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リクエスト大丈夫ですか?
ジミンside
そのあと僕は少しずつ体力が回復して、ジン先生から1日外出の許可を貰った。だけど、気持ちは浮かなかった。どうせ車椅子だし、鼻チューブも付けて出掛けるって…一体どこに?ごはんも食べられないのに?
テヒョンは僕の外出を喜んで計画を立てようとしてくれていた。
「ねぇジミナ、今度の日曜日の外出、どこか行きたいところはある??」
「うーん、あんまり、思いつかないな…。僕、ごはんも食べられないし…。」
「…ジミナさ、もしかして、鼻チューブのこと気にしてるの?ジン先生に、外出の時取れるか訊いてみようか?」
「え、い、いいよ…。どうせダメって言われるに決まってる。チューブ取ったところで僕が口からごはん食べられるか分からないし、外で吐いちゃったりしてもテヒョンに迷惑かけちゃうし…」
「え?そんなの気にしてるの?訊いてみなきゃ分かんないじゃん。ちょっと待ってて。ジン先生に訊いてくる!!」
テヒョンは病室から勢いよく飛び出して行ってしまった。そしてすぐにまた戻ってくると、
「ジミナー!ジン先生が、外出の時鼻チューブ外していいって。交換のタイミングに合わせてくれるってよ。少しなら、口から食べてみてもいいし、勿論点滴も外していいってさ。良かったねー」
そう言って僕に抱きついてきた。
「やったーー!!」
「ねぇジミナ、どこに行きたいの?僕がどこにでも連れて行ってあげるよ!」
「うーんそうだなぁ。僕、映画館に行って、映画観ながらポップコーン食べたい。それから、ゲームセンターに行きたい。」
僕は久々にワクワクして、外出が楽しみになってきた。
いよいよ外出の日曜日。
朝ジン先生が病室に来て、まず鼻のチューブを抜いてくれた。久しぶりに鼻が通ってすごく爽快だ。息もしやすい。
「ジミナ、点滴外すけど、置き針は残しておいていい?そしたら次に点滴入れる時、刺し直さなくてすむから」
「う…うん…。」
置き針が刺さっていると、動く度に少しだけ痛いし痒い…。楽しみにしていた外出だったから本当は外したかったけど、刺し直しになるのも嫌だしもういいや…。
そう思って諦めようと思った時、テヒョンが助け舟を出してくれた。
「ジミナ…いいの…?ほんとは針、外したいんじゃない?」
「う…ん。できたら…。」
「そうかそうか、ジミンせっかくの外出だもんね!もちろんいいよ。全部外してすっきりしよう。」
ジン先生が、針を抜いてくれた。久しぶりに、管も針も何も付いてない状態。なんか、すごく身軽…。気分が全然違う。
「ジミナ、絶対に車椅子からは降りるなよ!食べるのも久しぶりなんだから、少しずつ、よく噛んで食べること。分かった?約束だよ。元気で夕方帰って来いよ!テヒョンよろしくな〜」
「もー分かってるよ!ジン先生心配しすぎなんだから…」
テヒョンが選んで家から持って来てくれた私服に着替える。黒の長袖カットソーに、ジーンズに、白いスニーカー。それから、僕のお気に入りのバケハ。
良かった、長袖だから注射跡も隠れる。不自由な左腕も、目立たないかも…。僕は内心ホッとした。テヒョンが着替えを手伝ってくれて、僕は車椅子に乗った。
病院の外に出るのは久しぶりだ。僕は期待と不安でいっぱいだった。
テヒョンが車椅子を押してくれて、歩いて駅まで行った。駅にはエレベーターが無かったから、駅員さんが3人がかりで車椅子ごと担いで階段を運んでくれる。
電車に乗る時も、ホームでスロープの板をつけてくれた。
駅員さんは優しかった。色々話しかけてくれて、テヒョンが「入院していて久しぶりの外出で…」と説明すると、駅員さんは「楽しんで来てね!帰りもホームで待っていて手伝うから、電車に乗る前に連絡してね」と言ってくれた。僕たちはお礼を行って、電車に乗り込んだ。
電車に乗ると、近くに座っていた5才ぐらいの男の子が僕を見て話しているのが聞こえてきた。
「オンマ〜あのお兄ちゃん、なんで大きいのに車椅子に乗ってるの?歩けないのー?なんか腕も曲がってる〜」
「シーっ。失礼でしょ。そんなこと言っちゃダメよ!」
その子のお母さんは慌てていた。周りの乗客の人たちも、こちらを気にしているのか分かる…。
わ…どうしよう…気まずい…左腕のことまで言われちゃった……(泣)。
ワクワクした楽しい気持ちは一瞬で萎んだ。僕は悲しくて、居た堪れなくなって、バケハを深くかぶり直し、俯いた。泣くのだけはダメだ…唇を噛んでこらえる。
するとその時、テヒョンがその子の所にすっと歩いて行き、その子の目の前にしゃがんで言った。
