顔を覗き込む。
(……こいつ……)
距離が近い。
思った以上に近くて、
思った以上に、体温が伝わる。
キヨはわずかに顔をしかめながらも、力を抜いた。
『もう一回手当するから、座って?』
今の自分では、まともに動けないのは事実だ。
「……ありがとう」
ぶっきらぼうに言ったその言葉に レトルトの尻尾が、嬉しそうに大きく揺れた。
包帯に目を落とすと、
塞がりかけていたはずの傷口から、じわりと血が滲んでいた。
さっきの無理な動きで、開いたらしい。
『あー、ほら……もう』
レトルトが小さくため息をつく。
『動いたから、開いちゃったじゃん』
少し呆れたように言いながら、
それでもどこか心配そうな声だった。
ゆっくりとキヨを地面に下ろす。
『ちょっと見せて』
そう言ってしゃがみ込み、
慣れた手つきで包帯を解いていく。
ほどかれた布の隙間から、
赤い血がとろりと滴り落ちた。
「……っ」
思わずキヨは顔をしかめる。
レトルトは眉を寄せ、じっと傷口を見つめた。
滴る血を見た瞬間。
レトルトの喉が、コクリと鳴った。
(……美味しそう)
ふと、そんな言葉が頭をよぎる。
自分でも驚くほど自然に。
口の中に、じわりと唾液が溢れてくる。
視線が、無意識に傷口へと吸い寄せられる。
とく、とく、と。
まだ新しい血が、ゆっくりと滲み出ていた。
——ゴクリ。
小さく、唾を飲み込む音。
「……どうした?」
キヨの声で、はっと我に返る。
顔を上げると、すぐ近くでキヨがこちらを覗き込んでいた。
距離が近い。
血の匂いが、より濃くなる。
レトルトの瞳が、わずかに揺れた。
『……いや、なんでもない』
少しだけ遅れて、言葉を返す。
けれど。
視線は完全には逸らせない。
傷口と、キヨの首元を行き来してしまう。
(……だめだ)
理性で抑えようとする。
でも。
体の奥で、何かがざわついている。
指先が、かすかに震える。
喉が、異様に乾く。
(……食べたい)
その衝動が、頭の奥で膨らむ。
理性がそれを押しとどめようとするが、
波のように何度も押し寄せてくる。
荒くなりかけた呼吸を、必死に抑えながら レトルトは何事もないふりをして、傷の手当てを続けた。
そのとき。
キヨの血が、指先に付く。
ほんの少し。
赤く、温かい。
——気づいたときには。
レトルトは、その指を舐めていた。
『……っ』
舌に触れた瞬間、
ドクン、と心臓が大きく跳ねる。
全身の奥から、〈本能〉が一気にせり上がってくる。
抑えきれない。
もう、抑えられない。
気づけば——
キヨの体を押し倒していた。
「……レトルト?」
状況が理解できないまま、キヨが目を見開く。
そのすぐ上で。
レトルトは、荒い呼吸を繰り返していた。
黄金の瞳が、揺れている。
さっきまでの優しさとは違う、
どこか獣じみた光を帯びて。
「…離れ….て」
かすれた声で、そう呟く。
だが——
体は、離れない。
むしろ、無意識に距離を詰めてしまう。
(だめだ)
頭では分かっているのに。
キヨの匂いが、体温が、
すぐそこにある“命”の気配が——
レトルトの理性をじわじわと削っていく。
「やめろ、レトルト!」
キヨは必死に抵抗すた。
腕を押し返し、体を捩る。
だが——
レトルトの体はびくともしない。
人間と獣。
その差は、あまりにも大きかった。
『ゔっ……はぁ……っ』
レトルトの呼吸は荒く 抑えきれない本能に揺さぶられているのが、はっきりと分かる。
そのまま、ゆっくりと顔が近づく。
キヨの首筋へ——
「……っ!」
ひやりとした感触が 首筋をなぞる。
「あっ…やめ…やめて。や…だっ」
恐怖で体が小刻みに震える。
首筋に甘噛みの様に歯を立てられ思わず声を上げてしまう。
「あぁっ….(怖い、食べられる)」
そのまま耳の裏へと近づき くすぐるように鼻先がかすめた。
耳を舐め上げられて鼓膜に水音が響く。
くちゅ…くちゅ..ぴちゃ…ぐちゅ。
「あっ、んっ…レト..ル…んっ」
震える声で、かろうじて言葉を絞り出すがレトルトには届いていないようだ。
そして、レトルトは——キヨの唇に、かぶりつくように口づけた。
「んっ、んんっ」
レトルトの柔らかい舌が無遠慮にキヨの口内を掻き乱す。
「んっ…ぁ、ん、だめ…ふ、ん..ぁ」
上顎をねっとりと舐め上げられ、唇を甘く噛まれ息を吸う暇さえ与えてもらえない。
キヨは恐怖と酸欠で力が抜けていく。
「……っ、レトルト……!」
ようやく押し返すようにして、キヨが声を上げる。
その声で はっとしたようにレトルトの動きが止まった。
唇が離れ2人の間に ほんのわずかな隙間を作った。
『ご……ごめん』
レトルトは、弾かれたようにキヨから離れた。
『ごめん……ごめん……』
両手で自分の頭を押さえ、荒く息を吐く。
「どうして……急に……なんで……」
キヨは荒い呼吸のまま、レトルトを見上げた。
さっきまでの出来事が頭の中で整理できず
声は恐怖でわずかに震えていた。
レトルトは何も言わず、少しだけ俯いた。
大きな耳はしょんぼりと垂れ、
さっきまで揺れていた尻尾も、力なく地面に落ちている。
その姿は、まるで叱られた子どものようだった。
しばらくの沈黙のあと——
『……俺』
ぽつりと、声が落ちる。
『ずっと……ずっと、キヨくんが好きだった』
その言葉に キヨの思考が、一瞬止まる。
「……え?」
間の抜けた声が、思わず漏れた。
予想もしていなかった言葉。
さっきまでの衝動とは違う、まっすぐすぎる想い。
レトルトは顔を上げないまま、続けた。
『小さい頃からキヨくんのこと…ずっと見てて』
『強くなっていくのも、頑張ってるのも……全部、知ってる』
少しだけ拳を握る。
『でも……話しかける勇気、なくて』
『やっと会えたのに……こんなこと……』
声がかすれる。
後悔と自己嫌悪が、はっきりと滲んでいた。
『……ごめん』
小さくそう呟く。
キヨはしばらく何も言えなかった。
頭が追いつかない。
命を助けられて。
襲われて。
そして——告白された。
混乱したまま、キヨはゆっくりと息を吐いた。
さっきまで感じていた恐怖とは違う感情が、少しだけ胸に残った。
続く
コメント
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続きありがとうございます!!😭︎💕︎💕私の考えていることが立派な文章に、、、最高すぎます!!🥹