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朝。
日本はゆっくりと目を覚ました。隣には、まだ静かに眠る空の寝顔。
(……空さんとこうして並んで寝るの、当たり前みたいだけど、本当は奇跡かも)
ゆっくりと指を絡めて、そっと握りしめる。
空のまつ毛が震え、ゆっくり目を開いた。
「……おはよう、日本」
「おはよう、日本」
何でもない、けれど大切な朝。
家のリビングでは、陸と海がコーヒーを飲んでいた。
「空、最近落ち着いたな」
「……あいつ、日本が他の誰かと歩くこと、本当に許せるのか?」
海がぽつりと疑問を口にする。
「許せるようにならんとダメだろ」
陸はカップをテーブルに置いて、窓の外を見つめた。
「家族として。……いや、それ以上としても」
学校。
日本は、空と少し距離を取って教室に入ることに慣れ始めていた。
今日は空が「先に行って」と言った。
珍しかった。
(……どうしてだろ、ちょっと寂しい)
空が来るまで、ひとりで席に座っていると、ふいにクラスメートが話しかけてきた。
「最近、空と離れとるんやな」
「……うん、まあ」
「なんか、ちょっと……羨ましい。ずっと空くんに守られてたんだしな」
その言葉に、日本は微笑んだ。
「守られてただけじゃない。俺も、守りたいから」
そう言えた自分が、少しだけ誇らしかった。
放課後。
空と一緒に帰る道。
「日本、今日……少しでも寂しかった?」
「はい、寂しかったです」
「ふふ、ちゃんと言えたね」
空が嬉しそうに笑った。
「じゃあ、明日も……少しだけ、離れよっか」
「はい」
ふたりは約束した。
終わりのない、小さな約束を。
でも、それは確かに、ふたりの新しい一歩だった。
夜。
日本は陸に声をかけた。
「父さん、また……一緒に遊びに行きましょ」
陸は驚いたように笑った。
「あぁ、いつでもいいぞ」
少しずつ、少しずつ。
日本の世界は、空だけじゃない場所にも広がり始めていた。
――でも、それでも空は、やっぱり特別だった。
(俺にとって、空は……“帰る場所”なんだ)
「空さん、明日も一緒に歩きましょ」
「うん、日本」
優しく繋いだ手は、もうお互いを縛るためのものじゃなかった。
――ふたりの物語は、これからも続いていく。
(完結)