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「う……」
ピアーニャが目を覚ました。
そこは石畳と石壁に囲まれた場所。
「ここは?」
周りを見渡すと鉄格子が見える。どうやらここは牢獄のようだ。
どうして今自分がここにいるのか。ピアーニャは記憶を遡るが、心当たりがない。思い出せるのは、パフィとウベルの酷い料理対決に巻き込まれ、最後に一矢報いた事。
「……うごけんな。あれから、どうなった?」
身をよじるが、どういう訳か動けない。あの料理で体が麻痺したのか、それとも別に原因があるのか。自分をここに連れてきた何者かに、何かをされてしまったのか。様々な可能性を考えるが、1人では結論など出ない。
「……クモもないのか」
持ち去られているのか、『雲塊』も手元に無い。この状況、素だと幼児並の運動神経しかないピアーニャでは、脱出など到底不可能である。
「ふぅむ………………ん?」
考え込んでいると、足音が聞こえてきた。それも数人。
鉄格子の方を見ていると、その人物達が姿を現した。
「お目覚めなのよ?」
「総長、大丈夫ですか?」
「パフィ、ミューゼオラ?」
現れたのはパフィとミューゼの2人。しかし様子がおかしい。
何故か2人とも、黒いブーツに黒いボンテージという、露出の高い黒い衣装を纏っている。まだ未成熟さが残るミューゼですら色気たっぷりになっているくらいなので、もう一方のパフィの豊満なボディが、これでもかという程激しく主張しているのだ。これにはピアーニャもちょっと引いている。
「オマエら、なんつーカッコウしてるんだ……」
ここが何処かというよりも、目の前の激しい恰好の2人に意識が持っていかれ、最初にする質問を間違えたピアーニャ。
「似合ってるのよ?」
「いろんなイミでコワイわ」
これで外を歩いてきたのか。いや別にサイロバクラムでは問題ないのか。それよりもアリエッタに見せて大丈夫なのか。など、色々と疑問が浮かんでいるが、どのタイミングで問いかけるか迷っていた。
少し冷静になり、本来投げかけるべき質問を思い出す。
「ここはドコなんだ?」
「ふふふ……」
「……ナニをたくらんでいる?」
「それはあたし達には分かりません」
「私達は、あの方の願いを叶えるためにいるのよ」
「む? それは──」
どういう事か……と聞こうとした時、2人は急に跪いた。
すると、突然ピアーニャの目の前の地面が虹色に光り輝き、帯状に真っ直ぐ奥の方へと伸びていく。そしてある一点で光が止まり、光の柱となった。
「なんだ……?」
光の柱の中に、人影のようなものが現れた。それがゆっくりと光の中から歩み出る。
まず現れたのは、ネフテリアの顔。それが地面に手を着いて出てきた。
「ん」
ピアーニャが疑問を感じる中、ネフテリアは腕で歩みを進めてくる。そしてネフテリアの上に座って現れたのはアリエッタ。
「ほあっ!?」
その姿は純白のドレス。まるで小さな花嫁か女神のようだ。
よく見ると、ネフテリアは白いボンテージを着ている。それが四つん這いで前進しているので、とてもいかがわしい。
「ちょっとまてい! ホントウにナニやってるんだ!?」
「静粛に」
「アリエッタ様がお目見えなのよ」
「いやオマエらどうしたんだ」
まるでアリエッタに仕えているかのようなミューゼとパフィ。
虹色に光る地面には可愛らしい花のような光が咲き乱れ、高貴な者が通る道のようになっている。しかしその高貴な王女本人が四つん這いでその道を進んでくるというのはどういう事なのか。
茫然と見ていると、やがてネフテリアがピアーニャの前にたどり着き、横向きになった。その背から優雅に降り立つアリエッタ。
「ぴあーにゃ……」
「な、なんだ……」
「だいじょうぶ、やさしい、する」
「なんのハナシだ。いやいやちょっとまてい! なんでぬぎはじめる!」
突然の奇行に、大慌てでアリエッタを止めるピアーニャ。
何故牢獄で純白の少女が服を脱ぐのか、意味が全く分からない。
「?」
「なんでオマエがそんなカオをするんだ……」
「忘れたのよ? アリエッタと結婚したのよ」
「そうですよ。これからが本番じゃないですか」
「は? え? だれが? だれと?」
余計に意味が分からなくなって、アリエッタを止めている手が緩む。
「ああ、照れてるんですね。しょうがないですねー」
「まぁアリエッタほど可愛い子が相手なら仕方ないのよ」
「ホントにイミがわからんのだが!? うわっ!」
問答の隙をついて、アリエッタがピアーニャを押し倒した。脱ぎかけのドレスの肩の辺りがはだけて、とても危険な状態である。
「まてまてアリエッタ! おちつけええ!」
「総長が落ち着くのよ」
「そうですよ。今がアリエッタの大事な時です。あたし達も傍で見てるんで、安心してください」
「これイジョウはあぶないから! このノベルのタチバがあぶないから!」
「何の話なのよ?」
意味不明な事をのたまうピアーニャだったが、押さえつけられて身動きがとれない。
「おいテリア! そんなトコロでボーっとしてないで、たすけろー!」
先程から何も言葉を発しないネフテリアに声をかけて見たのだが……
「モニャー。モッモッ…モニャー」
「ちょっ、テリア! テリアアアアアアア!」
わけのわからない鳴き声を上げただけで、動く気配が全くなかった。
そして満を持して、アリエッタの顔が接近する。妹分であり結婚相手となったピアーニャをリードする気満々のようだ。
「ん~♡」
「いやああああああああああ!!」
