テラーノベル
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病室にアラーム音が響き渡った。
お医者さんや看護師さんがなだれ込んでくる。
体が熱い。
頭が痛い。
あぁ、また発熱したんだ。
病状が悪化すると熱が出る。
こういう時は怠くて苦しくて、眠ることすらできない。
せめて眠れたら、向こうの世界に行けるのに。
こんな体、早く死ねばいいんだ。
そうしたら、魂が向こうに行って、僕はずっとリンネで生きられる。
森の中や草原を自由に走り回って。
好きな物を食べて、好きな場所に住んで。
大好きな人に会える。
この体が死んでも、輪廻転生してリンネに生まれ変わりますように。
大好きな二人と一緒にいられますように。
頭の中に広がる光景と、願い。
(これ……前世の僕だ。前世の僕が、リンネの姿で跳ねまわってる?)
あの夢は楽しかった。
目覚めたくないくらい。
(また目覚めたら、病室なのかな)
今は長い夢の途中でしかなくて。
目が覚めたらまた、苦しくて辛い時間が始まるのかな。
(いやだ。起きたくない。いやなのに)
目覚めは否応なく襲い掛かる。
意識が戻って、瞼は勝手に持ち上がるんだ。
目を開いたら、最近見慣れた天井。
上質なシーツに掛け布団。
フワフワの枕があった。
「シュメリの、ベッド」
目を覚ました僕は、病院のベッドではなく。
シュメリのベッドで寝ていた。
(良かった。まだ夢の中みたいだ……)
そう思う自分に違和感があった。
(違う。これが現実だ……現実で、良いんだよね?)
現実? 夢? どっち?
ドンドンわからなくなるけど。
今の僕にとって、現実はリンネだ。
リンネとして、この世界で生きてるんだ。
「リンネ、目が覚めた?」
シュメリが隣にいた。
いつからいたんだろう。
気が付いたら僕はシュメリの手を握っていた。
「昨日、市を見ている途中で、倒れたんだ。熱があったんだよ」
シュメリの手が額に触れる。
「やっと下がってきたね。本当に良かった。回復魔法も効果が薄くて、本当に心配したんだ」
シュメリが僕の額にキスを落とした。
滲んだ魔力が、じわりと沁み込んだ。
「心配かけて、ごめん。風邪なのかな」
「そういうのとは、違うかもしれないね」
シュメリが眉を下げた。
「リンネ。私を思い出してとお願いしたことを、気にしているかい?」
「え……?」
そういえば、転生したばかりの頃は、思い出してほしいと言っていた。
それなのに、今は二人とも「思い出さなくていい」と言う。
「私は今のリンネも好きだ。だから、無理に思い出す必要はないんだよ」
「シュメリ、僕は……」
「私にとって大切なのは、今この瞬間、リンネが私の隣で生きている事実だ」
じわりと、目が潤んだ。
お股ポテト
29
はるにし
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そんな風に言ってくれるのは、嬉しい。
(だけど、シュメリ。僕は思い出したいんだよ)
バルトとの生活も。
シュメリとの約束も。
全部、取り戻したいんだ。
ムスクが言う通り、リスクがあるとしても。
本当は知りたいんだ。
(だけど、シュメリを泣かせたくないから)
僕は握った手を引き寄せた。
シュメリの手の甲にキスをする。
「シュメリが大切だよ。だから、シュメリが嫌がるなら僕は、何も思い出さない」
「リンネ……」
シュメリが、きゅっと唇を噛んだ。
「きっと、それは、リンネにとって正しい選択では、ないのだろうね」
「そんなことないよ。僕が良いと思えれば、良いんだよ」
シュメリが、目を見開く。
僕を抱き寄せて、胸に抱いた。
「私は君の、そういうところに惹かれたんだ」
シュメリの声が、実を持って響く。
ごめん、シュメリ。
僕は嘘を吐いた。
でも、シュメリを大切にしたい気持ちは、本当だから。
僕の記憶より、シュメリを大切にしたいんだ。
僕はシュメリを抱き返した。
「シュメリが一緒に寝てくれたら、熱が下がりそうな気がする」
体中、痛くて怠くて辛かった。
あの頃には戻りたくない。
この世界が夢ではありませんように。
「抱きしめているよ。リンネの熱が下がり切るまで」
シュメリの言葉に甘えて、その身体に抱き付いた。
シュメリの匂いがする。
シュメリの形がある。
それだけで安心できる。
放っておいたら体から魂がすり抜けそうで怖い。
くっ付いていたら、シュメリが抱き留めてくれるから。
だから、安心して眠れる。
「シュメリ……」
「ん?」
「好き……」
言葉にならない声を漏らして、シュメリが僕を抱きしめた。
何も言わず、強く強く抱いた。
(どうしたんだろう。当たり前のこと、言っただけなのに)
大好きな温もりに抱かれて、僕は安心して眠りについた。
コメント
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うわあ、第28話、胸にくるものがあった……。主人公が前世の自分を夢に見て「あの体が死んでもリンネに生まれ変われますように」って願うところ、切なくてぎゅっとなったよ。現実と夢の境界が曖昧になってる感じ、発熱の辛さがひしひし伝わってくる。でもシュメリが「今この瞬間、隣で生きている事実が大切」って言ってくれたのが本当に優しくて、その言葉に甘えて抱きつく主人公も可愛い。好きって伝えただけでシュメリが黙って強く抱きしめ返すところ、ああいう無言の愛情表現がたまらないな。体の熱より心の温かさが勝ってほしいって心から思ったよ。