テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
今日も今日とて💚💙
第十五話 ⌛️恋が整う三分間
亮平 side
今日も今日とて、三分を数える。
「最初は三分な。無理すんなよ」
サウナでは、翔太は少しだけ偉そうだ。
温度の話とか、
外気浴のタイミングとか。
やたら詳しい。
「呼吸、浅くするな」
先輩みたいな顔で言うくせに、俺の顔ばっかり見てる。
最近、仕事がうまくいかない。
帰る時間も遅くなり、気づけば翔太と話す時間も減っていた。
同じ家にいるのに、少しだけ遠い。
時計を見る。
整うまで、あと三分。
本当は、整いたいのは身体じゃない。
最近、ずっと噛み合ってなかった。
仕事の時間も、帰るタイミングも、触れる距離も。
「亮平、無理するなよ」
湯気の向こうから聞こえた声は、少しだけ強がっている。
無理してるの、俺のほうなのに。
「翔太こそ」
そう返すと、彼は少しだけ視線を逸らした。
その顔を見て、胸の奥がやわらぐ。
荒かった呼吸が、ゆっくり揃っていく。
隣にいるだけで、不思議と息が楽になる。
整うまで、あと一分。
外気浴の椅子に並んで座る。
夜風が、濡れた肌を冷ます。
「整った?」
そう聞かれて、目を閉じたまま頷く。
「うん。……やっと」
仕事のことじゃない。
距離のことだ。
少しの沈黙のあと、翔太の手が伸びてくる。
触れるだけかと思ったのに、指が絡む。
その瞬間、胸の奥がほどけた。
「最近、ちゃんと触ってなかった」
冗談みたいに言うけれど、
その声が少しだけ不安を含んでいるのを知っている。
だから、強く握り返した。
「じゃあ、今から取り戻す?」
肩が触れる。笑い合う。
ずれていた時間が、今この瞬間に戻ってくる。
整ったのは、身体じゃない。
恋が整う三分前。
それはきっと、好きだと確かめ直す時間。
翔太の隣で、息が揃う時間。
翔太の手は、もう離れない。
夜風が、思ったより冷たい。
濡れた髪の先から、ぽたりと水が落ちる。
肌の熱が、ゆっくり逃げていく。
翔太は平気そうなのに、
俺の腕にはまだ汗が残っている。
思わず肩を窄めた俺を、横目で監視する翔太。
「……っくし」
小さなくしゃみ。
ほんの一度だけ。
「大丈夫?」
翔太が、すぐにこっちを見る。
「平気。外気浴、ちょっと長かったかも」
そう言って笑う。
本当に大したことはない。
でも。
翔太の指先が、わずかに強くなる。
「タオル、ちゃんと被っとけばよかったのに」
ぼそり。
怒っているわけじゃない。
でも、その声は少しだけ真剣だ。
「サウナで風邪とか、ダサいでしょ」
冗談で言うと、翔太は笑わない。
代わりに、濡れた髪にタオルをかける。
踵を上げて、俺の髪を拭く。
背が足りない。
必死に腕を伸ばして、
タオルをぐいぐい動かしてくる。
少し危なっかしい。
その様子が、妙に可愛い。
肩に置いた翔太の手は、いつもより熱い。
額には汗が光って、色っぽい。
……少しだけ、腰を屈める。
届きやすいように。
いや。
本当は、違う。
目を閉じる。
その瞬間、
肩に置いた手に力がこもった。
薄く目を開けて覗くと、
翔太は恥ずかしそうに頬を赤らめていた。
「ほら早く――風邪ひいちゃう」
ハッとした顔をして、左右を急いで確認した翔太は
小鳥のように、チュッと優しく唇に触れた。
「それだけなの?――残念」
離れていく距離に、慌てて俺の首に腕を回した翔太は、 再び踵を上げて背伸びすると、 上唇を食むように唇を押し当てた。
リップ音を響かせ離れると、俺の胸に頰を寄せて抱き付いた。
「スマイルチャージ」
「可愛すぎでしょ」
心も身体も、愛も整って、夜道を歩く道すがら――
肌寒さに。腕をさすりながら出たくしゃみに、怪訝そうな顔をした翔太。
「油断、大敵」
小さく頷いたその横顔は、さっきより少しだけ硬い。
俺はその理由を、まだ知らない。
コメント
2件
次が楽しみ💙
