テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
萩原なちち
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「え、二人きたら俺がハブられるじゃん!」
やっと気づいたか、いっちゃん。俺の今の気持ちを存分に味わうといいよ。
「そんなことないよ。いつものみたいに『ちょろちょろ』してたらええねん」
「ちょろちょろって何よ! 人を小ねずみみたいに……キィーッ!!」
「絶好調すぎるやろ、自分」
しゅうとがめちゃくちゃ笑っている。昨日飲みに行っただけで、こんなに仲良くなれるものなのか? ……ああ、お泊まりまでしてたんだっけ。
「ん!だいきさん、はい。これ使ってください」
「あれ、お尻拭きじゃないじゃん」
手渡された小さなウェットティッシュを確認する。これ、女の子が好むような可愛いキャラもののやつじゃん。
「このキャラクター、だいきさんに似てません? 可愛くて思わず買っちゃいました」
「本当だ、めっちゃ似てるっすね!」
「……目、離れすぎじゃない?」
「僕もね、実はよく似てるって言われるんです。お揃いですね?」
「俺も一枚ちょうだい」と言ういっちゃんに、しゅうとは鞄から使い古しのお尻拭きを取り出して投げつけた。本当に、好き嫌いがはっきりしすぎていて笑ってしまう。
「お尻拭きじゃん、これ!」
「もうええねん。その下りはもう何回もやったから」
「え、俺、初見だけど!?」
「さあだいきさん、サメ見に行きましょ!僕、サメも好きなんですよね」
「え、俺も好き! 後でぬいぐるみ買いに行かない?」
「行きたいです! 早く見て、お買い物しましょ!」
「目的が買い物になってんじゃん!」
「ちょっと待ってよ!」と焦るいっちゃんを置いて立ち上がる。
気づけば自然に腕を組まれていたし、追いついたいっちゃんもしゅうとの腕に手を回している。しゅうとも嫌がる様子はないし、なんだ、最初からこうすれば良かったんだ。
「うわっ……なんか予想外というか、予想内というか」
「え、三人仲良しじゃん」
後から合流してきたいつきくんとりゅうせいが、あまりの光景に戸惑っている。
途中から人混みが凄すぎて、俺としゅうと、しゅうといっちゃんで手を繋いでいたから、端から見れば意味のわからないことになっているんだろう。
「そう、しゅうとが急にギュッとしてきて、ときめいちゃった♡」
「はぐれたら困るから繋いでただけやけど」
しゅうとがいっちゃんの手を離すと同時に、俺の手も離された。
え。……もしかして、俺も? 俺もただの「迷子予防」だったのか?
「それよりご飯食べた? 俺、もう限界……」
「りゅうせい、ずっと食ってるじゃん。さっきサンマの大群見て『美味そう』って言ってたし」
「入り口のカフェ、定食あったよ。サンマ定食あるかも!」
「うわっ行きたい! ご飯行く人ー!」
いっちゃんが大きく手を上げる。
俺も釣られて手を上げようとした瞬間――しゅうとに、ぐいっと腕を下げられた。
「僕たち、ちょっとお店を見に行きたいんで。先にお昼、食べに行っててください。すぐ追いつきますから」
みんなの返事を聞く前に、しゅうとにグイッと手を引っ張られて連れ去られた。別にご飯が先でも良かったんだけどな。いつきくんに奢って格好つけたかったし。
「だいきさん、どの大きさのぬいぐるみ買います? 僕は一番おっきいのにしようかなぁ」
「流石にそれは無理だろ。しゅうとが丸呑みされるデカさだぞ」
「……だったら、だいきさんも丸呑みですよ。あんまり身長変わらないし」
「ガタイが違うんだよ。そんなひょろっこいと、一発で食われるぞ?」
俺は売り場のサメを手に取って、しゅうとの頭を「ガブッ」と噛む仕草をしてみせた。
……あれ。
しゅうと、顔も耳も真っ赤なんだけど。
え、俺、そんなにスベってる? もしかして、これが巷で言う「共感性羞恥」ってやつ!?
「……じゃあ、小さいのにします。いつでも持ち歩けるように」
「そう? じゃあ、俺は抱き枕にできるくらいのサイズがいいかな」
「それもまぁまぁデカいですよ?」
「いいの。俺、今日車で来てるから」
「……車、ですか? ご自分で運転して?」
「え? 運転するけど。……何?」
しゅうとが、何かを確かめるように俺のことをじっと黙って見つめている。
そんなにイメージになかったか? ああ、そうか。しゅうともデカいぬいぐるみを車に乗せて欲しかったんだな!
「あ! 俺、家まで送っていこうか? それならデカいサメも余裕で乗るし」
「……いえ。僕はこれで大丈夫です。可愛くて気に入ったので」
しゅうとは、手のひらサイズのぬいぐるみを二つぎゅっと握りしめた。
なんだか小さな子供みたいで、……本当、可愛いな。
会計を済ませて、みんながいるカフェに向かう。
なんだか少し食欲がわかない。サンドイッチか何か、軽いもので済ませようかな。
「うわ、デカっ! いつきくん、俺もあのサイズのサメ欲しい!」
「ん? 電車だから、ちょっと邪魔になるんじゃない?」
「だって、だいきくん買ってるじゃん!」
「だって、だいきは車だろ?」
「え? そうなんっすか!?」
いっちゃんもりゅうせいも、なんでしゅうとと同じリアクションなんだよ。俺、そんなに「車」のイメージがないのか?
「そう。クリスマスも車でお出かけしたんだよね、いつきくん?」
「そうだね。いいよね、車。俺も次の冬のボーナスが出たら買おうかな」
「俺も一緒に選んでいい?」
「ん? いいよ。りゅうせいが乗りやすいのを選んで」
「やったぁ!」
次の冬のボーナスってことは、約一年後。
一年後の約束がさらっとできるって、すごいことだよな。俺には今まで一度もなかったことだから、心の底から「すげぇ」って思う。
「りゅうせいくん、サメ、もっとデカいのあったで?」
「だって、いつきくんがダメだって言うもん……」
「俺が家まで乗せていくよ?」
「いつきくん、いい!? だいきくんが送ってくれるって!」