「このお兄ちゃんはね、お母さんのお腹の中にいる時病気になって、歩くと身体が疲れちゃうから車椅子に乗ってるんだよ。でも全く歩けないって訳じゃないんだ。手も、左手はあんまり動かないけど、右手はちゃんと動くんだよ。もし君の周りに同じように病気だったり、手や足が動かない人とか車椅子の人がいたら、優しくして、助けてあげて欲しいんだ。できるかな?」
「うん分かった!お兄ちゃん教えてくれて、ありがとう!」
「いい子だね〜」
そう言ってテヒョンは、その子の頭を撫でた。
僕は少し恥ずかしかったけど、テヒョンが見て見ぬふりをしないで僕のことをちゃんと説明してくれたことが嬉しかった。僕はいつも人目を気にして傷つくのが怖くて下を向いてしまうけど、テヒョンってすごい。僕もテヒョンみたいに、堂々と生きられたらいいんだけど…。
繁華街の駅に付くと、すごい人混みだった。テヒョンが人の波の中、一生懸命車椅子を操作してくれる。邪魔がられて舌打ちとかされたらどうしようと思ったけれど、通りを行く人はみんな優しくて自然に道を開けてくれて、僕はホッとした。
僕らは映画館に行き、2人で相談してキャラメルとバターのポップコーンを1つずつと、コーラのLサイズを1つ買った。僕が膝の上に載せて運ぶ。係員さんに車椅子用の席に案内してもらい、テヒョンも横の席に座った。
「テヒョンー楽しみだね。この映画、ずっと見たかったんだ!」
久々に食べるポップコーンは美味しくて、甘いのとしょっぱいのを交互に食べると、止まらない…。
「ジミナ、食べすぎじゃない?よーく噛んで食べるんだよ。分かった?」
「分かってる分かってる」
映画が終わると、お昼の時間だった。
「ジミナどうする?ごはん…食べれそう?」
「うん、僕、マクドナルド食べたいな〜」
「え?そんなジャンクなやつ…大丈夫かな?」
「大丈夫だよ。よく噛んで、少しずつ食べるから。もう入院食みたいなやつはこりごりなんだよー。食べたいよー。」
お店は混んでいたけど、テヒョンが車椅子で入れそうな席をみつけ、椅子をどかしてくれた。
「ジミナー今買ってくるからここで待っててね!」
一人で待っているのは、少し心細かった。周りは学生のグループばかり。ワイワイ騒いでいて、みんな楽しそう。僕はこういうお店に友達同士で来たことって一度もない。車椅子、恥ずかしいな…。自分が場違いな気がして、僕はバケハを深くかぶり、下を向いた。
だけど、テヒョンが買って来てくれたハンバーガーとポテトは、すごく美味しかった。吐いてしまったらどうしようと心配だったんだけど、よく噛んで時間をかけて、僕は全部を食べることができた。外で食べるごはんは美味しいな…。
その後、ゲームセンターに行った。僕は車でレースをするドライブゲームがしたかったんだけど、車椅子では出来ないよね…。他に、車椅子でもできるゲーム、あるかなぁ。諦めようとしたその時、テヒョンが僕の脇に手を入れて僕を持ち上げ、ゲーム機の椅子に座らせてくれた。
「え?ちょ、ちょっと…いいの?ジン先生車椅子から降りたらダメだって…」
「これぐらい、いいだろ?今ジミナ歩いてないから、車椅子乗ってるのと同じじゃん。」
テヒョンも隣の台に座り、対戦をする。僕は右手しか使えないから操作や運転は難しかったけど、それでもゲームは面白くて、すごく楽しかった。テヒョンには負けてしまったけどね…。
たっぷり遊んで、また電車に乗って、病院に戻って来た。僕の帰る場所は、ここなんだよね…。病室に入り、テヒョンが着替えを手伝ってくれる。
「ジミナ、右手あげれる?」
テヒョンは手際よく僕の洋服を脱がせると、入院着を着せて、紐をキュッと結んでくれた。それから僕の両肩をポンッと叩いて言った。
「ジミナー大丈夫?疲れてない?洋服持って帰って洗濯するね」
あーあ、なんだか魔法が解けて、現実に引き戻された気分…。これからまた点滴を刺して、鼻チューブ挿れるのか、嫌だな…(泣)。
その時、ジン先生が病室に様子を見に来てくれた。
「ジミナおかえり〜楽しかった?体調は大丈夫?息苦しくない?」
「大丈夫だよ。とっても楽しかった…」
「ちょっとだけ診察させて?お腹めくるよー」
ジン先生が熱を計り、胸の音を聞いてくれた。
「うん大丈夫そうだね。ジミナ、ごはんは食べれたの?」
「うん、ハンバーガーとポテト、全部食べちゃった…」
「え?ハンバーガー?ポテト!?そんなのよく食べれたなぁ。すごいじゃん。…そしたらとりあえず様子見で、鼻チューブはやめとこう。点滴も明日にしようね」
「ほ、ほんと…?今日はやらなくていいの?」
「いいよ。その代わりゆっくり休めよ〜。分かった?」
「ジミナ良かったねぇ。」
テヒョンは僕の頭を撫で、一緒に喜んでくれた。
「うん…。テヒョン、今日はありがとう。楽しかったよ。」
「俺も楽しかったー!またゲーセン行こうな!」
その夜僕は、本当に久しぶりに、ぐっすりと眠ることができた。