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蓮Side
どうして、逃げてきちゃったんだろう…。
家への帰り道、走って疲れてとぼとぼ歩きながら、私は呆然と思った。
蒼は堂々と宣言してくれたのに。
宣言してもらえて、胸が破裂するくらい嬉しかったのに。
周りにいた部員や女の子たちを目にしたら、居た堪れなくなって逃げてきてしまった…。
それってすごく弱虫だよね…。
『蓮!』
って呼び掛けてきた蒼に振り向いた時、後悔が一気に押し寄せてきた。
でももうどうすることもできなくて、逃げてきてしまった…。
ごめんなさい、蒼…。
勇気が持てなくてごめんなさい…。
どうして…。
どうして私は、『好き』って気持ちにこんなに憶病なんだろう…。
夜道はまた真っ暗だった。
蒼が隣にいない、暗い夜道。
慣れた道だし、まだ夕闇は辺りを暗く浸食していない。
なのに、どうしてこんなに怖いんだろう。
『好き』って気持ちはとても厄介だ。
『蒼が好き』
突然現れて、私の胸を支配したこの想いは、とても熱くて重くて大きくて、扱いに困ってしまう。
恋を初めて知った私の前には、暗く未開の地が広がっているというのに、こんな大きな荷物を抱えて、歩き出していかなきゃならないなんて。
でも手放すことなんてできやしなくて…。
こんな厄介なものを抱え込んで、私はこれからどこに行けばいいというんだろう…。
ねぇ誰か教えてよ。
私はどうしたら、前に進んでいけるの?
「蓮…!!」
聞きなれた声が聞こえて、はっとなった。
蒼だった。
「蓮、待てよ、蓮っ」
私は振り向かずに小走りになる。
けど、蒼の脚はずっと速くて、肩がつかまれた。
「待てよ、蓮…ごめん、俺約束破っちまって」
「……」
「おまえのことが好きだったんだって、岳緒が。告白するっていうから、つい…」
岳緒くんが…?
「だから…許してくれよ」
「ちがう…許してもらうのは私の方だよ…。なにも言えなくて、ごめんね…」
「蓮…」
「私、もっと大人になりたいよ…。勇気を持ちたいよ…」
蒼はそっと私を抱き締めてくれた。
「大丈夫だよ…おまえの気持ちはわかってるつもりだ。待ってるから。俺はいつまでも待てるから、焦らなくていいんだ」
優しい蒼。
大人な蒼…。
だからだよ。
だからこそ、私は焦るの…。
私も蒼と並んで進んでいきたいの…。
どうすればいいの?
誰か教えて。
私どうすればいいの…。
家の前につくと、その答えを教えてくれそうな人物がいた。
けどその子も、私みたいに泣いていた。
「明姫奈…」
「蓮…」
明姫奈は私と蒼をみると申し訳なさそうに紅く腫れた目を伏せた。
「ごめん、邪魔しちゃった…」
「どうしたの?今日、先輩とデートだったんでしょ…?」
一緒に過ごせる時間もあと少ししかないから、って楽しみにして早々と帰って行ったのに…。
「あんなヤツ、もう知らない」
明姫奈は言い捨てた。
けど、震えているその声は、強がっているのがありありだ。
私は蒼をちらとみた。
蒼は戸惑った顔をしていたけど、諦めたように視線をそらした。
「入って、明姫奈」
立ち話もなんだから、と私は明姫奈に玄関に入ってもらった。
※
「いったいどうしたの、明姫奈」
「もう今日でわかった。私、アイツと別れる。どうせ私のことなんて、本気で大事に思ってないんだ…」
私と蒼は顔を見合わせた。
「そんなことないと思うけど」
返したのは蒼だ。
「男って、そういうことあまりベラベラいうのが恥ずかしいって言うのがあるからわからないかもしれないけど、先輩はマジで明姫奈ちゃんのこと思ってるよ。先輩とはけっこうプライベートなことも話すから、俺が保証する」
でも、明姫奈は大きな目に涙をためてかぶりを振った。
「解かってる…解かってるよ…!そんなこと」
明姫奈は階段を駆け上がると私の部屋にこもってしまった。
蒼を残して、私は様子をうかがいに行った。
「明姫奈…入るよ…?」
部屋の真ん中で、明姫奈は泣き崩れていた。
鞄は投げ捨てられて、中の小物が散らばっている。
どうしちゃったの…?
気丈な明姫奈のあまりの取り乱しぶりに、掛ける言葉を見つけられなくて、私は小物を拾い集めることしか出来ない。
けど、拾い集めた小物のひとつを見て固まってしまった。
真四角のパッケージ。
一見お薬みたいだけどこれは…。
「…それ、蓮にあげる。私はもう別れるから、いらないし」
「こ…これ、もしかして」
「コンドーム。男と付き合うなら持ってた方がいいよ。すぐヤリたいって言ってくるから」
あ、明姫奈がこんなのを…!
ピュアな美少女だと思ってたのに…やっぱりこういうの使うこと…してたんだな…。
「い、いけません!!!」
思わずお母さんみたいな口調になる私に、明姫奈はぷっと失笑する。
「もう、蓮は子どもなんだから。蒼くんにだってすぐねだってくるよ?」
ん…たしかに…って、話を戻さなきゃ…。
「ほんとに別れる気なの…?」
「ん」
「だってまだ好きなんでしょ?だからそうやって泣いちゃうんでしょ?」
「別れるよ。今日だって、ろくにデートしないで『ホテル行こう?これからあまり会えなくなるから』って言うし。ムード無いじゃない。もっと思い出に残るようなこととか、場所行ったりしたいのに…。全然、私の気持ちなんか考えてくれないんだもん。私は…」
ぽたり、と明希奈の目からまた涙が落ちた。