「ん~歌ったあ。僕ちょっとトイレ行ってくるから、席外すね。あっ、飲み物とかとってこようか?」
「じゃァ、俺コーラ」
「おい、朔蒔。すぐに甘えるな……って、俺も、お言葉に甘えて、オレンジジュースかな」
「分かった、朔蒔くんはコーラで、星埜くんはオレンジね」
と、楓音は立ち上がって、俺達の空になったグラスをトレーに乗せる。慣れた手つきでやるものだから、こういうバイトとか向いてそうだなあなんても思った。
まあ、それは良いとして、あれだけ歌えば、喉は渇くだろうし、トイレも行きたくなるよな、とそれまで楓音の独壇場だったことを思い出しながら、俺は楓音を見送った。俺と、朔蒔では場が持たないくらいの曲の量だったし、楓音がいてくれて助かったと、思う。楓音のぬたを聞けるだけでも、かなり得している気分になるし、この時間は有意義だったと思う。知らない曲も、流行の曲も覚えられて、何だか流行に乗った気分だった。
「楓音が戻ってくるまで、何か歌うか? 朔蒔」
「んーじゃあ、楽しませて貰おうかな」
「たのし……って、おい。お前っ! この、発情猿がっ!」
スススッと俺の方にすり寄ってきたかと思えば、俺の太ももを撫でてきたのだ。
「えっ、何で怒ってンの?」
「お前が、そんな事するからだろっ」
「そんなことって、どんなこと?」
「分かってて、わざ……んんっ」
思い出すな、俺。
朔蒔に触れられるたび、ジンジンと体が疼いて、朔蒔を求めてしまうあの感覚を。
今だって、朔蒔の指先が触れたところが熱い。もっと触ってほしいと思ってしまう。
朔蒔は、わざとらしく、俺の耳元に唇を寄せて囁いた。
「感じてんの? 楓音ちゃん、いつ戻ってくるかわかんないぜ?」
「ッ!?」
慌てて、声が漏れないように口を塞ぐ。
「星埜の可愛い喘ぎ声、聞かせてあげれば? 楓音ちゃんも喜ぶかもよ?」
「んんっ……」
朔蒔の手が、俺の股間に伸びてきて、服の上からもみもみと揉まれる。それだけで、ビクビクと震えてしまう。
朔蒔の手を掴んで抵抗するも、力が入らない。
朔蒔は、俺の耳の穴に舌を入れて舐め回してくる。ゾワリと背筋が粟立つ。朔蒔の息がかかるたびに、阿呆みたいに身体が反応するから、不甲斐なさと、涙が滲み出てくる。
いつもこうやって、流そうと……それで、流される俺もアレだけど!
(てか、あり得ないだろ。楓音ときてるのに! ここ、カラオケボックスだぞ!?)
幾ら防音で、密室だからといって、誰かがはいってこないわけじゃない。ここは、料理以外は、セルフでとるようになっているし、問題ないけれど、たまに間違えて他の人が入ってくる可能性だってあるんだ。それに、防音とは言え、大きすぎれば隣の部屋に音が漏れる。
「おま、ふざけんなよ」
「ふざけてない、ふざけてない。おーまじめ」
「クソ……っ、がっ!」
俺の言葉に、朔蒔は俺の首筋に噛み付いてきた。痛い。本気で噛んでいるのが分かる。俺は、朔蒔の頭を押し返そうとするが、全く離れる気配がない。それどころか、朔蒔は、首に歯を立てたまま、強く吸い上げてくる。
(痛いのが気持ちいいって可笑しい、俺可笑しい!)
全部可笑しい、身体全部、朔蒔に塗り変えられていくような、そんな錯覚に囚われる。
「お前、跡つけるなって……ッ!」
「何で? あっ、そっか~バレるもんなァ」
悪びれた様子もなく、朔蒔は俺から一瞬だけ離れるが、また面白そうに俺に覆い被さってくる。ゴトンと、マイクが一つ机の上から落ちる。拾うような余裕なんてない。
「でもさァ、星埜が悪いんじゃねェの? お前、無防備すぎるんだって」
「俺のせいにするな! ぐりぐり押しつけんなよ!」
朔蒔は、自分の股間あたりを俺に押しつけてくる。その熱さにドキリとする。
まずいって頭ではいってるし、分かっているのに。それで突かれたらどうなるのとか、奥の方をゴリゴリされたらとか、想像して、キュンとしてしまう。
「あーもう、やばいって、これ」
「お前、何勃たせてんだよ……っ」
「星埜も、期待してるくせに。な? いいだろ? 先っぽだけ」
「いいわけ、あるか――あぁッ!」
先っぽも何もない。ずるりと、ズボンがずらされて、何処からとりだしたのか分からないワセリンを、孔に塗りたくられて、そのままズプンと一気に朔蒔のものが入ってきた。
嘘だ、信じられない。
「ひぃああッ!」
「やば、きもちィ……」
「あッ、あッ、あッ、」
いきなり突き上げられて、ガクンガクンと身体が揺れる。朔蒔のが中に入っていると思うだけで、無視意識に締めてしまう。此奴を、奥へ奥へと誘導するようにうねってるのが自分でも分かった。クソ淫乱な、自分の身体に嫌気がさす。
けれど、声はきかせてたまるかと、どうにか口を塞いでみる。だが、指の隙間から、熱っぽい母音が漏れてしまう。
「あ~イイ! 星埜さいっこ~」
「うぅんっ! あっ! んん!」
「そういや、ここカラオケボックスだったな。つことは、星埜の喘ぎ声大音量で流せるんじゃね?」
と、本当に狂った考えをお持ちのようで、朔蒔は手探りにマイクをたぐり寄せて、俺に向けてくる。
本当に信じられない。
「んじゃァ、一杯聞かせてくれよ。せーの♥」
「んん、んん!」
最後の抵抗。ここは、阻止せねばと、俺は首を横に振る。だが、朔蒔は策があるといわんばかりにニタリと笑って、マイクを持っていない片腕で、俺の腰をがっしりと掴み直す。そして、勢いよく、思い切り最奥まで叩き付けてきた。ごちゅんと音が聞こえてきそうなくらい、乱暴に。
衝撃で、俺は目を剥いた。
そんな俺の様子を見て、朔蒔は愉快そうに笑っている。かぱりと空いてしまった口から、もの凄い声量の喘ぎ声が漏れる。それを、朔蒔はのがさまいと、マイクを近づけ、部屋のスピーカーからあられもない音を響かせる。
「ああんんん――――ッ!」
「星埜。お前の声最っ高だよ」
クソ、絶対殺す。
そう、俺は心に誓いながら、かすみゆく視界の中、恍惚とした笑みを浮べた朔蒔を睨み付けた。
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