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黒いスーツ。
フェドラ帽を目深に被った、見慣れた後ろ姿。
街灯の下、静かに立っているその背中に、エリオットは迷わず近づいた。
「チャンス」
呼びかける声は、柔らかくて、少しだけ安堵が混じっていた。
返事はない。
それでも構わず、エリオットはその手を取る。
冷たい指先が、なぜか妙に現実的で——
少しだけ、安心する。
「探したよ」
軽く笑いながら、顔を覗き込もうとした瞬間——
違和感が走った。
ゆっくりと見上げる。
そこにあったのは、
チャンスじゃない。
知らない男の顔だった。
暗がりの中でもはっきり分かる。
整いすぎた輪郭、感情の読めない目。
そして——
こちらを“知っている”ような視線。
ぞくり、と背筋が冷える。
「……誰」
声が掠れる。
男は答えない。
ただ、エリオットの手を握ったまま、少しだけ力を込めた。
逃げられない。
その距離、その空気、その圧。
まるで最初から——
ここに来ることが決まっていたみたいに。
「やっと、触れたな」
低い声が、やけに近くで響く。
その瞬間、
心臓が、嫌な音を立てた。
目が覚める。
荒い呼吸のまま、天井を見つめる。
「……っ、は……」
手が、まだ握られている感覚を覚えている。
夢だ。
分かっているのに、指先がじんわりと熱を持っている。
ゆっくりと起き上がり、顔を覆う。
「……なんだ、あれ」
チャンスの夢を見ること自体は珍しくない。
けれど、さっきのは——違う。
あの男の目。
知らないはずなのに、どこかで見たような、
いや、“見られていた”ような感覚。
記憶の奥をかき回されるような、不快な余韻。
ゆゆゆゆ
3,331
#doublefedora