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それからの日々、目黒はほとんど毎日、康二のそばにいた。
朝、昇降口で会って一緒に教室へ向かう。
昼休みも一緒に食べて、放課後も帰る。
まるで見えない鎖で繋がれてるみたいに、離れなかった。
最初は、康二がそう仕向けた。
「怖なったら呼べ。俺が行くから」
そう言って、スマホの連絡先を交換した夜、
目黒は一晩中、何度も『ありがとう』ってメッセージを送ってきた。
最初は可愛げがあった。
でも、ある日を境に変わった。
——返事が少し遅れるだけで、
“既読つかないの怖い”
“もう俺のこといらん?”
そんな文字が並ぶようになった。
康二は「そんなんちゃう」って笑い飛ばしてたけど、
心の奥で、妙な満足を感じていた。
自分がいなきゃ、こいつは壊れる。
そう思うと、息がしやすくなった。
ある放課後、二人は人気のない図書室にいた。
陽が傾いて、窓際の光が橙色に変わっていく。
静かな空間に、ページをめくる音だけが響いた。
目黒がぽつりと呟く。
「俺、康二くんがいなかったら多分もうここにいない」
康二の胸の奥が、ざわっとした。
救われたような気がしたのに、
その言葉がやけに重く感じた。
「そんなん言うな」
「ほんとだよ。康二くんが俺のこと見てくれたから、まだいられる」
目黒の声は穏やかだった。
でも、その“穏やかさ”の裏にある静かな狂気を、康二は感じていた。
「俺、康二くんのことしか考えられない」
その一言で、康二の中の何かが静かに崩れた。
——怖いのに、嬉しい。
——止めなきゃいけないのに、止められない。
康二は笑って、
「……じゃあ、もう俺だけ見とけ」
と、言ってしまった。
その瞬間、目黒の表情が緩んで、
まるで世界の終わりから救われたみたいに微笑んだ。
康二は、その笑顔が怖かった。
でも同時に、それ以外の表情を見たくなかった。
——優しさは、いつのまにか檻になっていた。