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翌日。
日本と空は、久しぶりに少しだけ距離を取って登校した。
「日本、今日は教室で別々に座ろう」
「……いいよ」
日本は少しだけ不安そうに笑った。けれど、心のどこかで「これでいいんだ」と思いたかった。
(ちゃんと、自分の足で歩くって、こういうことやろ……?)
でも、教室の中は思ったよりも静かで冷たい。
クラスメートたちは、日本に一瞬だけ視線を投げたが、すぐに逸らした。
(ああ、僕は……)
ぽつん、と教室の真ん中で、一人だけ切り離されたみたいだった。
その時、廊下から走ってきた空が、教室のドアを思いっきり開けた。
「日本隣、座ってええ?」
周りの生徒たちがざわめく。
日本は、ゆっくりとうなずいた。
(まだ……無理かもしれない。でも……)
「空さん、一緒にいてくれてありがとう」
「日本も、僕も一緒にいてくれてありがとう」
教室の空気は、ほんの少しだけ変わった。
放課後。
家に帰ると、陸と海が待っていた。
「日本、今日もちゃんと行けたんだな」
「うん、空さんと……少しずつ、ですけど」
陸はゆっくりとうなずいた。
「……なあ、日本。俺らは、ずっと“家族”だ」
「……家族」
「もし、兄弟じゃなくても、お前のこと、守りたいって思う」
海が静かに言った。
「それが、俺らの……本音だ」
日本は少し黙ってから、ぽつりと答える。
「ありがとう。でも、今は――」
「今は、まだ空さんが必要なんです」
「そうだね」
陸も海も、それ以上は何も言わなかった。
ただ、その沈黙が優しかった。
夜。
日本と空は、また一緒に布団に入っていた。
「空さん」
「なに?」
「これからは、“好き”ってちゃんと言葉にする」
「……うん、わかった」
「僕も言います」
「うん」
二人は、そっと手を繋いだ。
それは昔みたいな、しがみつくような手ではなかった。
(でもきっと、まだ完全には離れない)
(少しずつでいい。少しずつで)
日本は、そう思いながら目を閉じた。
――ふたりの歩幅で、境界線の外側へ。