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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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「私は…不安なの。遠距離になったら、お互いの気持ちが離れちゃうんじゃないかって。私、堺くんのこと大好きなのに…」

「じゃあどうして別れるなんて言うの…?」

「だって、言ってくれないんだもん…!『遠距離が辛くなったらちゃんと言って』とか『もし、おまえの心が変わっても、俺は怒らないよ』とかしか言わないんだもん。バカじゃないの?変わるわけないじゃない…。私はそんなことよりも、もっと…」

んんん…その言葉だと、先輩はちゃんと明姫奈のこと大事にしてると思うんだけどなぁ。

もっと?

もっとって、明姫奈はもっと先輩にどういって欲しんだろう…。

「とにかく…つらいかもしれないけど…先輩のこと信じてあげないと…。先輩だってきっと不安なんだよ?明姫奈ならできるよ。だって私は明姫奈はすごく」

「私、強くない」

「……」

「強くないよ、私。だって好きなんだもん…。好き過ぎて、怖いだもん…!好きって気持ちがおっきくなっていくたびに、心が重たくなっていくの。重たい、大きいって、持つのが辛くなってくの。それなのに離れるなんて…。怖いよ…。もしいつか別れちゃったら…この好きって気持ちをどう処理していけばいいのかわからなくて、怖いんだもん。それならいっそ、早いうちに別れた方が…って」

「明姫奈…」

もしかして、明姫奈が抱えているものと私のものって、同じなのかな…。

『好き』っていう、重くて大きな感情。

人ってみんな、誰かに恋をした時は、そういう気持ちを持ち続ける運命なのかな…。

ピンポーン

急にインターホンが鳴った。

まだそんなに遅い時間じゃないから宅急便とかっても考えられるけど…でも、もしかしたら…。

明姫奈も同じ予感を感じたみたい。

「おねがい蓮…。もし堺くんだったら、いないって言って…?」

「うん…。ちょっと見てくるね」

予感は当たった。

玄関には堺先輩が立っていた。

しかも、

「明姫奈いるって聞いたから、迎えに来た」

もうごまかしがきかない。

私は蒼を見た。

蒼はしれっとした表情を浮かべていた。

「他人の痴話げんかの面倒みている場合じゃないだろ。さっさと迎えに来てもらうことにした」

そんな…明姫奈はまだ話しできる状態じゃ…。

「帰ってよっ」

突然、頭上から明姫奈の声が聞こえた。

明姫奈が階段の手すりから泣き腫らした顔を出していた。

堺先輩は優しく話し掛けながら、階段に向かって行った。

「怒らせたなら悪かったよ明姫奈…。一緒に帰ろう?」

「いや!出て行ってよっ」

「明姫奈…」

「出て行くまで私ここからでない!」

と部屋に入ろうとしたところで、駆け上がった堺先輩の手に捕まってしまう。

「俺嫌だよ、明姫奈。こんなケンカなんかしている暇あったら、おまえと少しでも仲良くしていたいのに。俺が悪いのなら謝るから。ごめんな、あき」

「『ごめん』なんていらないよ」

「……」

「どうしてわからないの?鈍感!」

明姫奈は先輩の胸にごちんと頭をこすりつけた。

「ただ『好き』ってだけ言ってくれればいいのに…。『ずっと好き』って…『どんなに離れても好き。だからずっと好きでいろ』って言ってくれればそれでいいのに…!」

「明姫奈」

先輩は大きく目を見開くと、ぎゅっと明姫奈を抱き締めた。

「そうか…。ごめんな。それだけでよかったんだな…。俺が弱虫だったな…」

弱虫…。

先輩の言葉に私の心は鈍く反応した。

「俺…おまえのこと好き過ぎて、不安になってたんだ。遠距離になったら、他のヤツにおまえを盗られるかもしれない、って。

怖くて、不安で…だから『おまえに好きな奴ができても俺は怒らない』とか、そんなヘタレたこと言って自分の感情から逃げてたんだ。意気地なしで、ごめんな」

意気地なし。

その言葉は、私の胸にすっぽりとおさまった。

意気地なし。それは私も同じ。

蒼を好きになって、私すっかり変わってしまった。

嫉妬したり不安になったりイラついたり…苦しくて汚くて苦々しい嫌な気持ちを感じるようになってしまった。

だから、『好き』って言ってしまえば、口に出して認めてしまえば、もっと『好き』って気持ち大きくなって、その分嫌な気持ちも多く感じてしまうような気がして、怖かったの…。

堺先輩は明姫奈を強く抱きしめて言った。

「好きだ明菜。マジでこんなに人を好きになったことない。だから、ずっと好きでいて欲しい。俺も、ずっとおまえだけを想っているから」

わぁああんと、明姫奈は子どものように堺先輩の胸で泣きじゃくった。

もうそれはきっと、悲しい涙ではなかった。

堺先輩の揺るぎない気持ちを感じて、心の底から安堵した、幸せの涙だ。

そんな二人を見ながら、私は思った。

でも『好き』は、甘く温かな幸せも与えてくれるんだ、って。

『好き』って気持ちは、とても厄介。

でも、それでも持っていなきゃいけないんだね。

大きくて重くて、進むのに大変でも、それでも守って大切にしなきゃならないんだ。

だって、『好き』重さはきっと、『幸せ』の重さと一緒だから。

そして人はみんな、誰かに恋をした時は、そんな『好き』と向き合い続けていくのかな…。

成長し続けていくのかな…。

みんなみんな明姫奈も、堺先輩も、蒼も…そして私も…。

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