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夕方だったと思う。
空の色が、やけに中途半端で。
昼でも夜でもない、曖昧な色をしていた。
その下を、僕はただ歩いていた。
特別なことは何もなくて、
考えていたことも、きっと些細なことだったと思う。
明日のこととか、
仕事のこととか、
そんな、普段のこと。
音がした。
大きくて鈍い音。
でも、それが何の音だったのか、よく分からない。
気づいたときにはもう遅くて、
視界が大きく揺れて、
体が、浮いた。
特別何も思わなかった。
思えなかった。
耳鳴りがした気がした。
周りがやけに静かになった。
痛みはない。
ただ、ふと。
僕、死ぬんだ。
……ああ、そっか。
ただその一言だけだった。
気づくと、立っていた。
同じように、足で地面を踏んでいる。
同じように、呼吸もしている。
視界も、はっきりしている。
『……あれ』
さっきまでの場所じゃない。
景色も空気も何もかも違う。
目の前には、大きな屋敷。
広くて、静かで、
どこか張り詰めた気配がある。
でも、不思議と。
足が勝手に、その敷地へと踏み入れた。
……止めようとは、思わなかった。
入ったらまずい。
なんてのは思わなかった。
止まる理由も特に無かった。
敷地。
周りの砂利を踏み鳴らす。
その時、ふと思う。
『……ここ、どこだろ?』
遅れて、気づく。
さっき、自分は――
『……死んだはず、だよね』
なのに、こうしている。
体も動いて、息もして。
考え事だって出来る。
夢とも思えない。
現実感が、ありすぎる。
ただ一つだけ、分かることがある。
あの頃に戻れはしない。
それだけが、妙に確信できた。
静かな屋敷の奥から、気配がする。
人だ。
バレたらまずい。
こんなの、不法侵入も同然。
しかも、ここが何処かさえも分かっていない。
怪しいにも程がある。
隠れようと屋敷から離れようとするが、
じゃり。
逆に存在を主張するような足音が響く。
ぎしっ。
木の軋む音がして、そちらを向く。
そこに居る人物と目が合ってしまった。
「……誰………って…」
「何で君がこの時代に……?」
驚いた顔をしてた。
口元を裾で隠しながら。
姿形瓜二つ。
彼は、僕のご先祖様。
せいめい公だった。
「……何で君がこの時代に、ここに居るんだい?」
『……分かりません』
せいめい公の目がわずかに細くなる。
「分からないで、ここにいるのかい」
『気づいたら、ここにいちゃって……』
「………」
それ以上は追及されなかった。
せいめい公は僕に手招きを。
『おいで。』
『外は寒い。今なら誰も居ないよ。』
僕はせいめい公の手に合わせ、屋敷の中へ入った。
コメント
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うわあ、不思議な読後感……。「僕、死ぬんだ。……ああ、そっか。」のところ、すごく静かで淡々としてるのに、心にズンと響きました。痛みや恐怖よりも先に、ただ受け入れる感じが生々しくて。それから気づいたら見知らぬ屋敷に立ってるっていう、時間や場所がふわっと飛んだような感覚も、夢みたいで現実みたいで、引き込まれました。せいめい公が「君がこの時代に?」って言ったのがすごく気になる……続きが待ち遠しいです🌷