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天史拾遺長歌集

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天史拾遺長歌集

111 - 私たちの立ち位置

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2025年07月20日

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「これが、カギ………?」


「え? うん………。 一応」


私は唖然あぜんとして、ほのっちの横顔に目を向けた。


鳥居の真下で身をかがめた彼女は、柱の根元ねもとを熱心に見つめ、“施錠せじょう”の具合をたしかめている。


いたって真面目まじめな表情だ。


それにならい、改めてじっくりと観察する。


藁座わらざの部分にペタペタと、小さな紙片しへんのような物が何枚も貼り付けてあるのだけど、これはどう見ても


「プリだよね?」


「プリですね」


写っているのは御祭神ごさいじんのあの女神ヒトと、なにか得体の知れない影のようなもの。


「これ、心霊写真………」


見たままを率直そっちょくに述べたところ、ほのっちが吹き出した。


「いやちが……っ。 これ、あのかたのお兄さん」


「え?」


「そう、お兄さん……。 沖さんね? あのヒト落ち着きがなくって。 あと、妹思いっていうか、妹さん大好きだから」


つまり、あれだろうか?


大好きな妹神とプリを撮れるというんで、テンションがぶち上がった結果、こういう絵面えづらになってしまったと。


「この辺りだと、どこだろ?」


「ん、モールですかね? 栄市さかえしの」


「こっちには無いもんね? 撮れるとこ」


偶像崇拝ぐうぞうすうはいという概念がいねんがある。


神仏の姿形をした像や絵画などを、崇敬すうけいの対象と見做みなす考え方であるが、これはそういったものに近い性質を持っているそうだ。


魔除まよけになる感じ?」


「うん。 陽の気配もバチバチなんで、かなり強力ですよ」


たしかに、暗然あんぜんたるいんの気をまとうモノにとって、この笑顔はまぶしすぎるのかも知れない。


からぬモノがふらりと立ち寄ったとしても、たちまち回れ右を余儀よぎなくされるだろう。


しかし、これはどう見ても


「心霊写真………」


続けて、境内けいだいすみに移動したほのっちは、後腰うしろごしから抜き出した小刀しょうとうしのぎを使って、瑞垣みずがき天辺てっぺんはしから順番にチャンチャンと打ち始めた。


警備強化との事らしいが、実際にどういった作用さようがあるのか、素人目しろうとめにはわからない。


「“終わりはあるよ?”って、教えてあげる感じかな………?」


「終わり…………」


「人間には、必ず終わりがあるじゃないですか? いや、変な意味じゃなく」


テンポ良く作業を進めながら、彼女はこちらを見ずに続けた。


「でも、きちんと歩けてる。 終わりが来るって分かってるのに、毎日をちゃんと生きてる。 それが人間の強さなんですよ」


そんなふうひょうされるのは、決して心外とは言わないが、何となく面映おもはゆい。


ゴールがあるから歩いていける。


そういう考え方も出来るのではないか。


「でも、私たちは……」と、手を止めた彼女は、そこでやっとこちらに目を向けて、力なく笑った。


どことなく、自嘲じちょうを感じさせる表情だ。


“自分たちはケダモノだから”と、あの夜、おのれあざけった結桜ゆらちゃんの顔が、不意に思い起こされた。


「終わりのない連中に、こうやって終わりの気配をにおわせる感じかな……? ぜったいビビるでしょ?」


すぐに単調な作業を再開したほのっちは、そのように説明を加えた。


物騒ぶっそうなことを言っているが、その背中がいつもより小さく見える。


たしかに、自身を不死身と信じてまない者が、急に目先に“りょう”を突きつけられた場合、その者が感じる恐怖ははかり知れないものがあるだろう。


気掛かりなのは、“それ”をあつかう彼女はどうなのかという事だ。


終わりのないモノに終わりをチラつかせ、時には手ずからそれをくれる。


その心労は、果たしてどれほどのものか。


これまでの道々みちみちを想い、あの夜を思う。


私をみ込もうとした呪いの壁を、彼女は迷いなくぷたつに両断した。


迷いなく、真っ二つに。


もう、そんな事をさせてはいけない。


あの細い肩に、これ以上の重荷おもにむわけには。


「こっちのほうは、ちょっと足元悪いんで」


境内の北側をめるもりの前で、彼女はひとまず私に待ったをかけた。


「大丈夫。 ちゃんと望月さんの目が届く所にいますから」


そう告げて、独りで木々の合間あいまへ踏み込んでゆく。


どうやら、こちらのつたな思惑おもわくは、うに筒抜つつぬけだったらしい。


そりゃ、昨夜ゆうべからあれだけ警戒心をき出しにしていれば、誰でも気づくよねと思う。


「お前さ、なんか悩んでんだろ?」


所在しょざいなく立ち尽くす私の肩を、幸介が軽く小突こづいた。


「え……? なんで?」


「いやいや! 誤魔化ごまかせると思ってるの!?」


こちらも、何やかんやで察しのいいタマちゃんが、軽妙なフットワークを生かし、さっと退路に立ちふさがった。


「そっちのほうがビックリだよ!」と、信じられないものを見るような顔つきで言う。


さすがに、そうだよね………?


これだけ分かりやすい態度でいれば


昨夜ゆうべから変だったろ?」


「え?」


「うん。 帰ってきた時から変だったね?」


立ちどころに、肩の力が抜けた。


この二人にはかなわない。


「まぁ、隠し事すんのはいいけどさ。 遠慮えんりょだけはすんなよ?」


「そうだよー? 私たちの間で隠し事はなし!」


「いやいや! いいんだよ隠し事は。 そんなもん誰にでもあんだろ?」


「えぇ? 幸介なに隠してるの?」


いつしか、私たちの立ち位置がズレつつあると、そんなことを思うようになっていた。


あれはみんなで心霊ツアーに出かけた夜、逆立さかだち女の恐怖について、“ヤバかったね?”という安直な感想に行き着いた後のことだ。


『けど、モミジのほうがヤバかったか? 体感的には』


『あー、たしかに! 完全に怪獣だったもんね』


“いや、こないだの呪いもたいがい”と言いかけて、私は咄嗟とっさに口をつぐんだ。


三人そろって踏み出したはずの“こちらがわ”で、私だけ先へ先へと。


ちがう。


私はたぶん、迷子まいごになりかけていたんだと思う。


目先の明かりを注視するあまり、周りが見えなくなっていた。


あの夏、あの池で、しっかりと三人でつないだ手を、離しそうになっていたのかも知れない。


「相談、ある………」


やっとの思いでしぼり出した言葉は、我ながらカタコトのようだった。


これに対し、幼なじみはそろってニッカリと破顔はがんした。

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