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「それで、皇宮に入ってからどうすれば良いの……? 頑張ろうっていったのはいいけど、勿論やる気もあるんだけどね! どうやったら、リース殿下を救い出せるかなあって」
「考えなしに動いてたのかよ」
「うっさいわね!」
ブライトと真剣に話していると、アルベドが横から口を挟んできたため、私は黙ってと彼に怒鳴る。それすら、可笑しいとでも言うようにアルベドは笑いながら私を見ており、こんな緊急事態だというのによくそんなに余裕でいられると思った。
彼は、忘れ物があると言って天幕の方へ戻って行ったのだが、ひょっこり帰ってくるなり、忘れ物はなかったというのだ。私はそれに対して、時間のロスだと怒ったが、もしかするとアルベドはブライトがあの告白をするのを知っていたからわざと席を外したのではないかと私は少し考えた。彼はそういう所、察しは良いから。
アルベドは、ういういと私の肩をこつきつつも、ブライトの話を聞いているようで、ブライト続けた。
「先ほどよりも負の感情が濃く感じられます。このままでは、帝都の方にも被害が及ぶでしょう」
「……暴走させられてるから、ってことだよね」
「はい。混沌の力は計り知れません。その人が抱えている闇が深ければ深いほど、その威力は増します。感情の枷が外れるといった方が良いでしょうか」
と、ブライトは言うと深刻そうなかおをした。
この雨は帝都にも降っているだろうが、そこまで激しくはないという。というのも、やはりリースを中心にこの雨も嵐も巻き起こっているため、リースの暴走が大きくなるほど、その範囲は広くなるのだとか。だが、そこまでいってしまうと、もう手遅れになると。
「従者に応援を頼みましたし、侯爵にも連絡は入れているのですが、いつ来れるか……」
ブライトは苦々しい顔でいった。
侯爵というのはブライトの父親で、魔道騎士団の団長である。そんな人が助けに来てくれるならこれ以上ないほど戦力なのだが、先ほどのブライトの言葉を聞いているみとしては、自分の立場が悪くなるからと言ってブライトに全てを押しつけてきたような人でもある。そんな人が助けに来るだろうか。
まあ、帝国の危機ではあるわけだから目を瞑ってくるかも知れないが。
私は顔を上げて真っ暗な空を見た。
やはり雨は酷くなっているように感じる。視界は防水魔法をかけてもらっていても、とても白いしぼやけているし、寒さも感じるようになってきた。魔法ではカバーできないほど、負の感情が濃いと言うことである。
(リース……)
顔に浮かぶのは、眩い金髪の彼。しかし、最後に見た彼はまるで病人のような、それでいて全てに絶望したような顔をしていた。死にそうな顔。嫉妬や殺意、絶望といった負の感情ばかりが彼を支配していて、あのまばゆさも勇敢な姿もなかった。
その姿が、顔がだんだんと遥輝になっていき、私は彼が悲しい表情で私を見ているのでは無いかとすら思った。
私に気づいて欲しいって言っているような気がした。
「そう……じゃあ、応援は期待できそうにないって事だね」
「そうですね。申し訳ないです」
「ううん、謝ることじゃない。ブライトは、もう何も謝らなくて良いんだよ」
そう私が言ってやれば、ブライトはそうですね。と素直に微笑んだ。
彼のそんな純粋な顔を見て、本当に吹っ切れたのだと私も嬉しくなった。あの後、彼の好感度は50%を超えていたと思う。ピコン、ピコンと二回にわけて彼の好感度は上昇し、それを表すかのように、彼の表情は明るくなった。私に対して好意か、はたまた信頼が回復した証拠だった。
この期に及んでも、やはり彼が攻略キャラであることは変わらず、好感度が見えるせいで気になって仕方がないのだ。彼がどう思っているかは、好感度を見れば分かる。だから、私はあの数値に振り回され続けなければならないのだ。
もし、好感度が見えなければ。
好感度が可視化されているからこそ、下手なことは言えないし言葉に注意を払えるのだが、そうなると矢っ張りゲーム感覚が抜けなくて、何だか人として、ではなく攻略キャラとしてと見てしまう。全く嫌なシステムだと今になって思った。
私はそんなブライトをちらと見ると、彼に問いかけた。
もう、答えは分かっているのだけど、それでも確認しておきたかった。
「あのさ、今更なんだけど、私でよかったのかな」
「何がですか?」
「だから、本物の聖女じゃないって言うか、伝説上の聖女とは違う私が混沌と戦えるのかなって」
少し疑問というかもやもやっとした。
ブライトは私がおしたから私をリースの元に飛ばしてくれると思っていた。でも、もし、ブライトがトワイライトを推薦していたらとも思ってしまったのだ。彼女は本物の聖女だし、本編で混沌を倒したのはトワイライトだったから。
自分が偽物とか、聖女じゃないっていいたいわけじゃない。でも、本当に力の使い方を分かっているのはトワイライトなのでは? と思ったのだ。
ブライトは少し考えてから、何を今更。とでもいうように苦笑した。
「エトワール様は、リース殿下を助けたいんですよね」
「そ、そりゃ勿論……リースは―――」
大切な人。と言いかけて、私は言葉を飲み込んだ。
何故そう思ったのか、確かに大切というか失いたくない人ではあったが、私の中で彼の存在が想像以上に大きい事に気がついた。後先考えず、彼を救いたいと思った時点で彼には少なからず何か思っていたのだが、「大切」と自分で思っていたのかと。
(でも、元彼だし……まだまだ話したいことがあるし、謝りたいことがある)
