その頃、ミカとパコは――。
「ご馳走様!あ〜お腹いっぱい!」
ミカはお腹をさすりながら満足そうに呟いた。
「気持ちのいい食いっぷりを見せてもらったぞ。それについつい盛り上がって話し込んでしまったなっ」
「そうね、女同士のガールズトークで、パコの”意外な一面”も聞けたしぃ〜?」
ミカは少し意地悪そうにニタニタと微笑みながらパコを見つめる。
「な、なんじゃ!?パコの事よりそういうミカこそ、勇者との関係はどうなんだっ?」
パコはミカににじり寄り、下から顔を覗き込む様に見つめる。
「な、なによ……!べ、別に何もないわよ、アイツとは!」
ミカは少し動揺しながらも言い切ると、パコはしばらく黙って彼女の瞳をじっと見つめた。
やがて、何かに納得したように小さくうなずく。
「ふむ、その顔……”A”……いや、”B”まではいっているとみた」
ウンウン――と目を閉じて腕を組み、パコはひとりで勝手に納得した仕草をする。
「ドアホゥ!何でそうなるのよッ!」
ミカは顔を真っ赤にしてツッコむ。
「カッカッカッ!すまんすまん、その表情がみたくてな。つい意地悪してしまったっ」
「んもう……っ!」
と、その後もしばらくステルの帰りを待っていた二人だったが、その願いも虚しく帰ってくる事はなかった。あっという間に数時間が経過していく。
「ステルの事だから、山には慣れてるし問題ないと思ってたけど……流石にちょっと心配よね」
ミカは少し不安そうにそう呟く。
「そうだな。もしかすると、慣れない地形に手こずっているのかもしれん。道に迷っている可能性もあるっ。このままではあっという間に日が暮れてしまう――よし、後を追おう」
パコは少しの間長考した結果、ステルの後を追って山の上を目指しながら探すプランに切り替えることにした。
そうと決まれば、実行は早いに越した事はない。
広げた敷物と食後の残骸をすぐに片付け、パコは弓とリュックを、ミカは杖と小さなショルダーバッグを肩にかけ準備を整える。
「もし、パコ達がいない時に勇者がここに戻ってきたら大変だからなっ。置き手紙をここに置いておこう」
パコは自らの大きなリュックから紙とペンを取り出すと、サラサラと達筆な字で文を綴った。
「きっと大丈夫よね…勇者だもん、きっと…」
「カッカッ、心配するなっ。あやつはゴブリンの巣窟を踏破したのだろう?それに比べればこんな序盤の地味な山、今頃呑気に散歩しとるだろう」
心配そうな表情を浮かべるミカの背中を優しくさすると、パコは笑顔でそう言った。
「ありがとう。パコは頼もしいわね」
背丈はそれこそ大人と子供位の違いがあるが、ミカにはその小さな背中が大きく見えた。
「あと、撫でてくれるのはありがたいけど…そこおしり」
ミカのその一言に、パコはハッ!とした表情を浮かべる。
「すまんすまん!パコの背が小さいばかりに…おじさん口調の”セクハラロリエルフ”になっておった。それにしても、ミカは胸だけじゃなく尻もでかいのだなっ」
「ちょ、ちょっと失礼ね!!そのニヤニヤした悪代官みたいな顔やめなさいよ変態エルフ!」
ミカのその反応を面白そうに堪能しながら、カッカッカ!とパコは高らかに笑う。
そうして二人はステルを探すために、山の上の方へと進んでいくのだった――。
✳︎ ✳︎ ✳︎
それから三時間後。
辺りはすっかり薄暗くなり、魔物たちが活発に動き出す時間帯を迎えようとしていた。
この山は、かつて村人たちが山菜採りに訪れていた場所で、スケルトンたちが住み着くまでは比較的安全な山だった。
その名残か道は今も整備されており、おかげでここまではスムーズに進むことができた。
「ステルのやつ、一体どこまで行ったのよ…もしかしてもうスケルトン城に行ってたりして」
「ミカッ!これを見ろ」
パコが険しい表情で指さした先を見てみると、そこには。
勇者ステルが奪われたはずの弁当箱が、空っぽのまま無惨に転がっていた。
それだけではない。
周囲には赤黒い血痕が点々と散り、ここで壮絶なナニカが起こった事は、火を見るよりも明らかだった。
ゴクッ……!
ミカは思わず息を呑み、足を止める。
「これって……パコのお弁当箱よね…?」
「うむ。間違いない」
「そんなまさか……!いやいやステルに限ってそんな事ないわ!この血痕も、きっと魔獣か何かのモノよね?」
動揺するミカをよそに、パコは冷静に現場を確認する。 クンクンと、辺り一体の匂いをくまなく嗅いでいるようだ。
エルフは聴覚だけではなく、嗅覚も鋭いらしい。
「これは…間違いなく”人間”の血液だな」
恐れていたことが起こってしまった。
人間の血――。 それがステルの血であると確定したわけではない。
だが、ここにある弁当箱の残骸がミカに最悪のシチュエーションを想像させる。
「そんな……パコ、どうしよう!?今すぐ助けないと!」
「うむ、この様子だと恐らく負傷して、そのままどこかに連れ去られたのかもしれん。現在時刻は十九時か…徐々に魔物達の魔力も強まってくる頃だ、時間がないぞっミカ」
「そ、そうよね。ステルが何者かに連れ去られたのが本当だとしたら、それは恐らく……」
ミカは山の頂上にある一点を見つめた。
「スケルトン城《あの場所》よね」
「うむ、本当はスケルトン城の近くで一夜過ごし、朝方の弱った頃に奇襲を仕掛ける予定だったが…大幅変更だ。パコとミカ二人で、あの城を攻略するぞ」
……ほんの少しの沈黙の後、コクリと。
ミカはゆっくりと、力強く頷いた。
負傷し行方不明の勇者ステルと、スコット村の住人達の命運は一人の魔術師と小さなエルフに託されたのだった――。






