「いやぁ〜渡辺君、良かったよ〜!」
バラエティーの収録で共演した、大御所のお笑い芸人が…突然声を掛けて来た
共演した番組で渡辺がしたコメントを凄く気に入ってくれた様で
才能があると、何度も何度も褒めてくれた…
「ありがとうございます…」
褒められているのは分かっている、相手に悪気が無い事も…
彼は肩を叩き、背中をさすり…ボディータッチを激しくするタイプの人間の様だ
『気持ち悪い…』
何とか笑顔を保っているものの、だんだんと体が拒否反応を示し…気分が悪くなってくる
それでも大御所相手に話の腰を折る事も出来ず、ただひたすら耐えていた…
そんな時
「あの、すいません…しょっぴー、いや渡辺君…体調が悪い様なので…」
急に向井が話に割って入って来た
「えっ…そうなの?」
相手は慌てて手を引っ込めて
「引き止めて悪かったね…それじゃあ次も期待してるから、お疲れ様」
そう言って、颯爽とスタジオを出て行った
「なんで声掛けて来たんだよ…あれじゃあ、あの人のお前に対する心象が悪くなるかも知れないだろ…」
渡辺は、助けてもらったはずなのに…憎まれ口を叩く
しかし向井は、それを特に気にする事もなく
「だって、しょっぴー凄く辛そうやったから…」
当たり前だとでも言う様に、ケロッとした表情で冷たい水を差し出した
「あ…ありがとう…」
それを受け取りひと口飲むと、少しだけ気分が軽くなった気がする…
「どういたしまして」
満面の笑みの向井
コイツはいつも、どうしてこうなんだ…
自分のペースを掻き乱され、それを不快に感じていない自分に気付き…戸惑いを示す
「もう帰る…」
「あっ、しょっぴー待って!」
困惑した顔を見られたく無くて、その場を去ろうと歩き出すと
慌てて、その後ろから着いてくる…
その頃には、先程まで気分の悪かった事など忘れていて…
ただ今まで頑なだった己の心の奥底に、突然巣くい始めた向井康二という存在を認識し
渡辺は、焦り始めていたのだった
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