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*****


「いい伯父さんたちだな」

帰る途中、雄大さんが言った。

昨日の大雨が嘘のように晴れ晴れとした青空で、時折吹く風が心地よい。

車で送ってくれると言われたけれど、少し歩きたいからと断った。

どちらからともなく、私たちは手を繋いでいた。

「ちょっと意外だった」

「何が?」

「私に辛い思いをさせたくない……って」

「どうして?」

「だって……。親戚とは言っても血の繋がりはないし、片手で数えるほどしか会ったこともないから……」

繋いだ手に力がこもる。

「ちょっと寄っていくか」と言って、雄大さんが公園を指さした。

私たちはベンチに座った。

少し離れた遊具では、幼稚園児くらいの子供たちが遊んでいる。近くのベンチに座っている母親が、ブランコを力いっぱい漕ぐ子供に気を付けるよう言っていた。

「俺があの子たちくらいの頃は、母さんはまだ専業主婦だったんだ」

雄大さんが子供たちを見て、言った。

「父方の祖父さんが都議会議員で、父さんはその地盤を継いで今の立場まで上ったんだ。祖父さんの議員仲間の姪だった母さんと見合い結婚したんだけど、俺が小学生の頃までは母さんがああして公園に遊びに連れて行ってくれたし、参観日にも欠かさずに来てくれてた。けど、議員だった伯父さんの跡を継ぐはずの従兄が事故で亡くなって、教育委員会での勤務経験のある母さんに白羽の矢が立った」

子供の名前を呼ぶ声がしたと思ったら、子供の泣き声が響いた。ブランコに乗っていた男の子が、ブランコのそばで蹲って泣いている。勢い余って落ちたらしく、母親と一緒に遊んでいた友達が駆け寄る。

「それからは、姉さんが俺の母親代わりだった。とは言っても、姉さんは家事の才能が皆無で、家事は俺がやるようになったけど」

母親に頭を撫でられながら泣きじゃくっていた子供は、三分ほどでまたブランコを漕ぎ始めた。

逞しいな、と思った。

「両親は俺たちが眠ってから帰って来て、俺たちが起きる頃には出て行ってたし、何日も帰らないこともあってさ。金には不自由しなかったけど、俺と姉さんはそれを幸せだとは思えなかった」

過去を語る雄大さんの横顔が、寂しそうに見えた。

「長い間、俺たちを蔑ろにして仕事に没頭していたくせに、俺が自立した途端に跡を継いで欲しいと言って来たよ。今すぐではないが、今からそのつもりでいて欲しいって。俺はきっぱりと断った。それでも、事あるごとに女を紹介されたよ。政治家の妻にぴったりだって」


春日野さんも、その一人だったのだろうか。


伯父さまも、雄大さんが春日野さんと結婚することが、雄大さんのご両親にとって価値のあることだと言っていた。

付き合っていた当時は春日野さんにも結婚願望はなかったけれど、現在いまは違う。親都合とはいえ雄大さんとの結婚話が出たら、春日野さんは断らないと思う。


雄大さんのご両親が、あの写真を見たら——。


「実の親でもそんなもんだ。血の繋がりがなくても、数回しか会ったことがなくても、純粋に自分の幸せを願ってくれる人がいて羨ましいよ」

そう言って微笑む雄大さんが、寂しさを我慢する子供のように見えた。


抱きしめたい——。


「俺はずっと、持て余すくらいなら子供はもたない方がいいと思ってた。けど、もし子供をもったら、全力で幸せにしたいとも思ってる」

「雄大さん、すっごい親バカになりそう」

容易に想像できる。

過保護になり過ぎて娘にうざがられる姿。

思わず、吹き出しそうになる。

「何笑ってんだよ」

「だって……」

「俺がすっごい親バカにならないように、お前が見張っててくれよ」


え——?


「何、そのアホ面」と言って、雄大さんが呆けた私の鼻をつまむ。

「俺の子供の母親は、お前だろ」


私が雄大さんの子供の母親——?


突然、強い風が吹き、髪で視界が遮られた。

「なあ、馨。俺の子供を産んでくれよ」

雄大さんの指が、私の顔に張り付いた髪をすく。

「今更だけどさ……」

私の目に映る雄大さんは、とても穏やかに、少し照れ臭そうに笑っていた。


「俺と結婚してください——」


桜のこと、黛のこと、立波リゾートのこと。

今、この瞬間だけは全てを忘れた。

ただ、感情のままに、私は雄大さんの胸に飛び込んだ。

「はい……!」

公園で遊ぶ子供たちと母親の視線など、忘れていた。

嬉しくて、幸せで、この瞬間に地球が滅んでも悔いはないとさえ、思った。

共犯者〜報酬はお前〜

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