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ごきげんよう、じゃんぬです。
カンヒュ大好きの一般人!様のリクエスト。
スコットランド✕イングランドでドロドロ
⚠️兄弟設定
⚠️史実
⚠️シリアス
⚠️政治的意図なし
⚠️流血表現・残酷描写あり
それでは、どうぞ。
──かつてイングランドは、覇者であった。
「私は、イングランドの最も偉大な戦士王の一人であり!
ウェールズの征服者、また”スコットランドへの鉄槌”であるっ!」
愛馬にまたがったイングランドは、目下に集まる自国の兵に、大きく拳を振り上げて見せた。
──時は、1314年。
第一次スコットランド独立戦争の真っ只中である。
何世紀間も独立と服属を繰り返すスコットランドが、本格的にイングランドに牙を剥いたのだ。
「私は、やがて全世界を手に入れる…!」
小さな島国の、ほんの一部。
それを領有する小さなイングランドは、大きな野心を抱いていた。
先ずは、ウェールズやアイルランド、スコットランドといったブリテン島の小国を、手中におさめなくてはならないのだが。
「あの愚弟をっ!今度こそ叩きのめしてやりますよっ!」
イングランドとスコットランド、ウェールズ、アイルランドは兄弟のようなものだ。
一番目の弟スコットランドは、長兄イングランドに従属したり、かと思えば反乱を起こして独立したり。
なかなかイングランドの思い通りにはならない。
「しかし…ここで屈すると不味いですね…」
イングランドは焦っていた。
理由は単純だ── イングランドの最後の砦・スターリング城が、スコットランドに包囲されているからである。
「スターリング城は最終防衛拠点…何としてでも取り戻さねば…!」
イングランドは、 スターリング城の南西、バノックバーンに向かい、スターリング城を奪還しようと試みていた。
「大丈夫…私は兄ですから…スコットなんかには負けません……」
拳を握りしめて、イングランドは自分に言い聞かせる。
そして、眼下の兵士たちを鼓舞するように、号令を発した。
「──皆の者!バノックバーンに出陣せよっ!」
「「「はっ!」」」
体の震えは、武者震いだと思うことにした。
───だが、運命は残酷だ。
「な、んで…?どうして…?」
バノックバーン。
スターリング城の南西に位置する湿地帯。
その泥地が、今や血で真っ赤に染まっていた。
イングランドは、思わず馬を降りて、仲間の死体に駆け寄る。
「うそだ…うそだ!うそだうそだっ!」
あちこちにイングランド兵と思われる骸が、ごろごろと転がっていた。
「わたしは!イングランドですよ…?」
少し前までは、スコットランドの反乱なんて、簡単に抑え込めていたはずなのに。
武具も、食料も、兵力も… 全てイングランドの方が上等なのに。
「どうして…?」
イングランド兵は、一人残らず駆逐された。
忠実な部下は、見るも無残な姿で戦死した。
バノックバーンは、スコットランド兵ではなく、イングランド兵の血で染まったのだ。
「わ…私がっ!負けるはずはないっ!!!」
イングランドが、信じられない惨状に声を荒げた── その時だった。
「──チェックメイト♡」
「なッ…!?!?」
イングランドの背後から、誰かが耳元で囁いた。
「兄弟喧嘩は俺の勝ちだよ、兄さん♡」
「──ぅッ!?」
イングランドは、首の後ろに鈍い衝撃を感じる。
ぐるりと目を回した彼は、あっという間に意識を失った。
───スコットランドは、昔から優等生だった。
勉強も。
「先生、できました!」
「坊ちゃまは本当に素晴らしいですねぇっ!」
年上のイングランドと同等の教育を受けていたにも関わらず、兄よりも優秀な成績を納めていた。
「えへへ…先生のおかげですよ」
「いえ、坊ちゃまは千年に一度の天才ですっ!」
家庭教師にすら愛される、賢いスコット。
それに比べて、イングランドは。
「坊ちゃま…こんなことも分からないのですか?」
「すみません…先生」
「弟君は一年前に習得しましたよっ!」
「…ごめんなさい」
弟よりも愚かな、出来損ないの自分。
弟を褒め称える教師は、その傍らで、自分を叱咤し、教鞭で打つ。
「先生…あまり兄を困らせないで?」
「も、申し訳ありません、坊ちゃま…」
そんな自分に助け舟を出してくれるのは、スコットランドだった。
しかし、その優しさが、痛かった。
(お兄ちゃんなのに…庇われるなんて)
幼いイングランドは、劣等感でいっぱいだった。
剣術も。
キンッカンッッ!キィィィンッッッ!
「勝者、スコットランド!」
「ありがとうございました、兄さん」
「…ありがとう、ございました」
一度たりとも勝てたことはなかった。
「兄さん!強さは物理的な力だけじゃありませんからね!」
俯く自分をフォローしてくれたのは、スコットランドだった。
しかし、その思いやりが、痛かった。
(賢くて強いなんて、ズルい…)
幼いイングランドは、嫉妬心でいっぱいだった。
遊びも。
「チェックメイトです、兄さん 」
「………負けました」
「ふふ…楽しかったですね!」
コトリ、チェスボードに置かれたナイトが、イングランドのキングにトドメを刺す。
「兄さんと遊べて嬉しいです!」
推し黙る自分に、笑いかけてくれたのは、スコットランドだった。
しかし、その無邪気さが、痛かった。
(ゲームも得意だなんて、いいなぁ…)
幼いイングランドは、羨望でいっぱいだった。
そして、決め手となったのは。
「イング兄ちゃん、何作ってるの? 」
「ああ、ウェールズ!スターゲイジーパイですよ。食べますか? 」
「うん!」
“デキない方”として蔑まれていたイングランド。
唯一の癒しは料理だった。
オーブンから取り出したパイを、ウェールズに与える。
小さな弟が火傷しないように、冷ましてやりながら── しかし。
「ん〜美味しくない…」
「え?お口に合いませんでしたか?」
「スコットにぃの作るパイの方が美味しい…」
「……ッ!」
一口食べて、顔をしかめる末弟ウェールズ。
子供特有の遠慮のなさは、イングランドを斬り裂いた。
ウェールズも小さな弟だから、こんな事を言ってしまうのは仕方ない。
頭ではそう分かっていても、心が泣いている。
(わたしのパイは、まずい)
イングランドはキッチンに立ち尽くした。
スコットランドの元へ駆けていくウェールズの、小さな背中を呆然と見送る。
(わたしは、まずい)
幼いイングランドは、絶望でいっぱいだった。
だから、奪った。 土地も、人も、資源も。
「ウェールズ!私の支配下に入りなさい?」
「…ッ!この…クソ兄貴っ!!!」
大人になってから、決別した弟たちに何度も戦いを挑んでは、連勝していった。
「アイルランド、そろそろ諦めてはいかが?
「お前に屈するなんて!死んでも嫌だっ!」
うれしかった。
正規ルートでは勝てない自分が、戦争では最強になれる。
「スコットランド…貴方も私のものになればいいのです…!」
スコットランドに勝てば、 彼を慕う民も、他の弟たちも、全てが私のものになるでしょう?
幼少期に歪んでしまったイングランド。
その反動故か、他者を征服することだけに意義を見出すようになる。
「私は、やがて全世界を手に入れる…!」
──小さなイングランドは、大きな野心を抱いていた。