テラーノベル
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目が覚めた時、ベッドにシュメリはいなかった。
少しだけ淋しい気持ちで目を擦る。
「シュメリ……」
僕がいっぱい寝ちゃったから、シュメリはお仕事に行っちゃったのかな。
枕の隣に、水色リボンのチョーカーが置いてあった。
「シュメリとバルトが、魔力を吹き込んでくれたんだ」
手に取って、リボンを撫でる。
結び目にキスをした。
着替えるとチョーカーを付けて、僕は部屋を出た。
洗面所に入る。
水で顔を洗うのは、まだちょっと苦手。
歯磨きは慣れてきた。
鏡の前で身だしなみを整える。
チョーカーの位置を調節する。
「うん、可愛い」
そういえば僕は、可愛いものとか格好良いものとか、好きだった。
そういうの、シュメリとバルトは覚えていてくれたんだ。
「水色は、空の色」
頭の中にまた、映像が流れた。
空が見える森の丘の上。
『あの雲、サンマみたいだよ』
『サンマとは、魚かい?』
『この世界には、いないのかな。僕がいた世界にはね、いたの。秋になると脂がのって美味しいんだ』
『なるほど、リンネの夢の話か。こことは違う世界の夢を見ているのだったね』
シュメリが楽しそうに笑う。
『夢じゃないのに』
僕は頬を膨らませた。
『でも、夢でいいかな。僕は、こっちの世界が本当のほうが嬉しいんだ』
草原に敷いた絨毯に、ゴロンと転がる。
フワフワで気持ちいい。
シュメリが同じように転がった。
『ここは本当の世界だよ。私もリンネも、ちゃんと存在する』
『うん、そうだね』
シュメリが僕の髪を指に絡める。
くすぐったくて、笑みがこぼれた。
『空の水色、綺麗。大好きな色!』
『リンネの瞳の色だね。私も、とても好きだよ』
『僕はシュメリの瞳も大好き』
誰にも似ていない、金色の瞳。
神々しくて、強くて優しい色だ。
『銀の髪も、金色の瞳も、シュメリはとても綺麗だね』
真っ黒な僕とは大違いだ。
『リンネの黒くて艶のある毛並みが、私は好きだよ』
僕の真っ黒な髪を撫でたり、指を絡めるのが、シュメリは好きだ。
猫の姿を撫でるのも好きだ。
『撫でてもらうの、大好き』
シュメリといられるこの時間が好き。
二人の時間は、二人だけの秘密。
だから、バルトにも内緒なんだ。
シュメリの手を握って、僕は水色の空を見上げた。
「だから、水色のリボン?」
鏡でリボンのチョーカーを見詰める。
白地の真ん中に水色が走るリボンは、まるで雲が浮かぶ空みたいだ。
「シュメリは、ちゃんと覚えてくれてる」
僕は水色のリボンを手で包んだ。
二人の魔力が温かい。
シュメリとバルトを感じられるリボンが、僕の宝物になった。
シュメリとバルトが出会う前に、僕はシュメリと出会ってた。
たくさんの思い出を作ってた。
(だから二人は、恋をしないの?)
小説のイベントは発生するのに、一向にシュメバルが始まらない。
仲良くなっているけど、三人で仲良くなっている気がする。
(シュメバルにならなくても、仲良しならいいのかな。それとも……)
僕がいなくなれば、いいのかな。
そう考えて、ぞくりと怖気が走った。
「いなく、なりたくない」
シュメリとバルトと三人でいたい。
僕はリボンを握り締めた。
コメント
1件
ああ、このエピソード、とても好きです……。リンネが一人で起きた朝の、ちょっと淋しいけど温かい気持ちがじんわり伝わってきました。特に、鏡の前で「うん、可愛い」って自分に言えるようになったのが、ほんとに愛おしい変化だなって。 シュメリとの思い出のシーンも、雲をサンマに例えるちょっと浮いた感じの会話が、「違う世界から来た」リンネらしくて、その空の水色が今のチョーカーに繋がる構成、美しかったです。 ただ最後の「いなくなればいいのかな」の一文で、胸がぎゅっとなりました。三人でいてほしい、その居場所がちゃんと在ってほしい、そう願わずにはいられない。霞花怜さんの、距離感と感情の揺れを描く優しい筆致が、また光っていました。 次話も、どうかリンネの居場所が揺らぎませんように。
お股ポテト
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はるにし
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