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シーニャも元通りになったしおれも元の姿に――シーニャの記憶は戻ってくれるのだろうか。おれが人の姿に戻ってしまえばどうなるんだ?
「アックさん、それが獣化ですか。フェンリルだなんて凄いものですよね~」
驚きもせずに近付いて声をかけてくるとは、|曲者《くせもの》にも程があるぞ。スキルの解放でこの姿でも人の言葉を話せるとはいえ、リリーナさんはまるで動じていない。
「リリーナさん。そんなことより、シーニャを戻してくれますよね?」
「……すでに戻っているのでは?」
「今のシーニャは、獣化のおれに従っているだけですよ。いつもの彼女とは違いますよ」
魔石によって人の姿のおれに対し、攻撃を一切止めなかった彼女だ。獣化でボスとして君臨したことになったから大人しくなったが、人の姿に戻ってしまえば攻撃をしてくるのではないだろうか。
当のシーニャはいつもはしない獣っぽい仕草でおれの言葉を待っている。おれと話すリリーナさんに対して、敵対心を高めながら警戒している感じだ。
「それでしたら心配ありませんよ。獣化で従えたのでしたら、人の姿に戻った時点で彼女は以前よりもアックさんに服従を誓うはずです」
「服従って……」
「シーニャさんにとっては悪い意味ではありませんから、戻られては?」
「分かりました」
にわかには信じがたい言葉だが、この姿のままではミルシェと戦うことが出来ない。今はこの人を信じるしか無さそうだ。
「……ウニャ?」
シーニャは獣化が解けていくおれに気付き、虎耳をぴんと立てている。果たしてどうなるのか。
「ふぅぅ……」
獣化から解く方が体力を消耗するようで、やはりあまり使い勝手のいいスキルでは無い事が分かる。無敵状態を維持するということはそういうことなのだろう。
「フニャウゥ……アック、アックなのだ? シーニャ、アックを待っていたのだ」
「おれのことが分かるのか?」
「ウニャ? アックはアックなのだ! シーニャのボス、シーニャのアック……シーニャの主人なのだ! ウニャッ!」
ああ、そうか。
おれに対する彼女の心はボス以上のものになっていたから問題は無かったわけだ。おれに対する試練というより、魔石に刻まれた彼女たちも強化されるということになる。
「アックさん、この村の意図に気がつかれましたか?」
「まぁ……|質《たち》が悪いですけどね」
「何も問題が無かったようですので、最後の試練を始めましょうか」
ルティの母親といい、リリーナさんといい、何て厄介な人たちなのか。先を見通せる力を有しているのかもしれないが、もう少しこう――。
そう思っていたらこの場には、すでにおれとミルシェの姿しか見えなくなっていた。シーニャもせっかくおれと再会したのに、また霧で隠されることになるとは思ってもいないだろう。
「あら……? あなた、ラクルの冒険者じゃない? 確か名前はアック!」
やはりミルシェの記憶も水棲怪物の時にまで戻っているか。しかし彼女の場合は、おれに対する忠誠心というものは無かったはず。そうなると更なる覚醒を果たした場合の力はどういうものになるというのか。
「ああ、そうだ。きみは水棲怪物スキュラ……だよな?」
「ねえ、宝珠をちょうだい? くれるんでしょ? くれないとどんな目に遭うのか、想像したくないと思うんだけど?」
「……宝珠か。そういや、そうだったな」
あの時の彼女は魔石に魅了されておかしくなっていた。しかし魔石は今、彼女の近くで精神支配をしている。そうなると手持ちの魔石だけを使ってガチャを引くことになるが、それをしたからといって彼女がいい方に動くとは限らない。
迂闊にガチャをしてはいけない気がするがどうするべきなのか。
「ねえ、まだなの? 宝珠が欲しいって言ったじゃない! ほら、早く~」
「……ちょっとだけ時間をくれ」