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「あ、あなたが黒宮、仁……さん」
そう、たぶん当たっている。今朝、華ちゃんとの会話の中で出てきた容姿の特徴と酷似しすぎているから。
「ん? どうして俺の名前を知ってんだ?」
「や、やっぱり!!」
「は? 何が『やっぱり』なんだよ」
「いえ、ちょっと友達が言ってた人の特徴と似てたのでもしかしたらと思って」
華ちゃんが言っていた『悪く言ったり』ということに関しては言及しなかった。陰口を叩いていたと思われるのも嫌だったし、そもそも失礼極まりないから。
が、しかし。
「まあいい。どうせくだらない噂話でも聞いたんだろ。俺が悪い奴だとか何だとか」
う……鋭い。でも黒宮さんの様子を見ていると、あまりにも平然としすぎている。もしかして、そういう噂話にされることに慣れているのか?
な、なんとかフォローしなきゃ。
「あ、あの、黒也さん」
「あのな、お前。その呼び方はやめろ。呼び捨てにでもしろ。俺は『さん』」付けされるような人間じゃねえ。分かったかガマガエル」
「……はい」
ビンゴだったか。に、しても『さん』付けされるような人間じゃないとか、どうしてそこまで自分を卑下するのだろうか?
――まあいいや。
「じゃ、じゃあ呼ばせてもらいますね。おい、仁!」
「なんでいきなり下の名前で呼ぶんだよ。しかも『おい』とかタメ口で。お前、よく分からねえ奴だな。頭のぶっ壊れた奴だと思ったら、急にまともになったり」
いや、それは私のセリフなんだけど。意地の悪いことを言ったと思ったら、急に良い人みたいなことを言い出すし。
でも、不思議なんだよなあ。口がこれだけ悪いし無愛想なのに、何故か悪い人には思えない。むしろ、自転車でそのまま電柱にぶつかった
ん? 電柱? 自転車?
「あーー!! そうだ! 私の自転車!!」
すっかり忘れてた。ぶつかって転げた時にチラッと見たけど、なんか色んなところが折れたりしていたような記憶が……。
「それは気にするな。後で俺が処分しておく。フレームが完全に曲がってたから使い物にならねえ。修理の方が高くつく。それでいいよな?」
「はい……あ、ありがとうございます」
「礼なんていらねえ。いいから早く乗れ。それでしっかりと俺にしっかり掴まれ。時間がねえから飛ばすぞ」
「え!? じ、時間がない? どういう意味ですか?」
「説明するのが面倒くせー。黙って乗れ、ガマガエル」
さっきから人のことをガマガエル呼ばわりしやがってこの人は。さすがに限界だ。もうこの人に気を遣ったりしない。どうなっても知らないんだから!
「分かった! 分かりました! 黙ってます! この黒宮のクソ野郎!!」
「ふふっ。『黒宮のクソ野郎』ねえ。その呼び方、悪くねえな。それでいい。じゃあ思い切り飛ばすぞ! 振り落とされるなよガマガエル!」
「ギャアアーーーーー!!!!!」
速い! 速すぎる!! 飛ばすって言っても限度というものを知らないのかこの人は!! 怖すぎるんですけど!!
「も、もう少しゆっくり漕いでください!!」
「そんなの知るかよ! とにかく今は喋るな! 舌を噛むから黙ってしっかり掴まってろ!」
「そう言われても……ギャーーーー!! 無理! やっぱり無理!!」
――こうして、私は黒宮仁という一人の男性と出逢った。
そして、この時は思いもしなかった。
まさか、この人が私も知ってる『あの人』だっただなんて。
『第5話 黒宮のクソ野郎』
終わり