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「俺の、悲願は叶うのか……?」
そうだ。最初からそこに期待してそれだけを求めてここまでついてきた。ダリルは見せたいのだと。何を、と思ったがそれは特効武器というものの可能性。つまり俺の、みんなの仇を討つという実力では到底成し得ないことを現実にしてしまうその可能性を!
「ビリーくん」
「うん? どうしたんですか、ミーナちゃん」
俺がこの先の未来の可能性に歓喜しているところを、ツンツンとつつく狐獣人の女の子。やば、何この子とっても可愛い。
「終わったら、またピクニックいこうね」
「ああ、それね。もちろんだよ」
この子にも本当お世話になった。そうお世話に……。
「忘れないで、約束だよ?」
狐獣人の子はそう右手の小指を差し出して来る。
世話になった人の知り合いの子のお願いくらい聞くのが筋だろう。俺はその小指を同じく小指で握って指きりして約束する。
「忘れないよ。君もあの丘のピクニックに連れて行こう」
その子は俺の言葉にハッとした顔をして、指きりしたあとはそそくさとダリルの元に行ってしまった。
⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎
営業の終えた工房でダリルは1人。すでに火を落とした炉に新しい火が入る。その火はこれから剣を鍛えるとは思えないほどの暖かさをたたえている。
振るう金槌はまるで人々を癒すように心地のいい音を立てて。飛び散る火花の中には紅蓮の燐光が混じり、それはやがて青みを帯びたものに変わる。
脂は魔道具と魔石を介してその内在する魔力を剣へと移していく。そこに淡い桃色の毛が1束、同じように魔力になりそのすべてを包み纏め上げていく。
やがて東の空が白んでくる頃に、一振りのブロードソードが出来上がった。
⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎
「抜いてみてもいいか?」
「それはもうお前のものだ、許可などいらん」
これがこのダリルという男の鍛えた剣。その抜き身の刀身を見て思わずため息が漏れる。
「その剣と紅蓮蝶での経験があれば9割がた問題はないだろう」
「んん? そこは10割とか絶対とか言ってくれるとこじゃないのか?」
「物事に絶対などない。だが……そうだな、そうであって欲しいとだけはいっておこう」
不器用で無愛想な男の精一杯のエールだろう。勝手にそう決めつけてやる。
だから俺もさっぱりと出ていこうと思う。
「ありがとうな、ダリル」