コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
潜入から2ヶ月半ほど経ち、主人の悪事が完全な黒と確定した。
「(まさか、あんな気持ちの悪いことをしていたなんて…)」
奴は気に入った執事やメイドに近付く。
労いの言葉をかけたり、慰労の品を送ったりとして徐々に距離を詰めていく。
普通の人ならまずは恐縮して断るが、あいつは彼等に特別だと囁き、自分のその見た目も利用してまんまと懐へ入れ込む。
そのあとは薬やらを使い、彼等を玩具にするようにして好き勝手する。
それこそ非人道的な拷問のようなことであったり、口に出すのも憚られるようなことをしていたり。
彼等がヒトとして使い物にならなくなったら、裏の人間に処理を頼む。
そして証拠も全て消し去るのだ。
奴の単独行動。
だから、ここに住む者たちは何も知らない。
人当たりの良い若い主人の言うことを信じ切って、彼等が別のところにまた雇われていったと言う嘘を信じている。
そして彼等の親、友人、恋人には他のところに行くと言って急に辞めてしまって行方が知れない、と真っ赤な嘘をつく。
ちょっとした矛盾はあのよく回る頭と口でうまいこと丸め込み、いかにも同情し悲しんでいます、と親しい人たちまでもを騙すのだ。
そんな中でも、やはり疑いを持った人たちもいる。
そんな人たちが俺らに依頼をしてきたのだ。
真実を知りたいと、どんな結果であってもいいのかとクロノアさんは問いかけていた。
彼等はそれに承諾していた。
…きっと、もうこの世にいないということが分かっているのだろう。
「……よし」
ここにもう用はない。
あとはぺいんとたちが片付けるだけだ。
奴を社会的にもその存在自体も消し去る。
それが彼等の望みだから。
「……」
深夜。
窓の外には青白く輝く月が出ていた。
皆が寝静まっている。
あと数刻で俺はここを出る。
よくしてくれていた執事長やメイドたちには申し訳ないが。
ただ、あんな外道のもとで何も知らず働かされているのが許せなかった。
それに早くしなければ次の犠牲者を出してしまう。
「……」
最後にもう一度、屋敷内の構造を把握をしておこうと足音を立てずに歩く。
「…?」
把握し切っていたはずだが、見覚えのない扉が奥にあった。
「?、ここには絵画があった気が…」
そこには縦長の絵画が飾ってあり。
掃除をするフリをして色々触ってみたが何も変化はなく、ただの絵かとスルーしていた。
「…本人でなければ動かせないようになってたのか」
きちんと調べるべきだったと小さく舌打ちする。
最後の最後でやらかすなんて、とんだ腑抜けだ。
「……」
近付けば地下に繋がっているのか扉の隙間からはひんやりとした空気が流れ出ていた。
それをそっと開ければ下に続く階段があった。
「おいおい…この屋敷に地下があるなんて聞いてねぇぞ…」
内部を確認する為にそっと中に入る。
そこは更に冷えていて、その肌寒さに身震いをした。
「…階段、降りるか」
正直、深追いはしないほうがいいと本能が警告していた。
しかし、行かなければならないという思いもあった。
「確認したら、戻ろう」
長い階段を下っていく。
足音に気をつけながら、人の気配にも細心の注意を払いながら。
「……」
下はもっと寒かった。
薄着の執事服では防げないくらいの寒さに腕をさする。
階段を下った先にはまた扉が一つあるだけだった。
「……なんだ、ここは」
ドアノブに手をかけるとあっさりとそれは回り、扉はゆっくり開いた。
中を窺い、気配を殺して中に入った。
暗いそこは真冬のように寒く、暗闇には似つかわしくないほどに花の匂いに満ちていた。
そして、隠しきれていない微かな腐敗臭。
「っ、…」
ハンカチで口と鼻を塞ぐ。
暗さに目が慣れてきて、手探りで扉のそばにあったスイッチを点けた。
眩しさに一瞬目を閉じ、次に開けた時に衝撃を受けた。
「、な…っ、これ、は…」
そこには様々な美しい花に囲まれた消されたと思っていた彼等がいた。
既視感のあるそれ。
俺はこれを知っている。
「!、ぅぐ…っ」
色々な感情で吐き気を催しハンカチで口をぎゅっと押さえる。
蝋人形のように白くなった彼等は綺麗な執事服やメイド服を着せられ、座らされていたり固定され立たされていた。
その表情は歪な笑顔であった。
「こ、んな…」
ざりっと後退り何かにぶつかった。
「見ちゃったね」
「⁈、」
慌てて振り返り距離を取る。
「コソコソ嗅ぎ回ってるなって思ってたけど、やっぱりキミだったんだね」
「お、まえ…っ!」
「キミのことはすごく気に入ってたから殺さないであげたのに。まぁ、生きたまま僕のコレクションの一つにしようと思ってたんだけど…中々警戒心強いし、出したものには口をつけないから苦労したよ」
「…は…?」
ぐらりとあの時のような眩暈に襲われる。
「な、ん…?」
「ハンカチで咄嗟に覆ったのは賢明な判断だ。だけど、これは耐性のある人だとしても少しでも吸うと気絶させることができるガスが満ちている」
花の匂いと腐敗臭で気付かなかった。
こんな特殊な場面に立ち会ったことないから虚をつかれてしまった。
「っ、くそ…」
「まだ意識保ててるの?すごいね、キミ。……何してもよさそうだ」
にやりと気味悪く笑うその顔と何かを持って振り上げられた腕を見たのが最後の記憶だ。
頭に衝撃がはしり俺の目の前は真っ暗になった。