もはやはだけたドレスが落ちそうなアリエッタの唇が、ピアーニャに接近。視界が全てアリエッタの顔で埋まっていき……
「ああああああああ!!」
がばっ
ピアーニャが起きた。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……あ?」
荒い息を落ち着かせ、辺りを見渡す。そこは見慣れぬ何処かの室内の大きなベッドの上。
「はぁ……ラスィーテぶりだな。ユウウツすぎる……」
以前にも同じような悪夢を見た事を思い出し、心底凹んでいる。そのままその状態で、何があったかを思い出していた。
「たしか……あのくっそマズいのをたべて……そうか、キをうしなったんだったな」
パフィ達が絶叫してから気絶する所までを見て、その後限界を迎えた事はハッキリと思い出した。その後シーカーの誰かが運んでくれたのだろうと納得。まだ喉の奥に残っている気持ち悪さを流してしまおうと思い、水をもらうべく動こうとした。
「ん?」
身体が動かない。後ろから掴まれているようだ。
何があるのかと振り向いた。
「ひょぎゃあああああっ!?」
ピアーニャが大絶叫。そこにはニコニコ笑顔のアリエッタが、ピアーニャの腰を抱きしめていた。
先程の悪夢の後なので、単純に怖い。
「ぴあーにゃ~」
「いやああああ! なんでなんでえええええ!!」
可愛い声で名前を呼ばれたのだが、ピアーニャには地の底から響くような恐ろしい声に聞こえている。もちろんただの幻聴だが。
ガシッ
「はっ?」
絶叫したピアーニャの後ろから、誰かが肩を掴んだ。それで一瞬我に返ったピアーニャが、助けを求めて振り返る。
するとそこには優しい笑顔のアリエッタがいた。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
もう大パニックである。
前後から2人のアリエッタに掴まれたせいで、完全に我を忘れて身をよじる。そのお陰で振りほどけ、慌ててその場から移動する。
「もにゃぁぁぁっ!」
さっき夢でみたような気がする感じの泣き声を発しながら、四つん這いでベッドの端へと駆けていく。
しかし、端に到着した時、ベッドの下から楽しそうな笑顔のアリエッタが現れた。
「はうえおぬよああああああ!!」
もはや混乱で何を叫んでいるのか分からない状態になっている。
目の前のアリエッタが腕を伸ばし、逃げようとするピアーニャを掴んだ。
「っ! ~っ~~っ!」
その光景が怖すぎて声も出ない様子。
それを見かねたアリエッタが、優しく声をかけた。
「まぁまぁ、落ち着きなよ」
その声は、アリエッタのものではなかった。
アリエッタの姿をした者は、片手を離してピアーニャを落ち着かせる為に、頭をぽんぽんと叩く。
「はっ……え?」
すぐにピアーニャは落ち着きを取り戻した。流石に恐怖の余韻は残るのか、目の前のアリエッタと背後の2人のアリエッタを警戒している。他にもベッドの上にはマンドレイクちゃんの着ぐるみを被ったアリエッタや、色っぽく寝そべるアリエッタなどが5名程いたが、全力で見なかった事にした。
「えっと……」
「ははは、ボクだよボク。久しぶりだねっ」
「い、いや、しらん。ウデがのびるアリエッタなんて、シリアイにはおらん」
名乗りが詐欺っぽかった事もあり、まだ冷静になり切れないピアーニャには難問だったようだ。
「ドルネフィラーだよっ! まだ落ち着いて無さそうだね」
「は!? まだここユメか! はぁぁぁぁぁよかったあぁぁぁぁぁぁ……グスッ、こわかったぁ……」
「いやこの女神っ娘、超可愛いじゃん。なんでそんなに怖がってんの」
アリエッタを怖がっているのはピアーニャだけなので、ドルネフィラーにはその気持ちが全くわからない。だからアリエッタでハーレム状態にしてみたのだが、逆効果どころの騒ぎではなくなったのだった。
「……まぁいい。ナニかようか?」
「すっごく不機嫌だね……。実は、キミたちによって『ドルナ』って名付けられたアイツらの強い気配があったから来てみたんだけど……──」
夢のリージョンであるドルネフィラーは、ここに来た理由を語り始めた。
サイロバクラムと名付けられたこのリージョンで、強烈な夢の欠片……つまりドルナの気配を感じ取り、やってきた。それはもちろんドルナ・ケインの事である。
近くにネフテリアの気配もあったので、リージョンの外側から観測し、なんとなく消滅させずに解決した事を察した。以前にネマーチェオンで出会いファナリアで結婚したドルナ・キュアレの件もあったので、害がなければ消滅させないという方針には、ナルホドと納得していたのだ。
その経緯をネフテリアから聞き出した後、ドルナの元となったケインの様子を確かめに転移の塔へとやってきたのだが、そこで面白そうな料理勝負をしていたので、折角だから全部終わった後にその記憶をいただこうと、待機していたのである。
「サイアクだ……」
ドルネフィラーに新しい悪夢が追加された事を知ったピアーニャは、頭を抱えていた。
「それじゃあボクはまた放浪するね。楽しかったよ」
「はいはい……さっさとドコカにいってくれ……」
「つれないねぇ」
ピアーニャの機嫌が戻らないので、これ以上変な刺激をしないようにと、ドルネフィラーは大人しく去っていった。
「はぁ……」
今度こそピアーニャが起きた。
身を起こ……そうとするが、起き上がれない。なぜなら、
「ぴあーにゃ、おはよ」
本物のアリエッタに抱きしめられているから。
「っあああああああああああああ!!」
その日トランザ・クトゥンでは、幼い女の子の悲鳴がコロニー中に響き渡ったそうな。