あんな別れ方をしてごめんだとか、怒ってごめんだとか、これまで色々尽くしてくれたのに何も返せなかったとか、本当に色々。
あの時は何も見えてなくて、彼がいることが当たり前になっていたから。だから私は、それが普通になって自ら普通をぶっ壊した。
謝りたい。
そうして、やり直せるなら……過程をすっ飛ばして恋人になってしまって四年、だから、やり直せるとしたら友達からでも良いからまた対等というか、話せる関係には戻りたい。
そのために彼を救い出す。
それに、今日は彼の誕生日で、まだ彼にプレゼントを渡せていない。
彼の願いも何一つ叶えられていない。彼と踊るって決めて練習してきたんだから。
「助けたいという気持ちがあるならそれを僕がどうこう言う権利はありませんし、エトワール様だって聖女じゃないですか」
「ブライト……」
「僕は、エトワール様の力を信じているので」
と、彼は言った。
その瞳はまっすぐで、その言葉に嘘偽りがないことは明白だった。
その瞬間、私の心がじんわりと暖かくなっていくような気がした。今までに感じたことの無い、不思議な感情だった。
(信じてくれてるんだ)
別に疑っているわけじゃないし、それでも本当に言葉に出していってくれたおかげで、確信が持てたというか信頼の証という感じで心が温かくなった。
ピコン、と上昇する好感度の音を聞きながら、私はブライトにありがとう。と感謝を伝える。
「エトワール様は過小評価しすぎですよ。もっと自信持って下さい。僕の信じているエトワール様は、強い女性ですから」
「え、いや、でも」
「そうだな。お前、たまにネガティブになるもんな」
「アルベド!」
思わずまた彼を睨み付けてしまい、彼はこえよ。と笑いながら私を見ていた。
過小評価している、ネガティブだって言うのは、自分でも分かっているし、そういう性格なのだから仕方ないと言い訳したいのだが、彼らに何を言ってもきっと彼らの中にある私の理想像というものは崩れないだろう。
私が自分に自信を持てないのは、これまで誰からも評価されなかったから。
努力しても、報われなくて、褒めて欲しかったのに褒めてもみても貰えなくて、諦めた。評価されたかった……ううん、ただ褒められたかったんだ。
そう、過去の事を思い出し言われたばかりなのにネガティブ思考が頭の中を巡った。このままでは、負の感情に飲まれてしまうと、これから助けにいくのにと、私は自分の頬を叩いた。
「そうだね。ポジティブにいこう!」
「そうです。エトワール様」
そう、私はポジティブに。
前向きに生きていくんだ。
私はそう心に決めた。そうすれば、自ずと道は開けるはずなんだから。
それに、今から行く場所は混沌がいる場所。ポジティブ思考をもっていないと、飲まれてしまう。あの調査の時のように、トラウマや嫌な思い出を掘り起こされて自分自身がちっぽけでつまらない存在だって消えてしまいそうになったら。今回はリースは助けてくれないだろうし、誰も私を見つけることはできないだろう。
帰って来れないのは嫌だ。
帰るって約束したから。
そう決めて、私達はもう少しだけ皇宮の近くまで歩き、門の前で足を止めた。ピカリと落ちる雷。皇宮はもはや魔王の住まう城のようだった。
いざ目の前まで来てみると、足が震える。
「エトワール様」
「うひゃああ! な、何。あ、ごめん」
がっちがちに身構えていたせいか、ブライトに声をかけられただけでも思わずアルベドの後ろに隠れてしまった。ブライトはあっ、と私に伸ばした手を止めて、固まっており、アルベドもびびりだな。と笑ってくる始末。
これから、危険な場所に行くという実感がまだ持てないというか、持てているからこそ身構えすぎているというか。
ブライトは、私が落ち着いたのを見計らって彼の瞳と同じアメジスト色のイヤリングを私に差し出した。
「これは?」
「魔道具です。これをつけていれば、皇宮の中に入っても通信が繋がるようになっています」
「そっか……これがあれば、連絡できるってことだね」
「はい。何かあればすぐに」
私はそのイヤリングを受け取ると、耳へとつけた。通信が取れる魔道具は、転移魔法と同じぐらい高価だろうにと値段のことを気にしつつ、魔法って改めて便利だなあって思った。でも、ブライトは付け加えるように、皇宮の中がどうなっているのか分からないためもしかしたら連絡が取れないかも知れないと、先ほど言った言葉を否定するような言葉を口にする。
まあ、確かに混沌の力は凄いだろうし、ブライトの言うことにも一理ある。
ブライトは同じものをアルベドにもわたし、受け取ったアルベドはそれを耳につけた。彼がつけるとまた何というか色っぽい。
「レイ卿、エトワール様を頼みました」
「お前に言われなくても、守るに決まってるだろ」
と、二人は会話を交わした後、アルベドは私の方へ歩いてきた。
「ち、ちかい!」
「近付かねえと、上手く転移魔法が発動しねえだろうが」
「で、ででで、でもちかい!」
「もっと近くにいたことあるだろ」
そんなことを言いつつ、アルベドはため息をついていた。私がため息をつきたいぐらいなのに。
でも、仕方ないと私は覚悟を決めた。ブライトは私達の心の準備ができたのを見計らって詠唱を唱える。
必ず助けて帰ってくる。どんな風になっているか分からないし、怖い思いをいっぱいするかも知れないけれど。
そう思っていると、ブライトは私に視線を向けた後、ふっと微笑んでくれた。
「ブライト!」
私は、温かい光に包まれる瞬間彼の名前を呼ぶ。
「いってきます」
「はい、いってらっしゃい。エトワール様」
そうして、転移魔法が発動し、私達は皇宮の中に転移することに成功した。