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「……おい、舘さん。起きろって」
深澤の自宅、リビング。
テーブルの上には空になった缶ビールと、デリバリーの容器が散乱している。
深澤はゴミを袋にまとめながら、ソファで置物のように固まっている宮舘の足をペシッと叩いた。
「ん……」
「『ん』じゃねーよ。帰るんじゃなかったの? もうタクシー呼ぶぞ」
深澤がスマホを手に取るが、宮舘は動かない。
ゆっくりと目を開け、少し充血した瞳で深澤を見上げた。
普段のキリッとした表情はどこへやら、完全にオフモードの、ただの眠そうな男だ。
「…ふっか」
「あ?」
「…水」
「はあ? 自分で入れろよ」
深澤は口では文句を言いながらも、ため息混じりにキッチンへ向かい、グラスに水を入れて戻ってきた。
なんだかんだで、こいつは言うことを聞く。それを宮舘は知っているのだ。
「ほらよ」
「…ん、サンキュー」
宮舘は上半身だけ起こして水を受け取ると、一気に飲み干した。
そして、グラスを深澤に返すと同時に、そのまま深澤の腰に頭を預けて再び倒れ込んだ。
「おい!重いって!」
「…動けない」
「嘘つけ。さっきトイレ行ってたじゃん」
「今は、無理」
宮舘が深澤の太ももに顔を埋める。
甘えているというよりは、「枕としてちょうどいいから使う」というような、長年の付き合いゆえの図太さだ。
でも、その無防備な後頭部を晒せる相手は、そう多くないことも深澤は知っている。
「お前さぁ、俺のことなんだと思ってんの?」
「深澤辰哉」
「だから?」
「高校の時から、全然変わんないね」
唐突な言葉。
宮舘は顔を埋めたまま、ボソボソと呟く。
「文句言いながら、結局…。お前は優しい」
「……っ、」
「だから…安心する」
酒のせいか、深夜のせいか。
普段なら絶対に言わないような本音を、さらっと投下してくる。
深澤は「……バーカ」と小さく毒づくと、抵抗するのを諦めて、宮舘の頭に手を乗せた。
「……調子狂うわ、マジで」
深澤の指が、セットしていない宮舘のサラサラな髪を適当に弄る。
宮舘はそれを拒否することなく、深澤の体温に包まれて、小さく寝息を立て始めた。
「……おい、寝んなよ。マジで泊まる気かよ」
返事はない。
深澤は大きなため息をつきつつも、近くにあったブランケットを手に取り、不器用に宮舘の肩にかけてやった。
「……風邪引くなよ、涼太」
誰にも見せない、オフの顔。
それを独り占めできるのは、長い時間を共に過ごし、文句を言い合いながらも隣にいた、この腐れ縁の特権なのかもしれない。