テラーノベル
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17
もな
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車のライトが迫ってくる。ブレーキ音も聞こえない。ああ、死ぬんだな――そう思った瞬間、衝撃が全身を貫いた。
「目を開けろ」
声が聞こえる。低くて鋭い、しかし奇妙に心地よい声だ。
重たい瞼を持ち上げる。天井が近い。石造りの、ひどく狭い空間に閉じ込められているようだ。湿った空気が鼻を刺す。カビ臭いような、鉄のような臭い。
「目が覚めたか」
視界に入ってきたのは、無精ひげを生やした男の顔だった。冷たく光る灰色の瞳。頬に古い傷跡がある。
「君はイースラン・フォン・エーデルシュタインだ。私のことを知っているはずだが?」
私は――いや、イースランは混乱していた。交通事故、衝撃、そして目覚めたこの暗闇。
記憶が洪水のように流れ込んでくる。エーデルシュタイン家の長男として生まれたこと。
幼少期から未来を予言できることを示したこと。父親に「忌み子」と呼ばれて地下牢に幽閉されたこと。
同時に、日本の高校生として生きてきた記憶もある。科学と平和、コンビニの明るさと信号の規則正しい点滅。
「……アルバート殿か」
声が自分の喉から出るのを感じる。15年間ここで生きてきた青年の声でありながら、どこか不思議な響きがある。
「そうだ。お前の父親の命令で来た。明日、城に侵入者がある。予言してみろ」
冷酷な口調だが、瞳の奥に好奇心が燃えている。軍師アルバート。名前だけは知っている。若くして将軍となり、数々の戦功を立てた男。おそらく私と同じくらいの歳だろう。
呼吸を整え、目を閉じる。これが予言だというのか。信じられない。だがこの体が覚えている。予言とはただ知っていることなのだ。
「日が昇る前に」
私はゆっくりと言葉を選ぶ。
「北門から三人。武器を持たず、城壁を登って来る。目的は――」
息を呑む。脳裏に浮かんだ光景はあまりにも鮮明だった。
「――あなたを殺すこと」
アルバートの表情が僅かに動く。それだけで十分だ。
翌朝、報告が届いた。
「本当に来ました」
騎士の一人が興奮気味に言う。
「三名組。我々が待ち構えていたおかげで簡単に捕らえました」
アルバートは私を見た。勝利の喜びではなく、何かを計測するような冷静なまなざし。
「次だ」
それから幾度となく繰り返された。雨の日に攻めてくる敵軍の数を言い当て、密会の場所を暴露し、逃亡兵の隠れ家を見つけ出す。すべてが当たった。百発百中だ。
そしてある夜のこと。
「ここから出るぞ」
突然の言葉だった。いつものように淡々とした口調で、アルバートは私の枷を外し始めた。
「信じていいのですか?」
自分でも驚くほど素直な言葉が出る。
「お前の予言が外れるまでな」
冷たい言葉なのに、なぜか胸が熱くなった。15年間、誰も信用しなかった人生。イースランの記憶が告げる。家族さえも。
扉が開き、廊下の灯りが差し込む。眩しい。長い間見ていない世界の色が飛び込んでくる。
「これから何をするのでしょう?」
「戦争だ」
階段を上がりながら、アルバートは短く答えた。
「明日、王都でクーデターが起きる。今のうちに準備する」
「誰が起こすのですか?」
「知らん」
アルバートは初めて笑う。
「だがお前なら分かるだろう」
地上に出ると、月が出ていた。満月ではないが、薄雲を通して青白い光を投げかけている。
風が肌を撫でる。自由だ。そう思った瞬間、涙が溢れそうになった。
「泣くな」
アルバートの低い声が背後から聞こえる。
「お前の役目はまだ始まっていない」
振り向くと、彼もまた月を見上げていた。優秀な軍師にしては少し哀しげな横顔だと、ふと思う。
「私は……」
言いかけて止める。何と言えばいいのだろう。私は誰なのか?元日本人か、それともイースランか?
「私は何のために存在しているのでしょうか?」
沈黙があった。やがてアルバートは正面から私を見据える。
「私が利用するために」
その答えに、なぜか救われた気がした。存在意義があるということ。たとえそれが「利用される」という形であっても。
「では、利用してください」
深く頭を下げる。この世界で生き延びるために、この男の側に居続けなければならない。それが直感的に分かった。
アルバートは再び歩き出す。
「ついてこい。まずは服を変えろ。囚人の格好では戦場に行けない」
その後ろ姿に従いながら、私は決意した。
二つの魂を持つ私は、きっと特別な運命にある。乱世の中で、この力を使って何かを成し遂げなければならない。
アルバートが私を見ている理由を、いつか理解したい。そして私もまた、この軍師を知りたいと思うようになった。
物語はここから始まる。予言と策略が交錯する、血と栄光の歴史が。
コメント
1件
もう第1話から圧倒されたよ…!!😭💕 異世界転生&監禁からの予言者って設定がまず胸熱すぎるし、アルバートとイースランの距離感が早くもエモい…! 「利用するため」って言い放つ軍師に「利用してください」って返すイースランの覚悟、グッときた。 自由の風と月明かりの描写が綺麗すぎて、涙腺崩壊しかけた。土川さん、続きが待ち遠しすぎる…!!✨