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「アックさん、早く!」
「早くって……ルティは女の子だぞ? いくら何でもそういう訳には行かないだろ」
普段はあまりそういう意識はしていない。しかし突然言われたせいか、思わず戸惑ってしまう。
「そういう感情は抜きにして、今は一刻を争うんですよ? さっさと上半身を脱がして、背中と腰の毒を吸ってください!!」
「――吸う!? お、おれがか?」
「他に誰がいるんですか? アックさんはルティちゃんのご主人様でしょう? 可愛い娘の処置をするのもご主人様の役目ですよ!」
「……そ、それなら、やるしかないのか」
苦しそうにしているルティはすぐに死ぬようには見えない。だが弱っているのは確かだ。そういう意味でも、恥ずかしさだとか変な感情はこの際消してしまうしかない。
おれはアクセリナに言われるがまま、ルティの服を少しずつ脱がし始めた――とはいえ、背中と腰の部分だけを少しだけめくる程度だ。
そうしてルティの患部を目の当たりにすると、
「……こ、これは――」
「やはり毒が全体に広がっていましたね。やじりが刺さった所は私が取り除きましたから、後はアックさんが直接してください」
「えーと、それはつまり直に口を付けて毒を吸えと……」
「そうです。早く!!」
「わ、分かりましたよ……」
こういう行為をすることになろうとは正直あり得ないと思っていた。いつもは不意打ちのように彼女からされたりしたが、これは何とも言えない気分。
「……ご主人様~お願い……します~ふぎぅ~」
「大丈夫だ。おれが何とかしてやる」
背中と腰には痛々しい傷に加えて、毒によって変色した肌が露出している。そこに手を触れるでもなく、口をつけた。
「んひぃ~……ご主人様ぁ~」
何をどうやればと考えるでもない。体内に侵入したであろう毒を、吸っては吐く動作を繰り返す。一時的ではあるが、吸った毒で自分の体が侵されていく感覚を味わう。しかしおれにはあらゆる弱体系の耐性が備わっていて、すぐにその毒は消え失せた。
(これを利用すれば、ルティも耐性を得られるのでは?)
そう思った時点でルティの傷口に息を吹き込んでみることにした。
「ちょ、ちょっと!? アックさん、人工呼吸じゃないんですよ!?」
「フーフー……」
「はひゃぁぁ~……ご主人様が入って来ますよぉぉぉ」
「ええええ? ルティちゃん?」
ふと、腰袋の魔石から熱を感じる気があり、気になったので息をある程度吹き込んだ後に魔石を取り出してみることに。魔石を手に取ってみると、ルティのステータスのようなものが表れる。
【ルティシア・テクス 耐性強化 自然治癒強化 Lv.–】
おれのスキルを与えられればと思ったが、耐性が強化されただけのようだ。息を吹きかけたことでスキルを付与したらしい。
「はへぇぇぇ。アクセリナさん~回復はもうお腹いっぱいです~!」
「傷口が完全に閉じちゃってる!? こんな短時間で?」
「はい~。アック様のおかげなんです~えへへ」
「アックさんの力って一体……」
回復士アクセリナが驚くよりも、おれ自身が一番驚いている。自分に備わっているスキルやら何やらは、今まで自分だけのものだと思っていた。それがまさか直に触れたりすることでルティに与えることが出来るとは。
今の時点で一体どれだけのことが出来るようになっているというのか。
「ごしゅ……わたしのアック様~!!」
回復したのか、ルティが満面の笑顔で駆けてくる。
「……ん?」
「アック様っ!」
「完全に治ったみたいだな、ルティ」
いつも以上に威勢がいい。
「はいっっ! アック様の愛の息吹のおかげなのですっ!」
「そ、それは何よりだが、何か変化を感じているか?」
「気のせいか、わたし成長したみたいです!!」
「……どういうところが?」
「体ですっ!」
――変な意味じゃないと思うが、誤解を招きそうな気が。だが、すでにアクセリナの表情が物語っていた。誤解も含めた上で、アクセリナは淡々とおれに問いかけてくる。
「あの、アックさんは盗賊見習いで魔法も使える。それで合っていますか?」
「一応そうなるかな」
「それ以外にスキルは?」
「……色々ですよ」
ルティの回復ぶりは尋常じゃない。そのことで普通じゃない奴に思われただろうか。
「やっぱり! あの人の見る目はさすがだった……そういうことなのですね?」
「ま、まぁ、ルティも元気になったことだし、砦の連中のことを考えようか?」
「そうですね。そうしないと先に進めそうには――」
「アック様、アック様!!」
「どうした?」
元気になった途端に騒ぎ出すとは。それがルティのいい所でもあるが、大げさにする悪い癖でもある。
「さっきから湖がボコボコ動いています! わたしのカンでは、何かいるような気がするです」
ルティの治癒で気にしていなかったが湖は魔物の棲み処。彼女が元気になったとはいえ、ここは無理をさせないようにしておく。
「分かった。それなら、ルティとアクセリナ! 君らは後ろに下がっててくれ!!」