翌日も、学校はいつも通り騒がしかった。廊下を歩く足音、笑い声、ノートを叩きつける音。
でも、目黒の耳にはほとんど届かない。
胸の奥のざわつきだけが、大きく響いていた。
教室に入ると、案の定、いつもの連中が待ち構えていた。
「おい、目黒。昨日もあんなとこでボーっとしてたんか?」
鋭い声に、目黒は肩をすくめる。
手に持っていたノートが、指先で震えていた。
「見てるだけじゃなく、書いてやろうか?」
誰かがニヤリと笑う。
その瞬間、康二が教室のドアを勢いよく開けた。
「やめろ!」
怒鳴る声は、普段の軽い調子とは違って、鋭く、冷たかった。
連中は一瞬たじろぎ、目黒の周りから距離を取る。
康二は目黒の前に立ち、無言で腕を広げた。
「誰も触らせへん」
目黒は胸の奥がぎゅっとなるのを感じた。
——怖い、でも、安心。
誰もこの人以外には触れられない。
誰も、この世界にはいないような感覚。
連中は不満そうにざわつきながら、やがて教室を後にした。
康二は目黒の肩に手を置き、そっと引き寄せた。
「もう大丈夫や」
目黒は小さく息をつき、肩を貸す康二の手を握った。
言葉はいらなかった。
視線も、声も、痛みも、すべて二人の間に閉じ込められる。
その日の放課後、目黒のスマホにまた通知が来た。
「お前、今日も康二に守られてんのな。気持ち悪い」
——いつもの文字。
目黒は無意識にスマホを握りつぶしそうになった。
その手を康二がそっと包んだ。
「俺がおるやろ?」
その言葉だけで、目黒は震えながらも安心した。
夜、目黒はベッドで目を閉じる。
胸の奥のざわつきはまだ残っている。
でも、その隣には康二の存在があり、心の奥の恐怖が少しだけ薄れる。
——それでも、痛みは消えない。
——でも、誰にも触れさせない。
その“守られる感覚”が、目黒を康二に依存させていくのだった。
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