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彼の問いには答えず、首筋や鎖骨に唇をつける。
私はこんなにも必死なのに、彼は私の髪の毛を指先で巻いて遊んでいるくらい平気。
服を脱がしながら、キスをした。
心臓が飛び出そう。
半裸の彼、腰の部分をチラッと見たが、よく見えない。
傷がある部分は右腰の後ろだし……。
この状況で<後ろ向いて?>は無理がある。
だったら――。
私はベルトを外そうとした。
カタカタっという音がするも、緊張で手が震えていてなかなか外せない。
すると――。
「もういいよ。美月」
止められた。
「そこまでして、美月が知りたいことって何?頑張ったから、一つだけ答えてあげる」
「えっ?本当!?」
ああと言いながら
「水持ってくる」
彼がベッドから立ち上がった。
あっ!!
彼がまだ服を着ていなかったのが幸いした。
私が予想した通りのところに、何かに噛まれたような傷があった。二つ点が付いている。
こんな偶然が重なることなどそうはない。
目の前に居るのが、子どもの時に大好きだった迅くんだ。
「美月もなんか飲む?」
彼はいつもと変わらない様子だった。
私が過去のことを思い出したなんて知ったら、どんな反応をするんだろう。
「ううん。大丈夫」
なんて聞けば……。
「で、質問って何?」
彼の目線は私に向けられている。
「子どもの頃……。私と仲良くしてくれた《《迅くん》》は、あなたなの?」
洋服を着ようとしていた彼の動きが止まった。
「その腰の傷は、私の代わりに犬に噛まれた時のもの……だよね?」
お互いにその後、無言になった。
それは時間にすると十秒くらいのもの。けれど、その十秒が数分以上経っているような感覚。
加賀宮さんは真っすぐに私を見据えている。
「そうだよ。《《美月》》」
子どもの頃、毎日優しく私の名前を呼んでくれた。
なのに今まで思い出せなかった。
それが悔しくて
「《《迅くん!》》」
私は子どもの頃のように、彼に抱きついた。
「どうしたんだよ。てか、昔も泣いた後、抱きついてきたよな?」
ハハっと彼は笑いながら、ギュッと私を抱きしめてくれた。
「ごめん……!今まで忘れていて本当にごめんなさい!ねぇ、あの時、痛かったよね?」
彼が抱きしめてくれて、嬉しいと感じてしまった自分がいた。
「何十年前の話してんだよ」
「だって。信じてくれないかもしれないけど、昨日思い出したの。本当にごめんなさ……」
彼は私の頭を撫でてくれた。
「忘れたのは、美月のせいじゃないだろ?記憶がなくなったことは、当時、美月の親から聞いてるよ」
優しかった頃の、子どもの迅くんに戻ったようだった。
私がもう一つ聞きたかったこと――。
「BARで久し振りに会って、《《あんなこと》》私にして、契約を結んだのはどうして?」
やっぱり迅くんは私のこと恨んでいたの?
「昨日言っただろ。俺の愛情表現、歪んでるって。今だって、美月のことを求めたくて我慢してる。狂ってるから、俺」
彼の言葉を聞いて、ビクっと身体が反応してしまった。
あれが愛情表現?
「美月は俺のこと、どう思ってんの?」
ストレートな質問。
過去のことを思い出して、自分が迅くんのことを好きだったことを知った。
私は今も彼を……。
「理由はどうあれ、あんなことして脅すって酷いと思う」
「じゃあ、俺のこと嫌い?憎い?恨んでる?」
私の心の中まで読まれている気がした。
彼はわかってそんな質問をしてくる。
やっぱり、《《優しい》》と思った迅くんとの時間は一瞬で終わってしまった。
「……。嫌いじゃない」
彼の胸の中でそう答える。
嫌いじゃない、けれど、好きになってはいけない。私は既婚者だ。
でも、彼に自分から抱きついてしまっている時点で、不倫《孝介》と同じ。
この気持ちは過ち。だけど、戻れるの?
彼への気持ちを断ち切らなきゃいけない。そんなこと、できる?
この関係も本当は終わりにさせなきゃいけないのに、拒んだのは自分の方だ。
「嫌いじゃなかったら、《《普通》》ってこと?」
彼に追究されるのはなんとなくわかっていた。
ここで本当の気持ちを伝えたら――。
「美月が……。俺を必要としてくれたら、俺はこれからどんなことがあっても美月を守るよ。あの時みたいに――?」
子どもだった迅くんは、何の迷いもなくあの時私を助けてくれてた。
「私は昔の迅くんも……。今の迅くんも……。好きだよ」
私が想いを伝えた時、もう一度ギュッと抱きしめてくれた。
彼の胸の鼓動が聞こえた気がする。
なんだ、こんなにドキドキしているのは私だけじゃない。
彼だって、こんなに鼓動が速いんだ。
「俺も美月が好きだ。絶対にもう離さないから」
涙が溢れる。
嬉しい。嬉しいけれど――。
「結婚する前に、もう一度あなたと出逢いたかった」